
上場企業を対象とした人的資本情報の開示義務化から2年が経過し、現在は人的資本を開示する段階から経営戦略と紐付けた説明や改善へ踏み込む企業が増えているという。
人的資本経営へ注目が高まっているが、実際に働いた経験に基づく社員や元社員の声を共有する転職・就職の情報プラットフォーム『OpenWork』は、「この企業の経営者へ、この企業をより発展させるための提言をするならば、どのような事を伝えますか?」と質問して、自社の経営陣への建設的な意見を収集するクチコミ項目である「経営者への提言」を収集している。
そんな社員クチコミ「経営者への提言」欄に投稿されたクチコミを分析して、自社の発展や変革を見据えた提言の出現割合を「経営提言スコア」として『OpenWork』独自に数値化して、経営に対して建設的な提言が多い企業をランキングとして発表した。
ちなみに数値化したランキングは、2022年以降に投稿された正社員による「経営者への提言」欄への回答が10件以上で、集計時点で総合評価が3.5 点以上の上場企業が対象。上位企業は、多様な業種がランクインしたという。
経営に対して建設的な提言がある企業の1位は三井物産

『OpenWork』の「経営者への提言」欄に投稿されたクチコミを分析すると、経営に対して建設的な提言がある企業トップ3は三井物産、フリー、出光興産だった。
上位の業種は、総合商社、IT、建設、製薬、メーカー、アパレルと偏りは見られず、多様な企業がランクインしている。これらの会社の投稿には、経営陣への厳しい意見もあるが、改善の具体的提案や改革への期待も添えられている点が特徴的だという。社員が主体的に経営や組織への意見を投稿する背景には、自社に対する愛着や帰属意識が推察できるという。ちなみに上位企業の投稿された自社経営に対する建設的な意見には、次のようなものがあった。
「人材が非常に重要な会社であるため、評価制度や優秀な人間を早く権限のあるポジションに置くことは重要だと考える。現在変革中の人事制度の中でそういった改革が今後施されることを希望する(営業、三井物産)」
「目標達成してから社員への還元や、今後組織はどのように変わるかに関しても、ちゃんと従業員とコミュニケーションとっていければ、よりモチベーションが上がります(ビジネス職、フリー)」
「事業は人を育成する手段として人材の育成こそが事業そのものであるという考え方のもと社員の士気は高いと思う。国内の事業が縮小均衡ななかでいかにして新たな事業を創出していくかがポイントだと思う(事務職、出光興産)」
「とても良い経営をしている、社長はとても良い人。評価制度への不満は早めに何とかしないとやや心配(WEB 本部、クイック)」
「優秀な人材の確保が必要不可欠。新卒のベースアップは素晴らしい判断だと思うが、既存の社員の給与見直しをしなければある程度成長した社員の流出は止まらない(プランナー、サイバーエージェント)」
「人には恵まれ楽しくお仕事ができました。地方配属であっても年齢を重ねたときでも今後の仕事のやり方を選択できる仕組みがもっとあれば、ベテラン勢が辞めていくことも少なくなるかと思います(販売員、アダストリア)」
「経営者への提言」項目の頻出キーワードを上位と下位で比較!
東証プライム企業を対象に「経営者への提言」のクチコミ投稿で頻出した単語を総合評価スコアの上位グループと下位グループでワードクラウドで可視化し、頻出した回数が多いほど大きい文字で表現すると、社員が経営陣に持つ“視点の違い”が浮き彫りになったという。
■東証プライム 総合評価 上位企業のワードクラウド

上位企業では、「改革」、「現場」、「成長」、「社内」といったキーワードが頻出したという。これらの単語は、自社の経営や組織のあり方に社員が今後の発展を意識している表れといえるだろう。特に「改革」や「成長」といった未来志向の言葉は、変化の担い手としての自覚や期待を示しているとみられ、「現場」や「社内」といった内省的な視点からも組織改善への当事者意識がみえるという。
■東証プライム 総合評価 下位企業のワードクラウド

下位企業で多く登場したのは、「待遇」、「給与」、「給料」、「意見」、「離職」など個人の処遇や職場環境に関する直接的な訴えだった。「待遇」や「給料」は生活に直結する切実な声だが、「離職」や「意見」といったワードからは経営への不満や期待の低さが読み取れるという。
両グループで共通するのが「投資」だが、これは東証スタンダード企業・東証グロース企業のワードクラウドでは登場しない単語で、東証プライム企業の社員は人的資本や働く環境への投資を企業の経営判断として求める視点があるといえるだろう。
社員の声から始める人的資本経営が企業の信頼を生む
経済産業省の定義によると「人的資本経営」とは、人材を「資本」として捉えて、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上を目指す経営のあり方。開示できる情報の羅列で終わらず、社員と向き合って能力を引き出すことが企業経営に求められているという。今回のデータには、現状の課題だけでなく経営への期待や未来を見据えた提言が数多く含まれていた。こうした声を経営に活かすことがステークホルダーからの信頼にもつながるといえるだろう。
https://hatarakigai.openwork.jp
構成/KUMU