
企業にとってDXは、効率化と課題解消の施策として考えなければならないテーマだろう。日本でも欧米でもDX推進は加速しているが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、日本と米国とドイツの各企業のDXへの取り組みと成果、技術利活用、人材育成などを調査して、その結果をまとめた「DX動向2025」を公開した。
今回の調査では、米国・ドイツと比較して日本はDXの取り組み割合について傾向に大きな違いは見えなかったが、DXによる成果が日本は低くかったという。DXによる経営面の成果については、日本はコスト削減や製品提供日数削減に関する回答が多かったが、米国とドイツは利益や売上高の増加、市場シェア率や顧客満足度の向上の回答が多かったという。業務プロセス最適化の取り組み状況では、日本は個別の業務の最適化に取り組んでいる割合が高いが、米国とドイツは全社最適化に取り組んでいる割合が高かったという。日本のDXは、部分最適による業務効率化や生産性向上など“内向き“の取り組みを行っている傾向が見られたが、一方で米国とドイツのDXは、全体最適を志向して顧客・市場に価値を提供する“外向き”の取り組みを行う傾向が浮き彫りになったという。
日米のDXの取り組み状況は同程度だが方向性に違い
・DXへの取り組み状況(経年比較・国別)

日本のDXの取り組み状況は、米国とほぼ同程度といえるが、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」の割合はドイツよりも高かった。日本の経年比較では、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取り組んでいる」と「全社戦略に基づき、一部の部門において取り組んでいる」を合わせた割合は、2024年度は2022年度よりも増えているが、2023年度とほとんど変わらない頭打ちの傾向が見えたという。
日本の企業でDXの成果を感じているのは6割弱
・DXの取り組みの成果(経年比較・国別)

DXの取り組みで設定した目的に対する成果が出ているかを質問すると、米国とドイツは「成果が出ている」の割合が8割以上だったが、日本は6割弱と低い割合となった。「わからない」の割合も米国とドイツは5%から6%だったのに対して、日本は26.2%と大きな差があった。日本を経年比較でみるとDXの成果が出ている割合は一進一退の状況で、わからないという回答も増加傾向でDXの成果が測られていない課題もありそうだ。
日本・米国・ドイツで違う経営面でのDXの成果
・DXによる経営面の成果内容(国別)

DXによる経営面での成果について質問すると、日本は「コスト(人件費・材料費など)削減」や「製品・サービス等提供にかかる日数削減」など生産性向上や業務効率化のような内向きの取り組みの成果が多く挙がったという。一方の米国とドイツは、「売上高増加」、「利益増加」、「市場シェア向上」、「顧客満足度」などバリューアップを中心とした外向きの取り組みに関する成果が多く挙がったという。DXによって日本企業は内向き、米国とドイツは外向きの成果が出ていると評価しているようだ。
日本はDX成果の指標設定については3割以下
・成果指標の設定状況(国別)

DXの成果を把握するための指標を設定しているかという質問では、日本では「自社独自の指標」と「外部から提供されている指標」を合計した「設定している」と回答した割合は3割以下だった。米国とドイツはもとに8割以上は設定していると回答しており、DXの指標の設定では大きな差が浮き彫りになった。一方で業務プロセスの最適化に関する取り組み方針では、日本は個別の業務プロセスの最適化に取り組む割合が高く、米国とドイツは業務プロセスの全社最適化に取り組む割合が高かったという。
日本はDX人材の不足を感じている割合が8割以上
・DXを推進する人材の「量」の確保(経年変化・国別)

DXを推進する人材の「量」の確保状況については、日本は「やや不足している」と「大幅に不足している」の回答割合を合計すると8割を超えており、大半の企業がDXを推進するうえで人材が不足している状態と感じているようだ。これは2023年度調査と同様の傾向で、DXの人材を取り巻く状況に大きな変化はないといえそうだ。米国とドイツは、「やや過剰である」と「過不足はない」の回答割合の合計がそれぞれ7割と5割程度で、人材不足が日本ほど深刻な状態ではないようだ。
今後、企業にとって大きなカギを握るであろうDXだが、日本は外向きの推進と人材確保が重要なポイントになりそうだ。
「DX動向2025」概要
調査対象:事業会社の人事部門、情報システム部門、DX推進部門など
回収数:日本1535社、米国509社、ドイツ537社
調査実施期間:2025年2月10日~2025年3月28日
https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2025.html
構成/KUMU