
人生100年時代とも言われるが、65歳までの雇用義務に加えて70歳までの就業確保努力義務が課される一方で、黒字企業による早期退職募集が相次ぐなどミドル・シニア層の雇用をめぐる対応に関心が集まっている。
経理や人材など組織の課題解決に向けた調査・研究などを行っているパーソル総合研究所は、「企業の60代社員の活用施策に関する調査」を実施して結果を発表した。
それによると企業の約4割が50代から60代の社員に「過剰感」を抱いているが、年齢基準による処遇の一律見直しや役割の縮小が意欲や生産性の低下を通じて、さらなる過剰感を招く悪循環になっている状況が浮き彫りになったという。
約4割が50代~60代正社員を「過剰/やや過剰」と回答
正社員の年代別の人材不足感
企業規模別・業種別50~60代正社員の人材過剰感
正社員の人材不足感については、企業全体としては労働力不足の傾向が強く6割超が人材不足を感じているという。年代別では20代から30代の社員に不足感が集中しており、50代~60代の社員に対しては、「やや過剰」、「過剰」と回答した企業が約4割になったという。
企業規模別では、大企業ほど50代~60代の人材過剰感が強いが、給与水準の高さや40代の人材層が比較的厚いことなどが影響していると思われる。業界別では、「医療、福祉」、「不動産、物品賃貸」、「生活関連サービス、娯楽」、「宿泊、飲食サービス」などでは50代~60代の過剰感は比較的弱いこともわかったという。
人材過剰感は「モチベーション」と「生産性」に起因
人材を過剰と感じる企業と適正と感じる企業を比較すると、50代と60代について、人材過剰の企業では「本人のモチベーションの低下」と「本人の生産性の低さ」に課題感を持つ企業が多く、特に50代の「本人の生産性の低さ」が目立ったという。50代~60代の人材過剰感は、職務と人材数の関係よりも本人のモチベーションや生産性、処遇水準の影響が大きいと思われる。
60代前半社員に「能力・経験の最大限発揮」を求める企業は約半数
50代後半の社員について67.0%の企業が「能力・経験の最大発揮」を期待していると回答したが、60代前半は51.6%、60代後半は42.7%にとどまったという。企業の約半数は、60代の社員に対して、能力・経験の最大発揮ではなく「本人にアサインされた範囲の仕事」に対してのコミットを求めているようだ。
60歳の処遇見直し時に9割が年収を下げていると回答
60歳または65歳で処遇を見直す企業では、処遇見直し時の年収変化で年収が下がる企業が8割から9割を占めたという。60歳、65歳ともに「30%程度下がる」が3割弱ともっとも多く、企業が年齢を基準に大幅な処遇変更をしている実態がわかった。
ちなみに年収額の見直し基準は、年齢によって一律とする企業は3割だった。こういった60歳での処遇見直し時における年収引き下げ幅が大きい企業は、50代後半や60代前半社員のモチベーション低下に課題を感じる割合が高いというデータもあるという。65歳での引き下げ幅が大きい企業では、60代前半や65歳以上社員のモチベーション低下に課題感を持つ傾向もみられたという。
年収低下幅が大きいほどモチベーション低下の課題が増大
60代前半社員に「能力・経験の最大限発揮」を求める企業では、求めない企業と比較して50代後半と60代前半の社員のモチベーション低下に課題を感じる割合が高かった。
年収の低下幅が大きいほどモチベーション低下に課題を持つ企業が増える傾向にあり、「能力・経験の最大限発揮」を期待しながら年収を下げる施策はモチベーション維持との間に矛盾があるといえるだろう。
ちなみに今後60代以上社員の年収を引き上げる予定があると回答した企業は22.4%で、「現在検討中」の企業を合わせると5割を超えており、60代の年収は改善方向にあるともいえる。
60歳時の年収低下率が小さい企業ほど、年収引き上げを予定・検討している企業が多く、引き上げを行わない企業との格差は拡大する傾向も予想される。
50代・60代は「半・現役」化から適材適所を再考
今回の調査を行ったパーソル総合研究所の藤井薫氏は、結果を受けて次のような提言をしている。
「企業の半数は60代前半社員に「能力・経験の最大発揮」を求めておらず、4割は年齢に応じて役割・責任を軽減している。同じ企業に継続勤務していても、企業にとって60代社員は50代以下の「現役」社員とはやや異なる「半・現役」的な位置付けだ。
正社員の14%を占めるこの「半・現役」に対して、年功処遇でもっとも高い給与水準にある50代の水準を維持することは難しく、多くの企業は60歳で処遇を見直し、給与を引き下げる。
しかし、年齢を基準とした引き下げはモチベーションを下げて生産性の低下を招く。60代活用の課題として職務の確保を挙げる企業は2割弱であり、主要な課題はモチベーションと生産性である。その低下がさらに人材過剰感を煽って「半・現役」的な60代人材観を強化するという悪循環が生まれている。
企業の50代後半社員に対する課題感も60代とほとんど変わらず、モチベーションと生産性が焦点だ。この年代は60歳での処遇見直しが目前に迫っており、昇進の余地も少ない。
昇進コースに乗り続ける少数の管理職を除けば、すでに「半・現役」に近い状態といえる。モチベーション低下も不思議ではなく、60代の問題は50代から始まっている。人材不足の折、正社員の4割を占める50代から60代の「半・現役」扱いは看過できない。
60代社員の多くは「担当者」として勤務することになり、「半・現役」扱いによるモチベーションや生産性の低下が懸念されるが、もともとは長年にわたり主要業務を担ってきた人材であり、能力・経験は60歳を境に失われるものではない。
人材不足への対応として、60代を「現役」目線で棚卸し、基幹戦力として「適所」適材に配置すること、年上部下のマネジメントも適切に行う必要がある。さらに画一的な年齢基準による処遇ではなく、職務・役割に応じた処遇により納得感を高めることが期待できる。
働き方は多様化しているが、60代ともなれば、昇進・昇格を目指す世代とは異なり、さまざまな理由からワークライフバランスも変化してくる。職務・役割の範囲内で能力・経験を発揮することは重要だが、それを超える貢献を期待するかどうかは個別の判断が求められる。企業と個人双方にとって、もっとも付加価値の高い能力・経験を適正な対価で、効率的・効果的に提供できる環境づくりが重要であり、働く場所や時間など多様なニーズに応じた選択肢の整備も欠かせない」
人材の効率的な活用については、企業の約6割が60代の正社員・継続雇用者の活用に課題を感じており、50代後半正社員の活用にも6割弱の企業が課題を感じているという結果になった。50代後半の正社員の活用がうまくいっていない企業は、60代社員の活用もうまくいっていない傾向があり、これは企業側も課題として対応していく必要がありそうだ。
調査概要
・構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合があります。
出典:「パーソル総合研究所」
構成/KUMU