土屋アンナさんの母・眞弓さんは決断に迷わない−〝自分を信じる〟という生き方

モデル・俳優・歌手・タレントとして活躍する土屋アンナさんの母であり、アンナさんが所属する事務所でマネジメントを担当する土屋眞弓さんは、2024年6月にステージ4の膵臓がんで余命1年～1年半と診断された。「死ぬつもりはまったくない」という土屋さんだが、「もしもの事態になったらのんびりしていられないぞ」と思うようになり、エッセイ本『人生、あれかこれか』を書くことにしたという。

着物と書道がライフワークで、22歳のときにアメリカ人と結婚、2人の娘の母となり、その後離婚、子育てをしながら会社を立ち上げて娘の活動をバックアップするなど、これまでの人生と病気との向き合い方を綴った本書を、四つの視点から紐解いてみたい。第一の視点は「生き方」だ。

とにかく試す、失敗したら別をやればいい

1958年、父の赴任先だった大阪で生まれ、両親が生まれ育った地である渋谷で育った土屋さん。物心ついてからは弱いものいじめをする人と戦い、自分が正しいと思ったことを貫き通す、強く逞しい人間として育ったという。今もその性格や生き方はまったく変わっておらず、本書に「何かあったときは、迷わず自分の責任で決めています」とあるので、おそらくこの気性は生来のものなのだろう。

そうした性格から導き出された「生きるヒント」もたくさん書かれている。中でも印象的だったのは「やってしまったこと」「起きてしまったこと」に文句を言っても何も始まらない、という考え方だ。もともと悩まないタイプで「とにかくやってみなきゃわからない、試してみないとわからない、試して失敗したら別をやればいい」と考える土屋さんは、起きてしまったこと、終わってしまったことに対して「ああすればよかった、こうしたらよかった」とこだわったところで元に戻るわけではないのだから、打開策を見つけたほうがよっぽど建設的、と思うようにしているそうだ。

そんな土屋さんの人生には結婚、渡米、離婚、詐欺、横領、そして病気……と難局が次々にやって来るが、その都度、前向きに、軽やかに、そして力強く対峙していく。

自分のことを「武士」と思う

これまでの人生は決断続きで、常に「あれかこれか」を突きつけられてきたと述懐する土屋さんだが、いつも決断は即決。じっとしていても時間は過ぎていくから先延ばしをせず、物事が悪化する前に決めること、その判断が間違えていたら後で修正すればいいと考える。そのためには「自分を信じる」ことが大切であることも、本書は教えてくれる。

そんな土屋さんは、自分のことを「武士」だと思っているという。矜持が高く、信義を重んじ、言ったことは守る、そして相身互い……そんな雰囲気が文章から感じ取れることだろう。江戸時代に著された武士道を論じた『葉隠』（山本常朝）には「武士道といふは、死ぬ事と見付けたり。」という有名な言葉（武士道を極めるためには、朝夕繰り返し死を覚悟することが必要であるということ。常に死を覚悟し、己の生死で判断するのではなく正しい決断をしなさい、という心構え）があるが、その中にはこんな言葉もある。

人間一生誠に纔（わずか）の事なり。好いた事をして暮らすべきなり。夢の間の世の中に、すかぬ事ばかりして苦を見て暮らすは愚なることなり。（山本常朝『葉隠』）

人間の一生はほんの僅かな時間だから、好きなことをしたほうがいい。嫌なことをやって苦しい思いをして生きていくのは、おろかである……土屋さんの人生は、まさにこの考えを実践しているのだろうと思わされた。もし本書を読んで「土屋さん、好き勝手に生きてるなぁ」と思ってしまった人は、もう少し自分のために自分の人生を生きるべきなのだ。

また本書のタイトルはデンマークの哲学者キルケゴールの著書から取られているそうだが、そのキルケゴールの有名な「人生は後ろ向きにしか理解できないが、前向きにしか生きられない」という言葉を思い出させる、非常にポジティブな内容であった。

文／古田周擴

書籍情報

2025年6月1日放送の『おしゃれクリップ』（日本テレビ系）でも話題となった、モデル・歌手である土屋アンナさんの母・土屋眞弓さん。優しく強いその生き方と、これまでの波乱万丈の人生について綴った書籍『人生、あれかこれか』。あとがきにかえて、娘・アンナさんのロングインタビューも掲載されている。

【Amazonで買う】
【楽天ブックスで買う】
【セブンネットショッピングで買う】

『人生、あれかこれか』
著者：土屋眞弓
定価：1,650円（税込）
体裁：四六判 ／ 192ページ ／ 1C刷
発行：小学館
ISBN：9784093898065
https://www.shogakukan.co.jp/books/09389806