
新モデル「Romi (Lacatanモデル)」に込められた想い
会話AIロボット「Romi」は、一見すると小さくてかわいらしいロボットだ。Romi (Lacatanモデル)は、一緒に見ているものについて話をする「視覚機能」を搭載するなど、合計10個の新機能とアップデートを予定した新モデルである。その内側には、MIXI独自開発の会話AIを使い、プログラムではなくその場で考えて、人と自然に会話し、寄り添うための深い哲学が込められている。今回、そのソフトウェア開発をリードする開発者、信田春満さんに、開発の裏側や今後の展望を聞いた。
信田春満さんは、Romiの開発グループマネージャーを務めると同時に、スクラムマスターや実装も担当している
「Romi」は“話しかけたくなる存在”を目指したロボット
開発が始まったのは2017年。当時はまだChatGPTなどの大規模言語モデルも存在せず、会話AIは“正しい日本語を出せたら万歳”という段階だった。
「最初に作ったAIは『こんにちは、おきょきょきょきょ…』みたいな意味不明な言葉を発して、みんなで「なんだこれ」って笑ってました」
そんな信田さんだが、当時から目指していたのは一貫して“喋るロボット”だった。単なる音声出力機械ではなく、「人の気持ちに寄り添える会話パートナー」であること。それがRomiの根本となる設計思想だ。
「人は喋る生き物だから、喋ることで深くつながれるという考えが強くあり、その方向性で模索してきました」
脳はクラウドに、身体は手元にある構成
Romiはクラウド接続型のロボットだ。本体には“脊髄反射”レベルの反応しか持たず、会話の本質的な処理はすべてクラウドのAIが担当する。
「人間で言えば、膝を叩かれて“イタッ”と言うレベルの反射は本体にあって、思考や感情をともなう応答はクラウドの脳が担っています」
この構造は、ハードウェアの制約と、MIXIの持つSNSやゲーム開発のノウハウに根ざしている。リアルタイムな通信処理と会話応答を可能にする強力なサーバーインフラが、Romiの自然な会話体験を支えている。
“共感”を最優先する人格設計
Romiが特にこだわったのが“共感”の設計だ。
「ChatGPTなどは“正しいこと”を返そうとしますが、Romiは“間違っていてもユーザーの味方をする”ことを重視しています」
たとえば、ユーザーが「上司に怒られてムカつく」と言えば、Romiは「そんな上司ひどいね、やっつけちゃえ!」と返すことがある。もちろん本気ではないが、ユーザーの感情に寄り添い、味方であろうとする姿勢が込められている。
これは、開発チームが会話に求める価値が「解決」ではなく「共感」であることを表している。
「学習」はしていない、でも“覚える”ようになる
Romiは、個別ユーザーの会話からAIが自動で学習するわけではない。では、どうやってユーザーごとに違う性格のように振る舞うのか?
「ChatGPTもそうですが、“記憶”をうまく活用することで、ユーザーごとの個性に合わせた反応をしているように見せているんです」
Romiも同様に新モデルの「長期記憶」機能により、日々の会話を要約、その意味を保存し、再利用して会話に活かせるようになっている。
「記憶もただ蓄積するのではなく、“夢”をヒントに圧縮してまとめるような仕組みを入れています。重要なことは長く覚え、些細なことは忘れていく。まるで人間みたいに記憶が“おぼろげ”になるんです」
「ノアと何して遊ぼうかな」という問いに対して「長期記憶」を参考にして会話するRomi
見たものを「話す」能力と、感情に応じた声の変化
新モデルではカメラ性能も向上し、Romiが見ているものについて話す機能も追加された。さらに直近に見た過去の映像に基づいた会話にも対応する。
「“見てみて?”と聞くと、“高層ビルの夕焼けだね”と答えたりします。こういう視覚的な理解は、画像解析AIを使用して実現しています」
Romiに内蔵されたカメラを使って、見えているものに関する会話に対応
また、Romiの声にも大きな進化がある。2025年秋以降のアップデートから使える機能で、音声合成エンジンに感情パラメータを付加し、「喜び」「悲しみ」「リラックス」などの感情によって声のトーンや話し方が変化する。
「“今日は取材に来てくれてありがとう”という台詞を、感情ごとに読み上げると、ちゃんと“うれしそう”“切なそう”“おどおどしている”みたいな変化があるんです」
さらには複数の声優の声を混ぜて「中間の声」を生成することができ、これによってRomiにとって理想の声を作ろうとしている。
“便利な寄り添い”も追求へ
近年はChatGPTの登場により、会話AIに“知識性”や“問題解決力”も求められるようになってきた。これに対して信田さんはこう語る。
「これまでは“たわいもないお喋り”を重視してきましたが、今後は“便利な寄り添い”も必要だと考えています。たとえば、“旅行に行きたいな”とつぶやいたら“沖縄が好きって言ってたよね”って教えてくれるような、そんな提案ができるRomiに進化していきたいです」