
しょこたんことタレントの中川翔子さんが「Nintendo Switch 2」を転売ヤーから購入したのではないか、という疑惑がSNS上で広まり、炎上騒動へと発展した。
真偽は定かではないが、今回の騒動で浮き彫りになったのは、世間に根強く残る「転売行為への強い嫌悪感」だ。そして、その視線は転売ヤーだけにとどまらず購入者や販売元、さらには商品を出品するフリマサイトにまで広がっている。
こうした社会的背景を受け、任天堂は2025年5月、「Nintendo Switch 2」の不正出品対策を強化すると発表。フリマサイト各社と連携を進めるなかで、 Yahoo!オークションおよびYahoo!フリマを運営するLINEヤフーは、不正出品だけでなく、「Nintendo Switch 2の出品そのものを当面禁止する」という異例の対応に踏み切った。
フリマサイトは今、転売問題とどう向き合っているのか。今回は 大手フリマ・オークションサイトを運営するLINEヤフーでリユース統括本部長を務める林啓太執行役員に話を聞いた。
異例の「出品そのもの禁止」に踏み切った理由
任天堂の発表に合わせ、各フリマサイトも対応を発表 ※画像は任天堂ホームページより
LINEヤフーが「Nintendo Switch 2の出品禁止」を発表したのは、2025年5月27日。Nintendo Switch 2の発売直前だった。
「社内でも議論を重ね、“不正出品の禁止”に加えて“出品自体を当面停止する”という判断に至りました。発売当日は当然反響が予想されていましたが、実際はその想定を大きく上回るものでした」(林さん)
この決定の背景には、単なる倫理観だけではなく「需給の歪みを利用して利益を得る構造」への強い警戒があったという。
「まず、任天堂が“より多くのユーザーに公平に製品が行き渡る”よう本気で転売対策に取り組んでいた点が大きいです。抽選販売や受注生産などの方法で供給をコントロールしようとしていた。われわれフリマサイトだけが出品を禁止しても効果は限定的です」(林さん)
また、Nintendo Switch 2は「今後供給が安定していく見込みがある」という点も重要だった。
「限定品であれば一時的な出品禁止では需給バランスは変わりませんが、Nintendo Switch 2は違います。将来的に誰もが手に入れられる商品になるため、混乱を避ける狙いで“今”出品を禁止するという判断をしました」(林さん)
LINEヤフーがここまで踏み込んだ対応をとるのは初めて。不正出品(空出品など)だけを禁止するメルカリなどとは一線を画す対応に、SNSでは賞賛の声が多く寄せられた。
二次流通は“悪”なのか?
Nintendo Switch 2に限らず、ここ数年、転売は社会的な問題となっている。フリマサイトの存在が転売を助長しているという声もある中で、LINEヤフーはこう語る。
「本質的には、リユースや二次流通は社会にとってポジティブな存在です。問題なのは、“意図的に買い占めて価格を釣り上げる”ような行為です。そこには詐欺やトラブルといったリスクも起こりやすくなってしまいます」(林さん)
単に高額で取引されているからといって、それが即“悪”というわけではない、というスタンスだ。
「これまでもコロナ禍のマスクや最近の備蓄米のように、希少価値が本来ないものに買い占めによってプレミア性が付いてしまうケースには、きちんと対応してきました。Nintendo Switch 2の出品禁止もその一環です。特に市場の混乱が予想できる出品物だったからです。もちろん、高額で転売されている人気キャラクターグッズなども存在しますが、それらへの対応は販売元の姿勢によって変わります。販売元が転売への注意喚起を行なっていたとしても、実態として買い占めができる販売方法をとっているならば需給のバランスが傾いてしまってもおかしくありません。我々はその姿勢を見たうえで、柔軟に対応していきます」(林さん)
フリマアプリの利益と社会的責任
「転売はフリマアプリの利益になるから抑制されないのでは?」という指摘もある。それに対してLINEヤフーの回答は明快だった。
「特定の商材によって収益の見込みを立てることはしていません。我々の課題は、その短期的な収益の増減ではありません。長期的な視点からフリマ市場全体の信頼性を守ることが最も重要だと考えています」(林さん)
「市場を混乱させるかどうか」という観点で個別に判断する──それがLINEヤフーの基本姿勢だ。
「フリマ市場の信頼性が低下すれば、転売の有無に関わらず市場の存在価値は無くなります。我々はそれを第一に考えなければなりません。現在、転売行為は法律違反でないにせよ、社会は強い不信感を抱えています。我々は企業として、フリマ市場の健全性を守る責任を果たしたいと考えています」(林さん)
© Nintendo
取材・文/峯亮佑