
マクドナルドの「ハッピーセット」には強力な集客効果があることが、改めて明らかになりました。売り切れ店舗が続出した「ちいかわ」を販売した2025年5月の客数が前年同月比でおよそ1割増となったのです。
年間1億食を販売するという「ハッピーセット」は、マクドナルドの集客における切り札とも言うべき存在になりました。一方で、転売が横行するという別の課題も浮かび上がります。
値上げの買い控えを打破する驚異的な集客効果
「ハッピーセット」の人気化と、その集客効果は過去のデータからも読みとることができます。「ちいかわ」と同じく転売が問題視された「星のカービィ」を販売したのが2024年2月から3月にかけて。客数は2月が3.2%、3月は5.4%それぞれ増加しました。
「マリオカート」を販売した2024年11月は「ちいかわ」と同じく1割近い増加でした。
※月次IRニュースより筆者作成
人気化する「ハッピーセット」のおもちゃは、子供だけでなく大人にも親しまれているIPだという特徴があります。おもちゃは複数用意されているためにコレクション性が高く、大人が一度にまとめ買いする姿もよく見かけます。それが転売用の商売道具に利用されるまでになりました。
一方で、マクドナルドの収益性に注目すると、その効果は絶大。値上げによる買い控えを抑制してくれるからです。
マクドナルドの客単価は2023年1月に前年同月比で1割増となりました。商品全体の8割の品目の価格を改定した月です。「ひるマック」のてりやきマックバーガーは550円から600円、ビッグマックは600円から650円になりました。
値上げ後の2月からは10か月連続で客数が前年を下回ります。停滞局面を打破したのが「星のカービィ」。2024年2月に客数は突如として盛り上がりを見せ始めたのです。
「ハッピーセット」は「すきすきセット」と比べてIPの種類が豊富なのはなぜか?
マクドナルドは2022年度から2024年度までの中期経営計画にて、全店売上高を2021年度比でプラス1000億円にするという目標を掲げていました。2024年度の実績はプラス1770億円。営業利益率は目標が10%以上だったのに対し、実績は11.8%。高い目標を軽々と飛び越えたのです。
値上げをしても高い集客力を維持した成果が出たと言えるでしょう。
マクドナルドは全店舗の7割以上をフランチャイズ加盟店が占めています。店舗運営の大部分を加盟店が行ってくれるため、本部は集客活動に全力を注ぐことができます。マクドナルドの「ハッピーセット」のおもちゃは、全店直営店のすき家の「すきすきセット」などと比べると、IPの豊富さにおいて各段に上回っています。これはフランチャイズ主体か直営店主体かの違いが如実に表れている例だと言えるでしょう。
「ハッピーセット」のおもちゃは、店頭に並ぶ1年以上前から開発に着手しています。また、企画段階で100を超えるシリーズのアイデア出しを行い、IPの選出を行っているといいます。おもちゃは単なる子供向けの景品という位置づけではなく、高い熱量で生み出されているのです。
難しいのは、高い集客力が期待される一方で、本来のあるべき姿から乖離しかねないことです。
家族のだんらんを提供するという重要な役割が
「ハッピーセット」は、家族との食事を楽しんでほしいという発想から生まれています。1987年に前身となる「お子さまセット」の販売を開始していますが、このころは核家族化が急速に進んだ時期。家族を取り巻く環境が大きく変化していました。
「ハッピーセット」のおもちゃは、親子のコミュニケーションを促進するツールとしての開発が進み、子供に人気のアニメや音楽、スポーツなどが題材になりました。
2018年からは「ほんのハッピーセット」がスタートしています。おもちゃ以外に絵本や図鑑が選べるようになりました。このセットは商品の核心をつく画期的なもの。親が子に読み聞かせをするという、あるべき姿を体現するものだからです。「ほんのハッピーセット」は6年間で80種類以上、7000万冊を提供しました。
応募者の作品を商品化するという「ハッピーえほん大賞」を初開催し、応募総数は8000作品を超えました。影響力は拡大しています。
確かに、「ちいかわ」や「星のカービィ」のキャラクターグッズは子供にも人気があります。しかし、大人による買い占めが横行し、本来手に届くべき子供たちに行き渡っているのかは疑問。マクドナルドが転売をしないよう注意喚起しているにも関わらず、それが止む様子はありません。
店舗への集客という側面だけを考えるのであれば、子供だけでなく大人も楽しめるIPの活用を先行するでしょう。一方でそればかりを選択すれば、あるべき姿から乖離するという難しさがあります。
文/不破聡