〝学び続ける大人はカッコいい〟書くことに全幅の信頼を寄せて生まれたコクヨのIoT文具「大人のやる気ペン」
2025.07.21
【挑戦者たち〜ヒット商品が生まれた瞬間】コクヨ『大人のやる気ペン』──学び続ける大人はカッコいい。 「書く」ことに全幅の信頼を寄せて生まれたIoT文具
2度にわたるデジタル×アナログ事業の失敗。実感したブランドの哲学とは?
コクヨ『大人のやる気ペン』

ペンに取り付けることで勉強時間を可視化できるIoT文具。専用アプリと連携して学習の習慣化をサポート。9900円。
辞職もよぎる大失敗から学んだシンプルな教訓
2016年、コクヨの事業開発センターは子どもの勉強を見守るペンを商品化するための調査を開始した。『やる気ペン』シリーズの原型となる試作品も作った。筆記具にセンサーを装着し、動いていれば「勉強している」とわかるもので、共働きの親へのニーズを見込んだ。ところが開発陣は衝撃的なシーンを見た。開発を主導した中井信彦が話す。
「親子約30組に依頼し、子どもが家で勉強する様子を撮影してもらいました。すると、子どもが勉強を始めない、始めてもすぐ飽きてしまう、といった姿を見て、調査中であっても『集中しなさい!』『なんでいつも……』と怒ってしまう保護者が多くいたのです」
一見、便利なはずで、商品化も視野に入っていたが、中井らは「これは違う」と即断した。
「我々は気づいていました。文具とIoT技術をかけ合わせれば、目新しく、一見便利なものはできるでしょう。しかし本当に大切にすべきは『これを使ってお客様が幸せになるビジョン』なのです」
コクヨがIoT文具の開発に挑戦し『やる気ペン』シリーズに至るまでには長い失敗の歴史があった。最初の商品は2009年に出したテレビ会議システム。同社はオフィスの空間づくりを提案する事業もあるから親和性は高いはずだった。しかしコロナ禍前のタイミングでリモートワークの定着には早く、わずか4年で撤退。次の失敗はデジタルノートだった。
デジテル関連商品の開発部門のリーダーだった長司重明が話す。
「簡単に言えば、専用ペンとノートの下に敷くセンサーを使い、書いた内容をクラウドにアップできる、といった商品でした」
便利そうではないか? 今、ホワイトボードに何かを書くとクラウドにアップされ、文字がテキストとして認識される、といった商品が売れているはずだ。
「実はその『一見、便利そう』が落とし穴なのです。私たちは約2万円のデバイスをどんな人が買い、どう使うか、具体的な姿が描けていなかったのです。だから商品を販売してみると『面白そうだけど、私はいらない』といった評価が大半でした」

山形 潤(やまがた・じゅん/右)
経営企画本部イノベーションセンターIoT事業戦略ユニット。『やる気ペン』本体やアプリの製作を担当。
中井信彦(なかい・のぶひこ/中央)
経営企画本部イノベーションセンターIoT事業戦略ユニット。『やる気ペン』を発案、製品の開発を主導した。
長司重明(ちょうじ・しげあき/左)
ビジネス&エンプロイーパートナーHR部キャリア採用ユニット。同社のデジタル×アナログ事業の礎を築いた。