
韓国の音楽プロデューサー、シンガーソングライターとして知られるJ. Y. パーク。彼の人生を激変させたオーガニック生活について語ってもらった前編に続き、インタビュー後編では、彼の仕事に対する考え方や描いている未来像について聞いた。
J. Y. パークが語る、人生を変えたオーガニックな生活との出会い
韓国の音楽プロデューサー、シンガーソングライターとして知られるJ. Y. パーク。かつて40年以上もアトピーに悩んでいた彼の人生を激変させたのは、オーガニック生...
子どもたちをサポートする活動を継続
――パークさんは過去のインタビューで「エンターテインメント業界は世間の関心と応援があってこそ成功するもの。みなさんからいただいた力を、社会にポジティブな影響を与えられることに還元すべきだと思っている」と語っていますね。
J. Y. パーク(以下、パーク) そうですね。私は常に「世の中にポジティブな影響を与えられるように」ということを念頭に置いて、すべてのことを行っています。
――パークさんがオーガニックコスメブランド「シオリス(SIORIS)」をプロデュース(詳細は前編を参照)しているのもそのひとつかと思いますが、ほかにはどのようなことに取り組まれていますか。
パーク 例えば、JYPエンターテインメントではかねてから小児病棟でチャリティー音楽会を開催するなど、子どもたちをサポートする活動を続けてきました。2019年からは「EDM(Every Dream Matters!:世の中のすべての夢は大切だ)というビジョンのもと、子どもたちの夢を応援する社会貢献活動を行っています。具体的には、家庭の事情で高額な手術費の負担が難しい状況にある国内外の患児たちの治療費の支援、難病の子どもたちの夢をかなえて病に打ち勝つ奇跡を生み出すプロジェクトといったものです。
2024年はこれらの活動を通して、877人の子どもたちが治療を受けられるようになりました。2019年から2024年までを累計すると、韓国やベトナム、カンボジアなどのアジア地域の3194人の子どもたちの治療費を支援することができました。またこのほか、海を守るための「LOVE EARTH CHALLENGE」キャンペーンなど、さまざまな活動を行っています。
結果を出すこと以上にプロセスが重要
――パークさんはかつてオーディション番組『Nizi Project』での発言や考え方が話題となり、“理想の上司”とも称されていました。JYPエンターテインメントの総括プロデューサーとして、社内のアーティストやスタッフに対してもやはりポジティブな影響を与えることを意識されているのでしょうか。
パーク もちろんです。ビジネスにおいて結果を出すことはもちろん大切ですが、私はそれ以上に、結果を出すまでのプロセスを重視しています。たとえ結果がよくても、プロセスに問題があれば、いずれその結果に悪影響を及ぼすからです。親は子どもの背中を見て育つといいますが、それは上司と部下の関係、あるいは、社会における現世代と次の世代にもいえること。テレビカメラが回っていないところでも、所属アーティストたちに対し、誰が見ても正しいと思える姿や生き方を身をもって示すことが、私の役割だと考えています。
もちろん、姿で見せるだけでなく、指導も行っていますよ。練習生としてJYPエンターテインメントに入るとすぐに、歌やダンスなどのトレーニングだけでなく、話し方や佇まい、生活習慣などの指導が始まります。人としてどう生きるのか、そのモラルはアーティストや練習生だけでなく、社員全員に求められるものです。同じ環境で働く仲間ですから、まずは社員たちが模範とならなければ、いいアーティストは育ちません。社員が口ではさも立派なことを言いながら、裏でチャラチャラ遊んでいたら、説得力がないですよね。
世の中を見渡していて感じるのは、今の若者は大人たちに対して怒っている、ということ。なぜなら、大人たちが言っていることとやっていることが違うからです。私は、下の世代の人たちをがっかりさせないように、常に一貫した姿で生きていきたいと思っています。まあ、人間なので、ちょっとしたミスはするかもしれませんが(苦笑)。
誰もが夢を見られる世の中に
――JYPエンターテインメントには、そんなパークさんの考え方に共感した人が集まってくるのでしょうね。韓国のエンタメ業界のなかでもトラブルが少ない、クリーンな事務所という印象です。
パーク 会社を立ち上げて28年が経ちますが、たしかに問題が少ない事務所ではあると思います。退職率が低く、長く勤務する人の割合がエンタメ業界のなかではいちばん高いのも特徴といえるかもしれませんね。
――パークさんとJYPエンターテインメントが世の中にポジティブな影響を与え続けることで、どのような未来が形成されていくのが理想だと考えていますか。
パーク 挫折する人たちや落ち込む人たちが減るのが理想です。今の若者たちは、ずるい大人たちのやり方にうんざりし、失望しています。「成功するのは、もともと権力をもっている一部の人たちだけ。それ以外の人たちは、頑張ったところでどうにもならない」と思っています。そんな若い人たちがネガティブにならず、自分の可能性を信じられる状況をつくりたい。誰もが夢を見て挑戦できる、そんな社会に変えていきたいですね。
J. Y. パーク
1971年生まれ、ソウル出身。韓国を代表する音楽プロデューサー、シンガーソングライター。「JYPエンターテインメント」の設立者であり、現在は総括プロデューサーとして数多くのアイドルグループやアーティストを輩出している。また、韓国発のオーガニックコスメブランド「シオリス(SIORIS)」(日本ではセレクトショップ『エシカルシー(Ethical&SEA)』と公式オンラインストアで展開中)のブランドパートナーとして、一部の製品の企画や開発を担当。
取材・文/志村香織
撮影/福知彰子