
目次
こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチわかりやすい法律解説を目指しています。
女性部下が上司を罵倒。
「バカじゃない」
「もういい加減こんなことを言わせないでください」
「本部長なんだからやってくださいよ」
会社は女性部下に「けん責処分」を出したところ、女性部下がそれに納得できず提訴。
―― 裁判所さん、いかがですか?
裁判所
「けん責処分はOKだ!」
(東京地裁 R6.4.17)
けん責処分が認められるほどの罵倒とは何があったのか?以下、解説します。
※ 実際の判決を基に構成
※ 判決の本質を損なわないようフランクな会話に変換
※ 争いを一部抜粋して簡略化
登場人物
▼ 会社
電子計算機の販売や各種情報システムの調査研究などを行う会社
▼ Xさん(女性)
・管理本部に所属
・管理本部のメンバーは6名
・Xさんの上長はA本部長
どんな事件か
▼コンプライアンス窓口への通報
A本部長が就任してから、XさんのA本部長への風あたりがキツくなってきました。
それを聞いていられなくなった他の従業員がコンプライアンス窓口へ通報。
―― どんな通報をしたんですか?
従業員
「見るに堪えなくなりましたので報告に至りました。A本部長は着任して1年です。XさんはA本部長より社歴も長く年齢も上のベテラン女性社員です。A本部長の指示を聞かないどころか勝手に行動し、報告もしません。A本部長の上司としての適性を否定するようなメールを送信することもあります」
「A本部長が席を外した際には、フロア内に聞こえるようなボリュームでA本部長を罵倒しています」
「私を含め、従業員の気分が悪くなり業務に影響を与えています」
▼ヒアリング
会社が従業員にヒアリングすると
従業員
「Xさんの言っていることが100%間違っているというわけではなく、A本部長側にも経験不足だったり勉強不足だったり、甘いところもある」
「しかし!正しいことを言っているから、そのような言い方をしてもいいということにはならないと思う」
「Xさんの言動を見て激しい頭痛がした、私の能率にも影響している、職場環境が悪化している」
▼けん責処分
会社はXさんからも事情聴取などをした上で、Xさんに対してけん責処分を出しました。
処分を出すにあたって、会社はおおむね以下の事実を認定しています。
〈発言〉
・A本部長に対し、直接、強い口調で「もういい加減こんなことを言わせないでください」「本部長なんだからやってくださいよ」「これはどうするんですか、ここまで考えているんですか、ここまで考えないとだめなんですよ」と述べた。
・A本部長の不在時に、社員との間で、A本部長のことを「馬鹿じゃない」「おかしいんだよ」「なんでこんなことしないんだろうね、本当に馬鹿なんだから」「なんでなの」「全然ダメなんだよ」「それでやってじゃないんだよ、全然理解してないんだから」等のやり取りを行った。
〈メール送信〉
管理本部の社員が閲覧可能であるメールアドレスを宛先またはCCとして、下記のメールを送信しました。
・A本部長が安否確認ツールを使用した通知を昼休み中に送信したことにつき、「先ほど、安否確認でのお知らせがありましたが、これを一斉休憩である昼休みに発信された理由はなんでしょうか?」「今回は期間の延長以外に新たな情報は無いので、下記の様に参照先を記すだけで十分でした。そして緊急性が無いお知らせは、会社の休憩時間ではなく営業時間内に」「私が書いた、下記の質問についての回答にはなっていません」「社員への発信を、管理本部長(編注:A本部長、以下同)が任されたのでしたら、国が決めようが、ボード会議で決まろうが、社員の事を第一に考え、適切に判断をお願いします」
・在宅勤務等の件について言及した上で「管理本部長は問題が生じた時、仕事への影響を最小限にする方法を考え、実行できる人でないと務まらないと思います」「こんなこと、いちいち言わせないでください」
・ある件の更新につき、「更新するのですか?」「それなのに私にこの質問はおかしいのではないでしょうか?」
Xさんは、けん責処分に納得できずに提訴しました。