
最近、広告とPR(パブリックリレーションズ)の境界が曖昧になっています。
もしかしたら両者に大きな違いはないと考えている人もいるかもしれません。しかし、国内最大の広告会社・電通でクリエイティブディレクター/PRプランナーを務める加藤倫子さんは「広告とPRには明確な違いがある」と語ります。それぞれが担う役割とは?この記事では、加藤さんの考えを基に「広告」と「PR」の違いについて深掘りしていきます。
PRは「発表会」や「リリース」、「インフルエンサーマーケティング」ではない
「広告」と聞くと、テレビ広告、屋外広告、デジタル広告などを思い浮かべ、「PR」と聞くと、記者発表会やPRリリース、インフルエンサーマーケティングなどをイメージするでしょうか。その場合、もしかするとPRは広告の代替手段や補完手段、いずれにせよ多くの人にとって「形を変えた宣伝活動」と認識していてもおかしくありません。
しかし、加藤さんは「PRは単なる発表会やリリース、インフルエンサーマーケティングといった手段としてとらえるべきではない」と語ります。
「PRとは『Public Relations』。長い歴史の中で、その言葉が持つ意味が移り変わってきた特異な言葉でもあります。そのため、明確な定義をすべきではないのかもしれませんが、私自身はクリエイティブディレクターとしての視点から”企業が人や社会との関係を築くこと”だととらえています。アウトプットの『手段』にとらわれない、『あらゆるブランドアクションの形』がPRであると思っています」
加藤さんが携わったPR事例
2021年、ファミリーマートはオリジナルアパレルブランド「コンビニエンスウェア」を立ち上げました。「ラインソックス」含むソックス類の販売数は2025年2月末時点で2400万足を突破。年間売り上げは130億円を超えます。
そのファミリーマートが2023年11月30日、東京・国立代々木競技場 第二体育館にてコンビに業界初となるファッションショー「FamilyMart FEST.(ファミフェス)」を開催しました。
コンビニがファッションに本気で向き合いながらアパレルブランドを展開しているということをPRする手段として、ファッションショーを開催したのです。コンビニの枠に捉われないイベント(=ファッションショー)の開催は、同じく、既存のコンビにという枠に収まらない「アパレルブランドを展開する」というファミリーマートのチャレンジ精神を反映したものでした。その結果、ファミフェスはファッション雑誌や経済誌、新聞、テレビと様々なメディアで取り上げられ、また国内だけでなく世界中のメディアが報道をすることとなりました。
ファミリーマートの”本気”に応援や共感が集まったーー広告にはできないPRならではの強みが発揮された事例です。


他の事例として、ファミリーマートの「おうちでファミチキセット」という施策があります。
「ファミリーマートは2021年9月に創立40周年を迎えました。数々のキャンペーンを行なう中で、ファミリーマートから『食の安全・安心』をアピールできないかと電通に相談がありました。テレビCMや店内ポップなど『広告』としての解決策がある中で、私が考えたのが、『おうちでファミチキセット』という商品を発売することだったんです。ユーザーが自分でファミチキを作るという体験を提供しました。広告で『ファミチキは安全で安心です』と宣伝することよりも、ユーザーが自らその安全性を実感できる形で伝えられると感じたんです。ユーザーは楽しみながら、ファミチキへの理解を深めることができ、結果としてファミリーマートが目的としていた『食の安全・安心』をかんいてもらうことができました。このように、PRは伝えたいメッセージを生活者にどのように伝えるのかを考える活動なんです」

「広告」と「PR」、それぞれの価値
加藤さんは「広告とPRにはそれぞれ異なる魅力や価値がある」と語ります。
「PRは、社会や周囲との関係性の中で物事を捉えることをベースにしており、 本質を突く、“太いアイデア”であると思っています。一方で、広告は、“強さ”を持っていると思います。メディア戦略というバックグラウンドのもと、どんなに小さな特徴も見逃さず、表現の力でグリップする。その表現力を支えるクリエイターの思考やスキルに、深く尊敬しています。
そして、両者に共通して重要なのはクリエイティビティだと感じています。私自身、広告のクリエイティブ業務にも関わりますが、PRと広告どちらにおいても、“神は細部に宿る”と常々思います。PRとクリエイティビティの関係性はあまり語られることはありませんが、『どんな言葉が波及しやすいか?』『どんなビジュアルが記憶に残るか?』『どんな体験なら会話したくなるか?』『どうすれば多様な人を仲間にできるか?』など、全てクリエイティブな視点が必要です。
”太さ”と”強さ”は、それぞれ単独で力を発揮する場合もありますが、私は両者をクリエイティブに掛け合わせることで、より効果的なマーケティングやコミュニケーション可能になると考えています」
自社のPR戦略がうまくいかないとお困りの担当者は、加藤さんの語る「広告」と「PR」の違いをぜひ参考にしてほしい。

加藤 倫子さん
株式会社電通
クリエイティブディレクター、PRプランナー
入社以来一貫して企画·プランニングに従事。コミュニケーションデザイン育ち。PR思想でのファクトや具体的な活動作りを仕事の初手に、広告より手前のブランディングアクションを設計していくのが得意。出口のソリューションの手段は雑食で、マス広告からプロダクト開発まで様々。2025年から電通PR×CRユニットを始動。東京大学×電通 「企画の研究所」研究員。
取材・文/峯亮佑