
一言で言うと、”マーケティングの全てをAIネイティブ化する”こと。
電通が2024年から進めるAI戦略「AI For Growth」は2年目を迎えるに当たり「AI For Growth 2.0」へとアップデートした。
マーケティングのあらゆるフェーズにおいてAIを組み込みマーケティングを進化させることを目的とした同戦略において、電通は新たに二つのAIモデル「People Model」と「Creative Thinking Model」を発表した。
後編は「Creative Thinking Model」について話を聞いた。(前編はこちら)
Creative Thinking Model(創造的思考モデル)」におけるビジュアルアイデア生成機能
電通は2024年8月、AI広告コピー生成ツール「AICO2」を発表した。単にコピーを学習させ、コピーを生成するのではなく、電通のコピーライターが長年培ってきた「なぜ、このテーマからこのコピーを考えるのか」といった思考プロセスを人工知能(AI)に学習させたことにより、従来のAIよりもさらに人の心に響くコピーを生成できるようになった。
電通はこの独自のファインチューニング手法を取り入れたAIモデルを「Creative Thinking Model(創造的思考モデル)」と定義。
2025年、「Creative Thinking Model(創造的思考モデル)」として電通のアートディレクターの発想プロセスを学習したAIモデルを発表。より高度なビジュアルアイデアのAI生成を実現した。
アートディレクターの思考プロセスを学習したAI
電通は「Creative Thinking Model」として コピーライターの思考プロセス を学習させたAIモデル「AICO2」を2024年に発表。
そして今回、さらに ビジュアル(画像)生成機能を拡張し、コピーライティングにとどまらず ビジュアル広告 においても生成AIの活用を進めている。
国内電通グループでAI領域のグロースオフィサー(特任執行役員)を務める 並河進さん は、画像生成のプロセスに 「アートディレクターの思考法を学習したAI」 を挟むことで、ビジュアルアイデア生成機能を実現できたと説明する。
「今回新たに挑戦したのは、テキスト(プロンプト)と画像出力の間に、アートディレクターの思考法をファインチューニングした生成AI が一度『画像生成用のプロンプト』を出力し、それを通じて画像を生成するという仕組みです。
結果として、既存の画像生成よりも抽象性やユニークさのあるイメージ を生み出せるようになりました」
「Creative Thinking Model」におけるビジュアルアイデア生成機能の魅力について、同モデルを担当する新納さんは次のように語る。
「たとえば広告で “辛いチリソース” という商品があったとき、その辛さをどう表現するかはアートディレクターの腕の見せどころです。唐辛子やチリソースの写真をそのまま使うのではなく、生活者とイメージを共有できる表現をつくるために、何段階もの思考プロセスを経ます。通常の画像生成AIに『広告風』と指示しても、この複雑なプロセスは再現できません。現状では、入力者がその思考プロセスを細かくプロンプトに組み込む必要があります。
つまり、アートディレクター自身でなければ広告画像を適切に生成することは難しいのです。今回のCreative Thinking Modelのビジュアルアイデア生成機能により、こうしたプロセスを誰でも活用できるようになります」
新納大輔さん
株式会社電通
CXクリエイティブセンター 未来の暮らし研究部
電通入社後、クリエイティブテクノロジストを経てクリエイティブ領域における人工知能研究開発・事業策定に従事。電通グループの人工知能関連事業におけるガバナンス策定 、戦略策定、基盤整備、人材育成任務を担う。2025年度 人工知能学会全国大会にて論文『アートディレクターの思考プロセスを用いたFine-Tuning手法の提案および評価実験』を寄稿。
その先は「AIエージェント」の開発
People Model、Creative Thinking Modelはいずれも単独でも優れた性能を持っているが、組み合わせることでさらなる進化が期待できる。そう、マーケティングの全工程を統合的に支援する「AIエージェント」だ。
電通グループは「AIQQQ FLASH」「AIQQQ TALK」、「∞AI」、「AICO2」などの他のAIアプリケーションを保有しており、これらのデータと連携を図ることで、「統合マーケティングAIエージェント」の開発にも取り組んでいる。
「電通が保有するデータや電通のクリエイターたちの思考プロセスを学習したAIが登場すると、私たち広告パーソンは不要になると思われるかもしれませんがそうではありません。AIと協力しながらより高い次元のクリエイティビティを発揮することが可能になります。
また、AIの発想が均一化されてしまった時、逆にAIに発想を与えられるクリエイターが必要になります。
私たちはその役割を担うべく、AIとともに高め合っていきたいと考えています」(並河さん)
AIとクリエイターが互いに刺激し合い、新たなマーケティングを切り拓く時代が、今まさに始まろうとしている。
取材・文/峯亮佑 撮影/干川修