組織的失敗の観点では、日本郵政グループとして類似事象の再発?
2019年に起きた日本郵政グループ傘下での「かんぽ生命保険」の不正販売問題は、顧客に不利益となる契約を大量に結ばせていた問題であるが、今回の点呼不履行・記録偽装と構造的には問題が酷似している。上表にその問題や背景を整理した。
かんぽ生命問題の引き金は、現場に課せられた非現実的な「販売ノルマ」だった。過剰なプレッシャーが、営業職員の不正販売行為へと駆り立てた。
一方、今回の点呼問題の背景には、コスト削減や人手不足に起因する「業務効率化」へのプレッシャーだといえ、このプレッシャーが、配送職員の安全規則不履行へと向かわせた。といえるのが、構造的な問題の酷似である。「ガバナンスの機能不全」ということもできる。
やはり、強いプレッシャーに直面したときは、組織ぐるみでルールを逸脱してしまうもの。まして元国営企業として官僚的に、「国の事業を担ってきた」意識が根強く残っていると、ルールを「守るべきもの」ではなく、「形式を整えればよいもの」と捉えがちな特権意識につながる可能性がある。
ガバナンスとは、企業の不正や暴走を防ぎ、健全な経営を行うための管理・監督体制のことをいうが、今回の日本郵便の問題では、こうしたガバナンスの機能不全が、全国規模での規則違反やその隠蔽を可能にした根本原因である、と同社レポートから読み取れる。
内向きの組織風土があり、トップダウンで異論を許さない雰囲気・空気感があると尚更で、民間と国営企業(官僚的な働き方)の悪いところ取りのような、脆弱で機能不全な組織になってしまったのだろうか。
日本郵便が再発防止策に掲げている意識改革やガバナンス強化は、表面的なものではなく、抜本的に、骨を断つような覚悟で改革を行なわなければ、企業体質改善は難しい。
一方、テクノロジーへの徹底的な投資、そして安全を最優先する文化の醸成、ひいてはマネジメントの刷新などが行なわれれば、信頼回復の道が見えてくる。
形式的なチェックやガバナンスをしていないか。どの職場・企業でも定期的に見直したい
今回の危機は、日本郵便という一企業の枠を超え、日本の物流全体のコスト構造やサービス品質を変えてしまう可能性がある。
日本郵便が担った業務を競合他社に依存する形となって高コスト構造化・運賃値上げが続き、宅配便市場が後退し、ヤマト運輸と佐川急便による寡占化がさらに進むシナリオや、再発防止のためにデジタル化が急加速し、企業体質が劇的に改善した日本郵便が再び戻ってくるシナリオもある。
いずれにせよ、物流サービスのこれまで以上の値上げが起きるシナリオは、避けては通れなさそうだ。
本件は、自社の確認体制の実効性の確認を見直す良い機会にしてもらいたい。
例えば、作業前のチェックが、中身を確認せず手の動きとしてチェックボックスにレ点をつけているだけではないかとか、不正や記録の偽装が組織ぐるみで行われていないかとか。
内部通報制度などを利用し、組織体質の改善の引き金を引いてみるなどのチェックをすることで、結果的に組織の業績が上がったり、自身のキャリアアップにつながったりする可能性は大いにある。
今回の問題は、効率とコスト削減を追求し続けた日本の社会が、安全や倫理、コンプライアンスといったビジネスパーソンとしての土台を見失っていたことに警鐘をならすために起こった事象なのかもしれない。
この警鐘を真摯に受け止め、ガバナンスの改善につなげられるのだろうか。引き続き日本郵便の動向に注目したい。
参考:日本郵便プレスリリース
https://www.post.japanpost.jp/notification/pressrelease/2025/00_honsha/0606_02_01.pdf
https://www.post.japanpost.jp/notification/pressrelease/2025/00_honsha/0423_03_02.pdf
文/久我吉史
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