
無料で楽しく学べる教育アプリ「Duolingo」から、新機能『リリーとビデオ通話』が2024年秋にリリースされた。
人気キャラと楽しくお喋りしながら、外国語会話の練習ができる革新的な機能だ。世界でもっとも選ばれている「Duolingo」が、これから目指すものとは。
今回は、Duolingo, Inc. Director of Regional Marketing水谷翔さんに、新機能の特徴や開発の背景、企業の理念や今後のビジョンについてお話を伺った。
*本稿はVoicyで配信中の音声コンテンツ「DIMEヒット商品総研」から一部の内容を要約、抜粋したものです。全内容はVoicyから聴くことができます。
Duolingoが世界から人気を集める、そもそもの理由とは?
はじめに、水谷さんはDuolingoについて次のように説明する。
「Duolingoは、世界でもっとも人気の教育アプリです。語学学習から始まり、今では数学や音楽のコースも拡充しています。最大の特徴は、無料で楽しく遊べる点です。カジュアルなイメージがありますが、実は効果的に学べるとさまざまな研究で証明されています」
(出典)Duolingoが2023年に発表した、日本語話者を対象とした英語学習の成果に関する調査。
他の英語学習ツールを併用していない英語初学者がDuolingoの英語コース初級レベルを修了した時点で、どの程度のリーディング力とリスニング力を身につけているのかを測定したところ、学習者たちは読解・聴解ともにIntermediate High(中級上位)レベルに達していることが確認された。
水谷さんは「楽しげなアニメーションやキャラクタービジュアルにこだわり、ユーザーが楽しく学べるように設計している」と続ける。
「たとえば、『デュオ』という緑のフクロウ。アプリ内では明るく応援してくれますが、アプリ外ではレッスンを促すために少しクレイジーな一面も見せる“unhinged”なキャラクターとして人気を博しています」
10代から80代まで、幅広い年齢層のユーザーが利用している「Duolingo」。基本プレイは無料だが、より効率的に学習したい人に向けて有料版も展開されている。
「『Super Duolingo』は、広告非表示やハート無制限の機能が付いています。上位版の『Duolingo Max』はSuperの機能に加えて、生成AIを活用した『リリーとビデオ通話』『ロールプレイ』『スマート解説』といった3つの機能を搭載しています」
「リリーとビデオ通話」は、2024年秋にリリースされた新機能。生成AIがリアルタイムで返答する仕組みで、友人と話しているような楽しい体験ができる。
「特徴の一つは、リリーがこれまでの会話を覚えていることです。過去に話した内容が蓄積されているので、『あなたの愛犬どうしてる?』と、過去の会話から内容を引っ張ってきて話してくれます。会話するほどに『リリーってこんな一面があるんだ』と新たな発見があり、どんどん夢中になっていきます」
同サービスは、わずか数か月の期間で開発されたものだという。
「プロダクト開発のきっかけとなったのは、生成AIの登場です。社長のルイスがChatGPTの革新性に衝撃を受け、『とにかく使い倒せ、すべてこれベースだ』と開発チームに指示したのが始まりでした。社内全体も生成AIの凄さをすぐに理解し、一気に機能開発に注力しました」
「楽しく会話しながらアウトプット」を実現した‟新しい学習”
日本でのローンチ後、ユーザーの反応は上々だという。
「コースを完了するユーザーは、グローバルで見るとそれほど多くありません。しかし、日本の方は一つのものを徹底的に使い倒す特徴があり、すべてクリアすることに長けています。『リリーとビデオ通話』も同様に、何度も繰り返し使っていただいています。一時的に、セッション数が世界で2位にまで上がったこともありました」
「リリーとビデオ通話」は、ユーザーの習熟度やビデオ通話の回数に応じて、会話の難易度が変化する。アプリ内のコースを深くクリアするほど、会話の難易度が上がり、リリーとの往復ラリーが増える設計だ。
「楽しくお喋りすることを目的としているので、たとえ間違ったことを言ってもリリーは間違いを指摘せず、『こういうことね』と言い直してくれるんです。文法の間違いをいちいち指摘されると、先生と生徒の会話になってしまい、AIが相手でも萎縮してしまいます。とにかく心地よく会話できる設計にこだわりました」
水谷さんは、「Duolingoは国際的な言語指標CEFRのB2レベル(仕事に就くことができるレベル)を目指せるコース設計になっていますが、『リリーとビデオ通話』を使えば、より実践的に補完することが可能だ」と説明する。
「多くの日本人は英語の基礎力はあるものの、会話でのアウトプット練習が不足しています。『リリーとビデオ通話』は、アウトプット練習を可能にする機能です。実際に学習者さんからは、『自信を持って話せるようになった』と嬉しい声をいただいています」
絶妙なバランスにこだわって設計された‟難易度”と“リアルさ”
水谷さんは、「かつて主流だった参考書やテキストでの学習に代わり、アプリ学習が一般的になっている」と話す。
「ChatGPTで学習する方法もありますが、それは参考書を開いて学習するのと大きくは変わらないと思います。高いモチベーションがないと、勉強を続けられません。『楽しく学習できることで継続を可能にする』という付加価値を提供しているのが、Duolingoの強みです」
短いスパンでの開発となった同サービスだが、その分課題も多かった。
「まず意識したのは、難易度の調整です。ユーザーの習熟度やビデオ通話の回数に応じて会話の難易度を調整していますが、簡単すぎても難しすぎてもユーザーが離れてしまうため、このバランス調整には注意を払いました」
友人と話しているような「リアルな会話体験」にもこだわった。
「過去の会話を記憶させる機能に加え、会話を終えるタイミングなど、基本的なバランスの調整も試行錯誤しました。また、リリーの表情も苦労した点の一つです。何を言うときにどんな表情にするか、ずっとユーザーの方を向くのか、少し目線を外すのかなど、リリーのキャラクター性に合わせてさまざまなパラメータを微調整しました」
「デュオリンゴロゴロ」というフレーズが印象的なCMを打ち出してから約2年半。日本参入当初の認知率が5%以下だったDuolingoは、いまではユーザー数が10倍以上に伸びている。
「認知度が高まってきたタイミングで、象徴キャラ以外のリリーをCMでお披露目しました。反響は大きかったです。アプリへの流入が増え、SNSでも大きな反響がありました。記者の方から『リリーを見て興味を持った』と声をかけてもらったこともあります」
「誰もが利用できる世界最高の教育を」Duolingoが目指すビジョン
「『Duolingoを使っている』という声を聞いたときにやりがいを感じる」と話す水谷さん。一方で、反省点も少なくないと続ける。
「細かい反省点は、日々たくさんあります。ただ、Duolingoは振り返りと反省をして、やったことすべてから学びを得ることを企業カルチャーとしています。『反省から何を学び、次にどう生かすか』が大切なので、失敗もすべて学びだと捉えています」
水谷さんは、「リリーとビデオ通話」がヒットしている理由について、3つの要因を挙げる。
「1つは、これまでDuolingoにはなかったインタラクティブな会話練習ができるようになったこと。2つ目は、人気キャラクター『リリー』と友達のように会話できる楽しさ。3つ目が、リリーの新しい側面を知ることができる点です。ある種、自分好みに育てているような、リリーが成長していく感覚があるんですね。『私とリリーだけが知っている秘密』を共有したり、『私だけが知っているリリーの一面』を発見したりできるかもしれません」
Duolingoはこれからも「誰もが利用できる、世界最高の教育を開発すること」をミッションとしていくという。
「貧富の差に関わらず、すべての人に最高の教育にアクセスできる機会を設けたいと考えています。だからこそ、無料で提供していくことに強いこだわりを持っています。極端な例えですが、先進国のユーザーさんが課金してくれたおかげで、途上国のユーザーさんが無料で楽しめる。アプリ内で、富の再分配ができている点も誇りです」
最後に、リスナーへメッセージをもらった。
「日本人はとても優秀ですが、言語のハードルによって、英語圏でその力を十分に発揮できていない場面も見受けられています。英語ができる人の裾野を広げること、ひいてはDuolingoを広める活動は、日本の国力に貢献すると思っています。皆さんにはぜひ英語や他の言語を学んでいただき、海外で活躍できるようになってほしいと願っています」
取材・文・撮影/久我裕紀 構成/DIME編集部