
「応援」に特化するためあえて削った機能とは?
彼らの中にはもう「IoT機器を作らなくては」という気負いはなかった。人間とは何か、そんな深層から商品を作るのだ。中井は人間は弱い=『性弱説』に基づいて構想を練っていく。
「しかも大人は孤独で、勉強を強制されることもほぼありません。スキルアップや転職のため、あるいは自信を取り戻すためにテキストと向き合っている方の背中を押せる何かがあっていいですよね」
こうして2022年頃から『大人のやる気ペン』の構想が始まった。山形が説明する。
「我々は『しゅくだいやる気ペン』で培った習慣化メソッドを大人向けに拡張しようと考えました。例えば日々の勉強量をグラフ化すれば、学習の習慣化をチェックできますよね」
1週間の学習傾向に合わせて、頑張った時には褒め言葉が、サボった時には叱咤激励のメッセージが届く。それだけではない。
「勉強量に応じてすごろくが進んでいくと、ほかのユーザーが書いた勉強のコツや『私が勉強する理由』を知ることができます。自分が書き込めば、時に『いいね』が返ってきます。ただしSNSと違いそれ以上のコミュニケーションはとれません。やる気アップに特化すべきと考えたからです」
こうして2025年1月、『大人のやる気ペン』は、応援購入サービス「Makuake」で先行販売が開始された。すると、なんと目標金額の6910%という記録的な数字を叩き出すではないか。最初に作ったおもちゃのようなデバイスの小さな光は、保護者と子どもの関係を照らし、孤独に頑張る大人を照らし、苦汁をなめていた開発陣の未来も照らしたのだ。
最後、中井はこんな話をする。
「実は今も、ユーザーへのヒアリングを続けています。すると、生々しいことを聞かせてくださる方もいます。例えば最初は当たり障りなく『給料を上げるために勉強を~』といったお話をされていたのですが、40分ほど話すと心を開いてくれ『実は子どものころから勉強が苦手で悔しかったんです。見返したい』と仰った方がいました。
私は『カッコいい』と感じました。まっすぐ人生と向き合い、学び続ける大人って、本当にカッコいいじゃないですか」
学び続ける大人はカッコいい!

Makuakeで驚異の購入6910%達成
先行販売開始から7日間で2000台を販売し、3600人を超えるサポーター支援を受けた。購入者回答ではユーザー満足度84%を記録。

コクヨ『大人のやる気ペン』9900円
いつものペンに装着するだけ。努力を記録・分析し、学び続ける大人に寄り添う超小型軽量ラーニングデバイス。
〝書く〟行為を見つめ直し、ブランド哲学を深化
コクヨ『大人のやる気ペン』ヒットをひもとく挑戦者たちの足跡
前身の大ヒット商品を、別ターゲットへ見事に横展開させた。成功のポイントは3つ。
POINT 1|「一見便利そう」なIoT文具の開発をストップ
POINT 2|「20%ルール」「4コマ発想」でチーム活性化
POINT 3|学び続ける大人に寄り添う商品機能に特化
取材・文/夏目幸明 撮影/干川 修 編集/髙栁 惠
※本記事内に記載されている商品の価格は2025年5月31日時点のもので変更になる場合があります。ご了承ください。