
NVIDIA は、欧州の主要通信事業者と連携しながら、地域企業による生成 AI やエージェント型 AI の活用を支援するため、需要や特性に応じたインフラやサービスを構築している。
今回は同社の発表ブログをベースに、その概要をお伝えする。
NVIDIA GTC Paris にてOrange、Fastweb、Swisscom、Telefónica、Telenor との協業を発表
AI ファクトリはこれまでにない規模でインテリジェンスを生み出しており、経済成長とイノベーションを推進する大きな可能性を示している。しかし、各国がこのインテリジェンスを活用するためには、安全なソブリン AI インフラが必要だ。
現代のデジタル世界の基盤を形成する重要な接続インフラの担い手として、通信事業者は広範なインフラと世界中に広がるネットワークを持っているため、AI サービスの提供において他にはない強みを持っている。
NVIDIA テクノロジを搭載した通信事業者主導の AI ファクトリは 18 か所あり、現在 5 大陸で展開中だ。
2025年5月、VivaTech で開催された NVIDIA GTC Paris にて、NVIDIA は主要な通信会社である Orange、Fastweb、Swisscom、Telefónica、Telenor との協業を発表した。
本協業は、欧州全域でソブリン AI ファクトリとエッジ インフラの開発および拡大を目的としている。これにより、さまざまな業界で活躍する欧州企業が安全なアクセラレーテッド コンピューティング インフラを活用して、カスタマイズされた AI モデルやエージェント 型 AI サービスのトレーニングと展開を実現できるようになる。
NVIDIA のフルスタック技術により、通信事業者は従来の接続サービスを超えて AI as a Service(AIaaS)へ移行し、生成 AI とエージェント型 AI の採用が推進され、国全体で安全なソブリン AI インフラを使用して地域に最適化されたモデルを構築できる。
■Orange Business、欧州で信頼できる AI ソリューションを実現
欧州の主要な通信事業者である Orange Group の法人部門を担う Orange Business は、NVIDIA Cloud Partner プログラムに参加した。これにより、企業向けの高度なエージェント型 AI の開発、そして、あらゆる規模の企業が、生成 AI を安全かつ大規模に展開できるよう支援する革新的な Live Intelligence プラットフォームの強化が加速する。
これらの AI ソリューションでは、高性能な NVIDIA インフラ上に構築された Orange Business Cloud Avenue プラットフォームを活用している。
これにより、欧州全域の企業が Orange Business の Live Intelligence プラットフォームを通じて AI インフラにアクセス。カスタム AI モデルをトレーニングして、安全な生成 AI アプリケーションを展開できるようになる。
また、通信事業者には新たな収益源が創出され、従業員、顧客そして運用体験も変革していくはずだ。
また、Orange では自社業務にも AI を活用しており、現在 7 万 3 千人の従業員がこのソリューションを定期的に使用して、タスクの合理化に加えて、ソフトウェアを開発、サポート プロセスを自動化、意思決定を強化している。
これらのケースで Orange のソブリン AI インフラの恩恵を受けることとなり、フランスだけでなく、欧州およびアフリカ全域の従業員を支援しており、毎日 3 万件以上のリクエストを処理している。

■Telenor、ノルウェーの安全で持続可能な AI を主導
ノルウェー初のソブリン AI インフラを構築した Telenor は、社内チームと外部顧客の両方からの需要の高まりに対応するために、容量を大幅に増強すると発表した。
Telenor では、再生可能エネルギーのみで稼働し、余剰エネルギーを電力網に還元する新しい AI データ センターを追加することを計画しており、自国主導で、安全かつ持続可能な AI を開発するというノルウェーの使命を推進している。
Telenor の AI インフラは、その立ち上げ以来、公共部門、産業オートメーション、ローカル言語モデル向けのデジタル サービスを強化することで、ノルウェー全土における AI の導入を推進してきた。
Capgemini が開発した AI 搭載翻訳ツールである BabelSpeak のホスティングもその一環であり、およそ 100 言語でほぼリアルタイムで音声対音声(voice-to-voice)で多言語翻訳する機能を提供しており、現在ノルウェー赤十字社でパイロット運用されている。
Capgemini は、Telenor が NVIDIA と提携してノルウェー初の安全なソブリン AI クラウドサービス構築する際にも重要なパートナーの役目を果たした。
さらに、Telenor は、NVIDIA AI Enterprise ソフトウェアを統合することで、生成 AI およびエージェント型 AI アプリケーションの採用と展開を企業が高速化できるようにするとともに、ネットワーク自動化などの自社のイノベーションへの取り組みも推進している。
Telenor のグループ最高技術責任者代理である Cathal Kennedy 氏は次のように述べています。
「Telenor は、通信業界における AI 導入を先導しており、業務のほぼあらゆる側面でイノベーションを牽引しています。当社では、堅牢なインフラと高度な AI 機能を組み合わせることで、効率性と持続可能性を備えた新たな基準を確立し、インテリジェンスの生産をノルウェー国内に留められるようにしています」
■スイスの AI プラットフォームが企業を支援
Swisscom は最近、企業が AI エージェント型を迅速かつ安全に開発し、実行できるようにする、Swiss AI Platform 上に構築された新しいサービスである GenAI Studio を発表した。
同社はまた、AI 開発作業ハブとモデル カタログを立ち上げ、スイス全土の企業が複雑な AI プロジェクトの構築、モデルのカスタマイズ、エージェント型 AI の大規模かつ迅速な展開を実現。
新しいエンタープライズ AI サービスは、NVIDIA DGX SuperPOD 上に構築された Swisscom のソブリン AI ファクトリにホストされている。これにより、急速に拡大するスイスの AI サービスと推論に対する需要に対応すべく、迅速かつ容易に容量を拡張することが可能となり、同社の収益機会の拡大が期待されている。
■Telefónica、エッジでスペイン企業を強化
Telefónica は、スペイン全土に分散型エッジ AI インフラストラクチャを試験的に導入しており、データの生成やローカル AI 推論を必要とする場所へと高度なコンピューティングを近づけている。
同社は、エッジ AI ファブリックの一環として、数百基におよぶ数の NVIDIA GPU を導入する予定だ。これにより、AI サービスが低遅延で、信頼性と強力なプライバシー保護を備えた状態で提供されるようになり、信頼できる情報を国境内に確実に留めることができる。
このエッジ AI ソリューションには、NVIDIA AI Enterprise ソフトウェアと NVIDIA NIM マイクロサービスが組み込まれており、政府や金融サービスなどの主要業界向けに、安全で拡張性のあるエンタープライズ グレードの AI アプリケーションを実現する。
■Fastweb、新しい言語モデルでイタリアの革新を推進
Fastweb は、生成 AI アプリケーションをサポートする初のイタリア語言語モデルの 1 つとなる MIIA を構築し、NVIDIA DGX AI スーパーコンピューター上で学習および稼働している。
■NVIDIA 創業者/CEO ジェンスン フアン氏によるNVIDIA GTC パリの基調講演
関連情報
https://blogs.nvidia.com/blog/european-telcos-ai-factories/
構成/清水眞希