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なぜ、味の素「白米どうぞ」は220万食も売れたのか?糖質をケアしていても食べられる〝夢の白米〟が商品化するまでの苦節9年

2025.07.15

■連載/ヒット商品開発秘話

健康上の理由から糖質コントロールをしなければならず、白米を食べなくなったり食べる量を控えるようになったりした人は多い。いま、糖質コントロールをしている人たちが安心して白米を食べられるようにする商品が注目を集めている。味の素の炊飯器専用調味料『白米どうぞ』のことだ。

2024年3月に発売され『白米どうぞ』は、白米のおいしさはそのままに、糖の吸収が穏やかになるご飯を炊けるようにしたもの。白米を炊く時にサッと入れるだけで、味を損なうことなく糖の吸収が穏やかになるご飯を炊くことができる。当初は同社のオンラインショップのみでの販売だったが、2025年2月から全国の小売店でも販売を開始。これまでの販売数は220万食を超える(1合=2食で換算)。

炊飯器専用調味料『白米どうぞ』。白米を炊く時にサッと入れるだけで、味を損なうことなく糖の吸収が穏やかになるご飯を炊くことができる。写真はトライアル向けの1合分スティック7本入り。白米1合に対し1本投入する

酵素の力でGI値を下げ糖の吸収を穏やかにする

技術開発に7年、製品化に2年と誕生までに実に9年の時間を要した『白米どうぞ』。糖の吸収を穏やかにする白米が炊けるのは、酵素の力により白米のでんぷんが消化されにくい構造に変化するためだ。食品の糖質の消化吸収のされやすさを示すGI値が玄米と同程度にまで低下する。

通常炊飯した白米と『白米どうぞ』と一緒に炊いた白米のGI値の比較。『白米どうぞ』と一緒に白米を炊くと、GI値が79の玄米並みに下がる

「酵素の力でGI値を下げる技術の開発は非常に難しく、何回も失敗を繰り返した末に完成させました」

このように明かすのは、食品事業本部コンシューマーフーズ事業部新領域グループの竹澤拓也氏。酵素は複数種類を組み合わせた独自のものを採用したが、配合比率が1%でもずれると思った通りの効果を発揮しない。こうした事情も技術開発に7年もの時間を費やす一因になった。

味の素
食品事業本部コンシューマーフーズ事業部
新領域グループ
竹澤拓也氏

酵素がGI値を下げるのは、米に含まれるでんぷん同士のつながりに酵素が働きかけ、つながりを消したり新たなつながりをつくったりするなど消化酵素に強い分岐構造につくり変えるため。グルコースにまで分解・吸収される速度が遅くなる難消化性の構造に変えてしまう。分岐構造は立体的で複雑。複数種類の酵素を組み合わせたのも、酵素が作用しあって効果を高めることができるほか、でんぷんの立体構造が複雑にすることができるからであった。

酵素の作用メカニズム。でんぷん同士のつながりに酵素が働きかけてつながりを消したり新たなつながりをつくったりすることで、消化酵素に強い分岐構造につくり変える。図は平面的かつ平易に示したものだが、実際は立体的かつ複雑な構造になっている

コンセプト段階で確認できた、はっきりとした購入意向

酵素の力でGI値を下げる技術は具体的な用途を想定して開発されたものではなく、先に技術を完成させてから具体的な使い方を考えることにしたものだった。「研究開発部門から事業部にプレゼンされた当時は糖質オフが注目されていたことに加え、社内でもGI値のことを理解している人が少なかったことから、この技術を商品に生かす道筋が立たなかったところがありました」と明かす竹澤氏。既存商品のカテゴリーではこの技術の生かし方に悩むことから、竹澤氏がいる新領域グループで従来の枠に囚われない新規分野を開拓することにした。

製品化の糸口を探すため、相当数のインタビュー調査を実施。インタビューから糖質ケアをしている人本人ではなくその家族に着目することにした。竹澤氏は次のように振り返る。

「糖質ケアが必要な家族の食事をつくっている方に話を聞いた時のことです。『ご飯はどうされているのですか?』と尋ねたところ、炊飯器を2台使い、1台は普通に白米を炊き、もう1台は糖質ケアが必要な家族用のご飯を炊くのに使っているとのことでした。糖質ケアが必要な家族のご飯は飽きさせないよう、玄米、もち麦、雑穀、こんにゃく米などを日によって使い分けていました。おかずも気を使い、糖分が入らないようしていたほどです。糖質ケアが必要な家族とそうでない家族に分けて食事をつくることの負担があまりにも大きくなっていました」

このインタビュー調査の際、竹澤氏は『白米どうぞ』のようなコンセプトの商品があったらどうかを尋ねた。すると、答えは「どこで売っているんですか?今すぐ欲しいです」。これまで数々の商品コンセプト調査を実施してきた竹澤氏が経験したことがないほど、はっきりとした購入意向が確認できた。

同社は同じような境遇の家庭をさらに調査することにした。この過程で竹澤氏は新たな現実に気づく。それは次のようなものだった。

「子どもがまだ10代と若いある家庭の話を伺った時のことです。この家庭では糖質ケアが必要な人とそうでない人向けにご飯を炊き分けておらず、家族みんなで玄米やもち麦入りの白米を食べています。子どもは『白米を食べたい』と言うものの食べさせていないそうです。家族に糖質ケアが必要な人がいると、糖質ケアの必要がない育ち盛りの子どもが白米を食べる機会を失うこともあることに気づかされました」

竹澤氏は、酵素の力で白米のGI値を下げる技術を使えば、糖質ケアが必要な人もそうでない人も関係なく誰もが白米が食べられるようになることに手応えを得た。「味や栄養価が損なわれることがないので、同じ白米を食べながら糖質ケアが必要な人はケアができ、ケアが必要ではない人は普段通りの食事ができます。早くつくらなければ……という使命感に駆られました」と明かす。

専門家も一般生活者同様の高評価から『イケる!』と確信

医師や管理栄養士といった糖質ケアが必要な人の食事に関する専門知識を有している人たちにも話を聞いた。専門家が酵素の力で白米のGI値を下げる技術をどのように評価するのかを確かめるためだった。

ヒアリングしたところ、食事の指導で困っている側面も浮き彫りになった。竹澤氏は次のように話す。

「『言うことを聞いてくれない』『玄米やもち麦を提案しても、嫌いだからといって余裕で白米食べ続ける』『暴飲暴食を繰り返す人がいる』といった、提案を拒否したり指導に逆らったりする人がいました。提案できることが、玄米に変えるか白米の量を減らしてもち麦や雑穀を混ぜるぐらいしかないので、食事の指導で行き詰まっているところが見受けられました」

専門家へのヒアリングの際にも『白米どうぞ』のようなコンセプトについて尋ねると、「めちゃくちゃいいですね!」と評価された。「一般生活者とKOL(特定分野で強い影響力を持つ人。キー・オピニオン・リーダーの略)になるような専門家の言っていることがまったく一緒でしたので、『これはイケる!』と確信に近いものが得られました。必要としてくれている人は間違いなくいました」と竹澤氏は振り返る。

10年ぶりの白米で茶碗を持つ手が震えた

当初は自社のオンラインショップのみでしか販売しなかったのは、ターゲットが明確な商品のため必要とする人にしっかり届けたいという想いがあったからだった。「困っている人にまず届けたいという強い意思があったこと、店頭に置いているだけではなかなか気づいてもらえない可能性が高いことから、自社のオンラインショップ限定で発売することにしました」と竹澤氏は話す。

30合分袋。白米1合に対し小さじ2杯投入する。販売はオンラインショップ(味の素公式通販サイト『味の素ダイレクト』など)限定

予想外だったのは、発売直後から「売りたい」という小売店からのオファーが絶えなかったこと。通販専用商品に対し小売店が「売りたい」とオファーしてくることは滅多にない。小売店での販売は早ければ発売から2年後あたりと見込んでいたが、見込みよりも大幅に早く小売店での販売が始まることになった。

小売店が飛びついたのは、売れ行きが良かったからに他ならない。発売20日で5万食、2か月で15万食、半年で60万食、10か月で100万食と推移している。

とくにスタートダッシュが効いたが、その最大の理由は戦略PRの展開にある。糖質ケアをしているような人にデジタル広告でダイレクトに訴求するようにしたほか、管理栄養士にサンプリングを実施し、糖質ケアが必要な人向けの食事のことで相談に訪れた人に科学的な裏付けとともに商品を紹介できるよう支援した。

ユーザーの中には10年ぶりに白米を食べることができ、茶碗を持つ手が震えた人もいたという。ただ、こうした声が聞かれた一方、糖質ケアが必要な人で『白米どうぞ』のことを知らない人はまだ多い。認知度に課題が残っていることから、この3月からBSでテレビCMを流し始めるなどしている。

取材からわかった『白米どうぞ』のヒット要因3

1.固定概念の打破

糖質ケアが必要な人は白米を「食べてはいけないもの」と思い込んでいるところがあった。しかし、本当は白米を食べたいけど我慢、もしくは諦めていた。この消費者インサイトにたどり着き、味を落とすことなく糖の吸収を穏やかにすることで糖質ケアが必要な人たちにも白米を食べてもらえるようにした。

2.味が犠牲にならない

白米の糖質をカットするのではなく白米のGI値を玄米並みに下げて糖の吸収を穏やかにする。糖質をカットしないので味が損なわれない。だから続けやすいところがあった。

3.糖質ケアが必要な人以外にも喜ばれる

糖質ケアが必要な人がいる家庭では、家族にかかる負担が大きい。ご飯を健常者用の白米と糖質ケア用の玄米や雑穀米などに炊き分ける、あるいは育ち盛りの子どもも含む家族全員が糖質ケア用の玄米や雑穀米を食べる。このような糖質ケアが必要な本人以外の負担を軽減することができる。

現在、米不足とこれに伴う米価高騰が社会問題となっており、『白米どうぞ』の影響が懸念されたが、竹澤氏によれば影響はほぼなく、売れ行きは右肩上がりで推移している。しかし、米価高騰が解消される見通しはまだ立っていない。「負担なく使い続けられるよう企業努力を続けていきたいです」と言う竹澤氏の言葉に頼もしさを感じる。

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取材・文/大沢裕司

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