
「フラットな組織」が理想とされる風潮の中、現場が疲弊し、意思決定が曖昧になるケースが多発しています。なぜ現代の職場で“上下関係のない関係性”が問題を生むのか。今回では、フラットな組織が引き起こす指揮命令系統の崩壊や責任所在の曖昧化のリスクを明らかにし、成果を出すために必要な組織構造の本質について考察します。
1. フラットな組織はなぜもてはやされるのか?
近年、多くの企業が「フラットな組織」を目指すようになっています。役職の呼称を廃止したり、年齢・経験にかかわらず誰もが自由に発言できる場を設けたりする企業が増えており、一見すると風通しが良く、従業員に優しい職場環境のように見えます。
こうした組織文化は、「心理的安全性の確保」や「イノベーションの促進」を目的として語られることが多く、特にスタートアップ企業やIT系の現場では“ヒエラルキーの否定”が流行しています。しかし、こうしたフラットな構造には重大な落とし穴があります。
それは、「上下関係の不在」が、結果として“誰も責任を持たない組織”を生み出し、業績や組織運営に深刻な支障をきたすリスクがある、という点です。
2. 指揮命令の不在がもたらす“疲弊”
組織におけるもっとも重要な構造は「明確な上下関係」と「責任の所在」であると説きます。リーダーが明確に指示を出し、メンバーがその指示に従って動く。このシンプルな構図こそが、組織のスピードと成果を最大化するために不可欠な要素です。
一方、フラットな組織では、役職による明確な指揮命令系統が曖昧になり、「誰が最終的な判断を下すのか」が分からなくなるケースが頻発します。メンバー同士で話し合って決めようとするがゆえに、無駄なミーティングが増え、判断に時間がかかるばかりか、誰が責任を持って動くべきかが不明確になるのです。
このような状態が続くと、現場のメンバーは「何を基準に動けばよいか分からない」「自分が責任を取らされるのでは」といった不安やストレスを抱えるようになります。意思決定が降りてこない組織は、一見自由なようでいて、実は最前線のスタッフに過度な判断負荷を強いているのです。
3. 組織とは階層構造である
仮に組織の本質を「階層構造の中で責任を持って指揮命令が行われる仕組み」と定義します。上司は部下に明確な指示を出し、部下はその指示に従って行動する。この役割分担があるからこそ、全体の動きがスムーズになり、目標に向かって一体となって進むことができるのです。
また、「役職=役割」であるため、そこに人間関係の親しさや感情は入り込みません。上司と部下が対等な人間であることは前提としつつも、業務遂行においては“上下の関係”を徹底し、それを受け入れた上で組織は機能すべきです。
この考え方により、各メンバーは「自分のやるべきこと」と「上司が決めること」の線引きを明確に理解し、無駄な迷いや誤認、責任回避を防ぐことができます。組織が成果を出すには、曖昧な関係性ではなく、役割と責任の明確化が欠かせないのです。
4. なぜフラットな組織は責任逃れを生むのか?
フラットな組織では、業務の進行が“話し合い”に依存しがちです。これは一見、民主的で理にかなっているように見えますが、実際には意思決定のスピードと責任の所在を著しく曖昧にします。
たとえば、あるプロジェクトで方向性が定まらず、メンバーが「話し合って決めよう」と持ちかけた結果、誰も責任を負わないまま決断が先送りされる。あるいは、決断した内容に対して、後から「私はその案に賛成していなかった」と責任逃れの言動が生まれる。これが、「ズレ」や「誤認」の典型例です。
「責任を持つ者が決断する」「責任のある者だけが指示を出す」という原則が貫かれています。この原則により、判断の主体が明確になり、組織内での混乱を防ぐことができます。誰もが平等に発言できる環境は重要ですが、最終的な決定は必ず“責任者”が行うべきなのです。
5. 成果を出す組織構造とは何か?
では、実際に成果を出すために、どのような組織構造が必要なのでしょうか。識学が提唱する組織運営の要点は以下の通りです:
• 上下関係の明確化(役職の役割を全員が理解)
• ルールと評価基準の統一(感情で評価しない)
• 指示と報告の徹底(コミュニケーションの形式化)
• 責任の所在を明文化(属人的な判断を避ける)
これらを導入することで、組織内に不要なストレスや誤解が生まれにくくなり、メンバーは安心して“自分の役割”に集中することができます。
つまり、組織に必要なのは「自由な関係性」ではなく「明確な構造」です。自由度が高いように見える組織でも、構造がないことで意思決定が混乱し、むしろ非効率になります。識学は、その構造の重要性を論理的に提示し、現場の疲弊を回避しながら成果を最大化するマネジメントを実現するための有効な手段なのです。
まとめ
「フラットな組織」は一見理想的に思えますが、識学の視点から見れば、指揮命令系統の崩壊と責任の曖昧化という重大なリスクを孕んでいます。成果を出す組織には、明確な上下関係と役割、そして責任の所在を示す構造が不可欠です。感情や曖昧さに流されない識学的マネジメントを導入することが、現場の混乱を防ぎ、持続的な成果を生み出す鍵となるのです。
文/識学コンサルタント 清水健悟