
かつて「モノづくり大国」と呼ばれた日本の製造業は、「2025年の崖」といわれる老朽化した基幹システムの刷新やサプライチェーンの多元化・強靭化などの重要課題もあるが、一方で国内市場が相対的に成熟化・縮小傾向へ進みつつあることも課題だという。
さらに新興国市場への対応強化やAI、IoT、ロボティクスの導入によるデジタル人材の育成など、新たな領域への挑戦が求められており、大きな転換期を迎えている。累計2万社450万人以上の組織開発・人材育成を支援するコンサルティング企業のALL DIFFERENT(オールディファレント)と「人と組織の未来創り」に関する調査・研究を行うラーニングイノベーション総合研究所は、2025年度入社の新入社員3933人を対象に「新入社員意識調査」を実施して、製造業の新入社員についての調査結果を発表した。デジタル人材の育成など新たな領域への挑戦が求められる日本の製造業では、若手社員にも変化に適応できる柔軟性や既存のやり方を打破する革新力が求められているが、当事者たちの意識はどうなっているかが浮き彫りになったという。
入社式を迎えて約3人にひとりが不安な気持ちだった
まず製造業の新入社員の特徴を調べるために、製造業の新入社員と製造業を除く他業種の新入社員の回答結果を比較する形式を採用し、2025年度の新入社員の入社時の気持ちを質問すると、製造業の新入社員は「不安」と回答した割合が35.5%でもっとも高く、他業種の新入社員より5.5ポイントも高かった。「不安」と回答した割合がトップだったが、不安な気持ちの内容については6割以上が「仕事についていけるか(仕事の難易度)」と回答していた。それに「生活リズムや社会人としての考え方の習得」(46.0%)や「社会人の基礎的なマナーの習得」(36.0%)といった回答が続いた。
約2割が内定時代に会社からのフォローを「何も受けていない」と回答
製造業の新入社員は他業種より不安な気持ちが強い傾向はあったが、内定時代に会社からどのようなフォローがあったかという質問では、「入社予定の会社での懇親会」と回答した割合が30.5%ともっとも高かったが、次に「事務連絡だけで何も受けていない」が22.2%と続いた。1位だった「入社予定の会社での懇親会」は、他業種より16.0ポイント低いが、2位の「事務連絡だけで何も受けていない」は他業種よりも11.9ポイントも高かった。製造業は、他業種と比較して内定時代の新入社員へのフォローが手薄という実態があったようだ。
入社理由トップの「志望業界だったから」は他業種より15ポイント以上低い結果に
新入社員が今の会社に入社を決めた理由については、「志望業界だったから」と「仕事内容が合っていたから」がどちらも23.6%でトップだった。「志望業界だったから」については、回答した割合が他業種より15.9ポイント低いことが特徴的だという。そのほかの特徴では、「福利厚生が充実していたから」や「勤務地が合っていたから」の項目が他業種より高かったようだ。
75.8%ができれば今の会社で働き続けたいと回答
製造業の新入社員は、今後どのように働いていきたいかについても特徴があった。現在の会社で働き続けたいかという質問では、「できれば今の会社で働き続けたい」と回答した割合は75.9%で、他業種よりも12.3ポイント高く、製造業は勤続意向の高い新入社員が多い傾向があったという。どんな状況なら今の会社で働き続けるかという条件では、65.9%が回答した「職場の人間関係が良い」がトップになった。2位は55.3%で「高い給与・賞与をもらえる」だった。「業績が安定している」は、他業種より5.7ポイント高い34.1%だった。
20代で他業種と比較してプライベート優先志向
20代の時間の使い方について、「仕事」と「プライベート」と「自己投資」の理想のバランスについて質問すると、「仕事とプライベート優先」と「プライベート優先」の割合が他業種よりも高く、2割以上が回答。製造業の新入社員は、プライベートの時間を大切にしたいと考える割合が高い特徴もみえた。
仕事で成し遂げたいことは「安定した生活を送りたい」がトップ
仕事を通して成し遂げたいことに関する質問では、「安定した生活を送りたい」と回答した割合が68.4%でトップだった。製造業の新入社員が仕事を通して成し遂げたいことについて、2019年度から7年間の各年度の新入社員の回答結果を比較すると、「安定した生活を送りたい」と回答する割合は6年前と比較して増加傾向があったという。「自分を成長させたい」と回答した割合は48.6%で、初めて半数に届かず過去最低だった。「社会に貢献したい」と回答した割合も2020年以降、下降傾向にあったという。
キャリアは半数以上が「志向なし」か「今後決めていく」と回答
将来、会社でどのような役割を担いたいかという質問では、「特にキャリアについての志向はなく、楽しく仕事をしていたい」と回答した割合が28.6%、「まだはっきりしておらず、今後決めていきたい」が25.5%だったが、どちらも他業種より高い結果になった。
さらに「専門性を極め、プロフェッショナルとしての道を進みたい(専門家)」、「組織を率いるリーダーとなり、マネージメントを行いたい(管理職)」と回答した割合は、他業種よりも低い結果だった。製造業の新入社員が会社で将来はどのような役割を担いたいかについて、2019年度から7年間の各年度の新入社員の回答結果を比較すると、「組織を率いるリーダーとなり、マネージメントを行いたい(管理職)」と「専門性を極め、プロフェッショナルとしての道を進みたい(専門家)」と回答した割合は、どちらも7年間で過去最低の結果だった。一方で「特にキャリアについての志向はなく、楽しく仕事をしていたい」は2年連続増加しており、過去最高の割合になった。
今回の調査では、製造業の新入社員は他業種の新入社員より入社後に不安を感じる割合が高く、今後の働き方では「今の会社で働き続けたい」と7割以上が回答しており、他業種よりも高い割合で勤続意向は高い傾向があった。20代のうちは「仕事とプライベート」や「プライベート」を重視し、仕事を通じて自己成長や社会貢献をするよりも安定的な生活基盤を築くことに主眼を置く人が多く、将来の役割についても「キャリア志向なし」、「今後決める」などの回答が7年間で最高の割合となったことも特徴といえるだろう。経営者や管理職は、こういった特徴を考えた育成やマネージメントを心がける必要がありそうだ。
「新入社員意識調査2025(業界別:製造業編)」概要
調査対象者:ALL DIFFERENTが提供する新入社員研修に参加した2025年入社の新入社員
調査時期:2025年3月25日~2025年4月24日
調査方法:Web・マークシート記入式、または自記式でのアンケート調査
サンプル数:3933人
属性項目:
・業種
農業、林業/8人(0.2%)
鉱業、採石業、砂利採取業/4人(0.1%)
建設業/245人(6.2%)
製造業/580人(14.7%)
電気・ガス・熱供給・水道業/59人(1.5%)
情報通信業/828人(21.1%)
運輸業、郵便業/85人(2.2%)
卸売業、小売業/262人(6.7%)
金融業、保険業 259人(6.6%)
不動産業、物品賃貸業/162人(4.1%)
学術研究、専門・技術サービス業/217人(5.5%)
宿泊業、飲食サービス業/34人(0.9%)
生活関連サービス業、娯楽業/95人(2.4%)
教育、学習支援業/38人(1.0%)
医療、福祉/61人(1.6%)
複合サービス事業/138人(3.5%)
サービス業(ほかに分類されないもの) /350人(8.9%)
公務/3人(0.1%)
そのほか/401人(10.2%)
分からない/101人(2.6%)
BLANK/3人(0.1%)
・企業規模
50人以下企業/201人(5.1%)
51人~100人企業/567人(14.4%)
101人~300人企業/1389人(35.3%)
301人~1000人企業/590人(15.0%)
1001人~5000人企業/660人(16.8%)
5001人以上企業/305人(7.8%)
わからない/217人(5.5%)
BLANK/4人(0.1%)
*各設問において読み取り時にエラーおよびブランクと判断されたものは欠損データとして分析の対象外
*構成比などの数値は小数点以下第二位を四捨五入しているため、合計値が100%とならない場合があります
出典:ラーニングイノベーション総合研究所「新入社員意識調査2025(業界別:製造業編)」
構成/KUMU