
コロナ禍により、2020年から急速に普及が進んだリモートワークだが、ここ最近は「出社回帰」の傾向が社会全体で強まっている。
こうした中、企業の経営者および人事担当者は、フルリモート、ハイブリッド型、完全出社とそれぞれの勤務形態についてどのようなメリット・改善点を感じているのだろうか?
プロフェッショナルバンクのHR研究所はこのほど、働き方に関する制度運用の意図や文化の違いによる考え方の根本を調査し、1,060人の有効回答を得た。
すべての働き方で8割超が自社の制度運用は適当であると回答、中でもフルリモート運用は9割を超え、高い適合意識が見られる
まず、勤務形態について、現在の制度は自社にとって適当であるかを聞いた。
フルリモート運用企業は『最適である(50.1%)』が最多で、次いで『ある程度適している(42.0%)』『適していない(5.6%)』『まったく適していない(2.3%)』という結果になった。
完全出社運用企業のトップは『ある程度適している(62.2%)』で全体通して唯一の6割台となり、『最適である(18.2%)』『適していない(15.1%)』『まったく適していない(4.6%)』となった。
ハイブリッド型運用企業は『ある程度適している(55.0%)』が最も多く、以下『最適である(32.9%)』『適していない(7.4%)』『まったく適していない(4.8%)』と続いた。
『最適である』と『ある程度適している』を足した制度適合の意識を見ると、フルリモート運用が92.1%、完全出社運用が80.4%、ハイブリッド型運用が87.9%であり、総じて働き方に関する自社の制度は適していると考える経営者/人事が多いことがわかった。当然、培ってきた企業文化や事業特性を鑑みて、自信をもって運用していることがうかがえる。
中でも、フルリモート運用企業の制度については、制度運用の適合意識は9割を超え、さらに『最適である』の回答が半数に至るなど、経営者/人事の納得のいく運用になっているようだ。
ここからは3つの制度運用それぞれにフォーカスし、《適していると思う理由》と《適していない場合の改善点》を調査した。
フルリモート制度の運用は、「コスト面」と「採用面」における利点が上位
フルリモート運用企業で、自社の制度運用を『最適である』『ある程度適している』と回答した経営者/人事を対象に、制度が適当であると思う理由を聞いた。
最も多い回答は『オフィスの縮小や通勤コストの削減ができる(45.6%)』であり、以下『通勤時間が削減できる(35.8%)』『採用面で有利に作用する(34.3%)』『業務パフォーマンスが向上する(25.4%)』と続いた。
リモートワークが急速に浸透したのは、コロナの感染対策が背景にあるのは周知の事実だが、現在はその他の病気も含めて『感染リスクを軽減できる(11.9%)』点はフルリモート導入理由の上位には挙げられていない。制度運用における重要指標が大きく転換されたことが、数値で明確に示された。
現在のフルリモート制度からは、コスト面と採用面での利点を享受していることがわかった。また、従業員の働き方に対する満足度向上にも大いに寄与していることがうかがえる。
完全出社の制度運用では、従業員視点でのメリットが上位を占める
完全出社運用企業で、自社の制度運用を『最適である』『ある程度適している』と回答した経営者/人事を対象に、制度が適当であると思う理由を聞いた。
最多の回答は『業務パフォーマンスが向上する(40.3%)』で他を大きく凌ぐ回答結果になった。以下、2割台で『エンゲージメントが高まる(29.0%)』『顧客対応や現場対応など出社が必要な業務が多い(27.6%)』『企業文化が浸透しやすく、一体感が生まれる(24.4%)』『直接的・物理的なサポートができ、管理職はマネジメントがしやすい(21.9%)』と続く。
フルリモート運用の導入理由では、従業員の業務に関する項目は上位に名を連ねていなかったが、完全出社運用の導入理由は業務パフォーマンスやエンゲージメントの向上といった従業員視点でのメリットが上位を占める結果となった。
ハイブリッド型運用は、リモート勤務によって得られるメリットを依拠する結果に
ハイブリッド型運用企業で、自社の制度運用を『最適である』『ある程度適している』と回答した経営者/人事を対象に、制度が適当であると思う理由を聞いた。
『通勤時間が軽減できる(45.5%)』と『オフィスの縮小や通勤コストの軽減ができる(42.9%)』の2項目が4割超となり、他項目を圧倒して上位となった。以下『採用面で有利に作用する(28.7%)』『柔軟な働き方を促進できる(25.8%)』『ITインフラ/セキュリティ面での安全性が確保される(22.6%)』と続いた。
ハイブリッド型運用の上位3項目と、フルリモート運用の上位3項目は、同じになった。リモートと出社を組み合わせるハイブリッド型運用では、リモート勤務によって享受できるメリットが強調される結果となった。
フルリモート運用の改善点トップは「成長実感」と「業務支障の可能性」
フルリモート運用企業で、自社の制度運用を『適していない』『まったく適していない』と回答した経営者/人事を対象に、制度の改善したい点を聞いた。
フルリモート制度運用の適合意識は9割と高いため、適していないと感じる経営者/人事の方限定の質問につき、少数かつ同数の回答が並ぶ結果となっている。
改善点のトップは『周囲からの刺激が減り、個人の成長実感が乏しくなる(21.4%)』と『緊急対応・現地対応が必要な業務に遅れが生じる(21.4%)』が並び、次いで『仕事とプライベートの境界が曖昧になる(17.9%)』と『アイデア共有や意見交換が減少する(17.9%)』が同数で並ぶ結果となった。
完全出社の制度運用における改善点トップは「コスト面」
完全出社運用企業で、自社の制度運用を『適していない』『まったく適していない』と回答した経営者/人事を対象に、制度の改善したい点を聞いた。
『オフィス代、通勤の諸費用*がかかる(27.5%)』が最多となり、以下『ワークライフバランスが低下する(26.1%)』『通勤による時間的拘束や疲労感がある(20.3%)』『電子化・IT化が進まない(18.8%)』『集中できる環境(パーソナルスペース)を提供しにくい(18.8%)』と続く結果になった。
*通勤の諸費用:電車代・駐輪代・ガソリン代 など
ハイブリッド型運用の改善点トップはリモート時の「業務支障の可能性」
ハイブリッド型運用企業で、自社の制度運用を『適していない』『まったく適していない』と回答した経営者/人事を対象に、制度の改善したい点を聞いた。
最多の回答は『リモート時は緊急対応・現地対応が必要な業務に遅れが生じる(32.6%)』で唯一の3割台、以下『出社時とリモート時の業務バランスがとりづらい(27.9%)』『定性的な評価の基準が曖昧になる(23.3%)』『コミュニケーションや人間関係が中途半端になる(18.6%)』と続いた。
3つの制度運用それぞれにフォーカスした質問は以上だ。
続いて、全対象者に聞いた「理想の制度運用」に関する調査データを紹介する。
完全出社運用企業の経営者/人事は理想の制度とギャップがあり、ハイブリッド型運用を支持
今後、理想とする勤務形態は何かを質問したところ、『フルリモート』『完全出社』『ハイブリッド *リモート比率:高』『ハイブリッド *出社比率:高』の4分類で下記の結果となった。
フルリモート運用企業は『フルリモート(45.4%)』が最多で、『ハイブリッド *リモート比率:高(27.9%)』『完全出社(17.5%)』『ハイブリッド *出社比率:高(9.3%)』と続いた。
完全出社運用企業は『ハイブリッド *リモート比率:高(40.1%)』が最も多く、次いで『完全出社(36.1%)』が僅差で続く。以降は『ハイブリッド *出社比率:高(17.1%)』『フルリモート(6.8%)』という結果になった。
ハイブリッド型運用企業は『ハイブリッド *リモート比率:高(54.7%)』が最多、全体で唯一の過半数超えとなった。以下『ハイブリッド *出社比率:高(21.3%)』『完全出社(12.8%)』『フルリモート(11.3%)』と続く。
フルリモート運用とハイブリッド型運用の2つは、現在の制度運用と理想の制度運用のトップが一致する結果になった。とくにハイブリッド型運用は経営者/人事の制度における適合意識が高いことを再確認できるほど、現在と理想が一致している。
一方、完全出社運用は、現在の制度運用と理想の制度運用トップは一致せず、ハイブリッド型運用が理想の半数を超える結果となった。
最後に、勤務形態おける「意見」「持論」「発信したいこと」を自由に記載してもらった。一部抜粋して紹介する。
経営者/人事が働き方の制度運用について思うこと
経営者/人事の生の声だ。同じ経営者/人事は「共感」や「気付き」、そして「疑問」もあるだろう。一方、従業員が見れば、「共感」や「納得」、中には「反論」もあるかもしれない。
それぞれの考え方や持論がある。ビジネスパーソンとして、経営者/人事といった制度運用する立場の方々の考え方や思いを知る機会提供として、以下に記載する。
【フルリモート運用企業の声】
・通勤時間がもったいない
・家にいて仕事した方が捗る
・急な差し込み業務も自分のペースで仕事ができる
・どんな場所からでも、いつでも働ける環境を作ることで、柔軟な人材が集まりやすい
・時短・業務の効率化に繋がる
【完全出社運用企業の声】
・個人情報の関係でリモート勤務は難しい
・業務性質上、出社で勤務しないと仕事にならない
・リモートは制度としては楽だが、業務パフォーマンスの向上は期待できない
【ハイブリッド型運用企業の声】
・従業員のライフスタイルに合わせた勤務形態がとれることが理想だと思う
・リモートが合わない業務があるので不公平感が出る
・出社した方がスムーズな仕事があり、在宅で出来る集中業務もあり、両方ができる制度にしたい
・従業員の個人の時間を増やしてあげたい
・リモート勤務日を週1日だけでも取り入れることで、従業員の仕事に対する意欲が高まっていると感じている
・会社ごとに出社とリモートのベスト比率があり、難しい問題と感じる
<調査概要>
「在宅勤務」と「出社勤務」の働き方の制度運用に関する意識調査
調査期間:2025年4月11日(金) ~ 2025年4月17日(木)
調査方法:リンクアンドパートナーズが提供する調査PR「PRIZMA」によるインターネット調査
調査人数:1,060人(フルリモート運用企業所属:355人、完全出社運用企業所属:352人、ハイブリッド型運用企業所属:353人)
調査対象:在宅勤務と出社勤務の両立が可能な業界に属する企業の経営者/人事
*対象業界:IT・情報通信、不動産、金融・保険、マスコミ・広告、コンサルティング、クリエイティブ・デザイン、開発、EC事業、その他
調査元:株式会社プロフェッショナルバンク
構成/こじへい