
「頑張った事」を誉められて何か誇らしい気持ちになり、嬉しくなった経験は誰しもがあるのではないでしょうか。誉められる事により視野が広がり様々な事に興味を持つきっかけにも繋がりますので、成長を促し自立心を芽生えさせるという部分において、頑張りを誉めるという行為は特に幼少期においては必要な要素と言えるでしょう。また、誉められた人は自己肯定感を持つ事が出来るようになりますので、コミュニケーションが希薄化され、とかく視点が個に埋没しやすい現代においては、誉める事を最重要視する風潮もあります。
しかし、誉める対象がプロセスにおける「頑張った事」だった場合、会社や組織という社会の中で生きていく人たちにとっては弊害を発生させてしまう事を知っておかなければなりません。
事実としての社会の構図
会社や組織が永く継続していく為に一番大事なものは成果になります。お客様を含めた市場が、会社や組織が出した結果を評価し、その対価を頂けるという構図になります。出した結果が市場という他者から評価され、その頂けた対価が成果という事です。
では、市場は会社や組織が「頑張っている」を評価してくれるでしょうか。時に「あの会社頑張ってるから一度発注してみよう」という局面はあるかも知れませんが、結果が伴わなければそのお客様も離れていってしまいます。
このように市場が求める事は良い結果なのですが、会社や組織の出した結果は何で構成されているかというと構成員たる個人の結果の集合体という事になります。にも関わらず「頑張った人」が良い評価を得てしまうと良い結果を出している人が割を食ってしまうという事にもなりかねません。
頑張ったというプロセスを評価する
そもそも論となりますが、「頑張った」という評価ですが、評価する人によって定義が違います。上司が変わった途端に評価が180度変わってしまったという経験はありませんでしょうか。なぜこのような事が起きてしまうのか。それは「頑張った」かどうかは評価をする上司の個人的見解や感情といった主観に基づくものだからです。上司の好き嫌いで評価が下されてしまっては部下はたまったものではありません。こういった定性的な評価が標準化している組織では、常に不満や疑念が生じやすくなります。
また、結果ではなく「頑張った」などのプロセスで評価がされると思った部下は、本来は結果の質を上げなければならないのに、良いプロセスをみせようとしてしまいます。頑張ってますアピールを組織内に引き起こしてしまう事に繋がるのです。市場からよい結果を会社や組織は求められているにも関わらず、頑張ってますアピールが正当化されている組織はどうなってしまうでしょうか。求められるべき結果の質への吟味が曖昧になり結果の質に対する改善がされませんので、その会社や組織は成長しない組織へと進んでいってしまうのです。
プロセスではなく結果を評価する
先ほど申し上げた通り会社や組織が永く継続していく為に一番大事なものはお客様を含めた市場からの結果への評価になります。ですからその会社や組織の構成員にも結果の質を求めなければなりません。
まずはチームのリーダーが、市場から高い成果を得る為の結果設定をし、その結果を出す事が会社や組織の構成員の役割である事を明確に示します。チームの構成員が複数名いる際には、チーム目標のみでは一人一人がやるべき事が不明確になり、「責任のなすりつけ合い」や「お見合い」が発生しますので、役割を明確にし、一人一人が目指すべき結果を明確化する事が重要になります。
プロセスの管理
一人一人が目指すべき結果を明確化出来たとしても、そこへ至るプロセスの管理も重要です。部下任せにしてしまっては部下が本来向かうべき方向とは違う方向に向かってしまっていたり、期限感覚が乏しくなり、しいては個人個人がやり方の部分にこだわり始め、定められた期限に到底間に合わないといった事態も引き起こしかねないからになります。
一方で上司が部下のプロセスにどっぷり浸かり、部下と並走しながらゴールを目指すといった事もよく起きがちになります。こういったプロセス管理になりますと、ゴールを迎える前に細かく口出しをする事になりますので、達成しなかった時に部下の口からは「上司の言う通りにやったんですけど」といった言い訳を与えてしまいます。また、上司がやり方に細かくアドバイスをしたり教えてあげたりする事になりますので「待っていれば教えてくれる」というように部下が指示待ち状態になり自分で考えなくなります。なによりも上司の時間がドンドン削られていき、部下の数が多くなってきますとマネジメントコストが膨大になっていってしまいます。ではどうすればよいか。
まず、プロセスを工程で区切りながら一つ一つの区切りを結果設定していく事です。例え短い距離であっても部下は一人で歩かせないと成長しませんので、求めたい結果の工程を区切りながら、工程上の結果に対し期限も区切りながら前に進ませる事になります。
この区切りの際、次の結果までの工程が部下の頭の中で明確になっているか、ゴールイメージが出来ているかを確認する作業を怠ってはいけません。確認方法は、「次、どうする?」です。ここで次の結果に向かうやり方が明確になっていればOKです。不明瞭であれば部下は迷っていますので結果設定の工程をもう一段引き下げます。そして設定した期限で区切り、結果を確認します。もし不足が発生していればその不足を明確にして、不足を埋めるにはどのような変化・工夫をすればいいかを部下に考えさせ、考えた変化・工夫をする事で次の結果設定を約束します。これを繰り返します。
少々手間はかかりますがスキルや経験値が足りない部下の方ほど迷いやすいので、タスクを進捗させる事と部下の成長を促す事の両方を満たすにはこの方法が最適です。
また、部下に仕事の段取りを教えたいという事も多いと思いますが、ご説明したような区切り毎の管理をする事で結果的に仕事の段取りを教えている事にもなります。
まとめ
「成果よりプロセスを重視する」という考え方は、近年の自己成長や持続可能な成功を重視する風潮の中でよく見られるテーマですが、会社や組織の最終的な結果が伴わなければ、プロセスがどれだけ良好であっても評価されづらく、またあまりにもプロセスにこだわりすぎると、結局そのプロセス自体が自己満足のためだけになり、外部からのフィードバックや実際の目標達成が軽視される危険性があります。結果が出ないことに対して「プロセスは良かったからOK」と思い込んでしまうと、改善の余地が見えなくなり、成長が止まってしまうかもしれません。プロセスと結果は対立するものではなく、むしろ相互に補完し合うべきものです。プロセスがしっかりしていれば結果がついてくるというのは一理ありますが、結果がなければプロセスがどうであれ最終的な評価を得ることが難しくなることを念頭に、区切ったプロセスの期限毎の結果で評価・管理する活動を基本原則にして頂ければと思います。
文/識学コンサルタント 大橋克仁