「静かな退職」が注目される背景

続いては「静かな退職」のキーワードについて。
――「静かな退職」が増えている背景は?
「『与えられた仕事のみやる』『指示されるまでやらない』社員というのは、もともとどの組織にも見られる行動傾向の一つとして認識されてきた側面があります。
それが『静かな退職者』という表現にインパクトがあるため、クローズアップされ、改めて問題視されていると考えています。
ただし、その背景には日本の企業が、社員一人当たりの労働生産性が低いという課題が社会問題化しているという点があります。
『静かな退職者』が自ら改善、提案、チャレンジする人材となれば、大きく組織の生産性を改善できるため、これからの日本経済の活性化のためにも改善する必要性があると考えています」
――中小企業にとって「静かな退職」はどんなデメリットが大きいですか?
「中小企業の生産性は大企業に対して約1/3しかありません。その最大の要因は属人化された仕事やマネジメントの進め方です。すでに仕組みが確立できていて高い生産性を誇る大企業で『静かな退職者』がいても、指示された仕事がすでに高い生産性を生み出す状態となっている可能性があります。
しかし、属人的な仕事が多い中小企業では、受け身や指示待ち社員が少数でもいると生産性の改善は見込めません。これが大きな問題です」
「指示待ち社員だらけ」の組織から抜け出すには

こうした人事トレンドを受け、中小企業は今後どのような方向に向かうべきか。
「中小企業が持続的な成長を遂げるためには、『組織文化そのものの転換』が求められます。それは、経営理念と成長戦略の明文化と共有・実践を通じたマネジメント構造の変革です。
こうした取り組みを通じて、リーダー層を含む社員一人ひとりが、自律的に考え動ける風土を育むことが、長期的なエンゲージメントと生産性の向上につながると考えています。
指示待ち社員だらけの組織が、成長意欲をもった人材の集団となるために、まず取り組むべきことは、経営理念の共有と社長が自社の成長計画を具体的に描くことからです。
99%以上を占める中小企業が抱える、日本の大きな社会課題だと考えています」
中小企業にとっては耳の痛いトレンドキーワード。むしろ成長のチャンスととらえ、戦略的に進んでいく必要がありそうだ。
調査出典:日本人事経営研究室株式会社「中小企業が抱える人事課題に関する意識調査」
取材・文/石原亜香利