
MIXIが大型買収で岐路に立たされています。
オーストラリアでスポーツベッティング事業を手がけるポインツベットの買収に関して、株主総会で承認が得られていないかったことが判明したのです。MIXIは1株1.2オーストラリアドルでのTOBに切り替えると発表しました
このM&AはMIXIのスポーツ事業の世界展開を支える重要なもの。正念場に立たされました。
オーストラリアでの市場は6.6兆円
ポインツベットは、フットボールやクリケット、競馬、ドッグレースなどのスポーツ賭博を手がけている会社です。オーストラリアにおけるオンラインベッティング市場は6.6兆円で、ポインツベットは5%のシェアを握る業界4位。2024年6月期の売上高は前年のおよそ1.2倍に拡大しており、堅調に成長しています。
MIXIはもともと、この会社を非公開買収しようとしていました。そのためには、株主総会における一定数の承認を得ることなどが義務付けられています。ポインツベットは6月25日に承認を得られたと公表したものの、集計に誤りが生じていたことが判明。公開買付へと切り替えたのです。
多くの株主が買収に賛同しているため、成立の可能性は高いと見られているものの、予断は許さない状況となりました。
MIXIは国内の公営競技の投票サービスである「TIPSTAR」を運営しています。そのノウハウをポインツベットに横展開することで、シナジー効果を生み出そうとしていました。
足元では、「モンスターストライク」を主軸としたデジタルエンターテインメント事業(ゲーム事業)でやや苦戦を強いられています。2025年3月期は4.8%の減収でした。
一方、スポーツ事業は2割を超える増収。成長を加速するためにも、何としてでも買収を成立させたいでしょう。
スポーツに活路を見出だすメガベンチャー
MIXIがスポーツ事業を本格化したのは2019年でした。プロバスケットボールチーム「千葉ジェッツふなばし」の株式を取得。スポーツギフティングサービスも開始しています。そして、公営競技の投票サービスであるチャリ・ロトを買収しました。これが奏功します。
2020年に入ると、コロナ禍で三密を回避する動きが加速。競輪場などでは入場制限が行われるようになり、デジタル投票サービスの需要が加速しました。MIXIはチャリ・ロトを買収したその年に、自社サービス「TIPSTAR」も始めています。
2021年3月期のスポーツ事業の売上高は、前期のおよそ1.5倍となる126億円に急拡大。2025年3月期は402億円で、売上全体の1/4以上を占めるまでに成長しています。
実はこの公営競技の投票サービスはサイバーエージェントも手掛けています。「WINTICKET」です。2018年に運営する子会社を設立しました。当時、サイバーエージェントは「ABEMA」で苦戦を強いられており、メディア事業は四半期単体で50億円もの損失を出していました。
メディアとの相性が良いサービスとして「WINTICKET」を世に送り出し、コロナ禍という予想外の出来事に後押しされて急成長したのです。サイバーエージェントは今期、2四半期連続でメディア事業の黒字化に成功しています。収益改善の立役者が「WINTICKET」でした。
MIXIは2019年に畑違いとも言うべきスポーツ事業の強化に舵を切りましたが、競合の動きの中にその源流を見出すことができます。ディー·エヌ·エーです。2011年に「横浜ベイスターズ」を買収し、2016年に奇跡的な黒字化を達成しました。2017年にはバスケットボールチーム「川崎ブレイブサンダース」も傘下に収めています。ディー·エヌ·エーのスポーツ事業は堅調に成長を重ねており、2025年3月期は売上高が313億円を超えました。
MIXI、ディー・エヌ・エー、サイバーエージェントはモバイルゲーム全盛期を支え、急成長した会社。やがてディー・エヌ・エーはスポーツ事業を成長の礎とし、サイバーエージェントはメディア事業の展開という大胆な一手を打ちました。両社ともにゲーム以外の道を模索したのです。
MIXIはチャリ・ロトをベンチャーキャピタルのジャフコから取得しています。ジャフコがチャリ・ロトに出資したのが2015年12月。通常、エグジットと呼ばれる株式の売却は5年程度で行われます。MIXIへの譲渡は2019年であり、エグジットのタイミングでした。
競合の動向や投資ファンドの思惑、ゲーム事業への高い依存からの脱却など、MIXIのスポーツ事業への進出は、複雑な要素が交錯し、意志決定へと至った様子をうかがい知ることができます。
モンストの派生タイトルを展開するも失敗に終わる
一方で主力のゲーム事業は苦戦気味。
2019年3月期のMIXIのゲーム事業の売上高は1386億円ありました。2025年3月期は940億円まで減少しています。
「モンスターストライク」は底堅いファンに支えられているものの、減衰を留めるのは簡単ではありません。かつてはモンストIPを活用した派生タイトルを複数展開し、収益拡大を目指した時期もありました。しかし、期待する成果が得られずに撤退しています。
ポインツベットの買収はMIXIにとって正に“賭け”。買収を成立させることができるのか、そして傘下に収めた後に堅調な成長軌道に乗せることができるのか。MIXIにかつてないほどの注目が集まっています。
文/不破聡