
失業率が比較的低い状態が続いていると報じられる一方で、多くの求職者、とりわけ大学を卒業したばかりの若者たちにとって、現在の労働市場は非常に厳しい現実を突きつけている。データが明らかにするのは、ホワイトカラー不況の進行と、求人が減り、若年層の長期失業がじわじわと広がっているという問題だ。
第2次トランプ政権が雇用に与えた影響
Revelio LabsがBusiness Insiderに提供したデータによると、企業の採用活動が著しくペースダウンしている。2019年10月時点では、Russell 3000種指数に含まれる企業の求人の約91%が半年以内に埋まっていた。しかし2024年10月には、その割合が半分以下にまで減少した。求人サイトに応募が来ないのではなく、雇用主側がすぐに採用にコミットしづらい状況を表しているという。特に、第2次トランプ政権下での関税政策や対中貿易戦争の影響により、企業は人員計画を慎重に見直している。政治的・経済的な不確実性が、正社員の雇用をためらわせる一因となっているのだ。
ニューヨーク連邦準備銀行の報告によれば、2024年から2025年にかけて「新卒者の労働市場は著しく悪化」しているという。新卒者の失業率は5.8%と例年に比べると異常に高く、多くが専攻と関係のない仕事に就いているか、そもそも仕事が見つからない状況にある。こうした不透明な状況の中で、経験が乏しい新卒者がAIによる履歴書選別や自動フィルタにかけられて落とされるケースが増えてしまう。
AIは若手の就職の敵なのか?
コロナ禍による景気後退の影響が残る中、AIの導入が若手の就職をさらに難しくしていることも話題を集めている。近年多くの企業がAIを使って書類選考、一次面接、文章能力の評価まで自動化しており、そのプロセスは経験や人脈に乏しい若年層に不利に働いてしまうのだ。
さらに、かつては安定したキャリアの入口とされていたテック業界も、AIの導入や業務再構築により、定期的に数万人規模のレイオフを実施している。The Atlanticによると、ハーバードやウォートンといった一流ビジネススクールのMBA取得者でさえ、満足のいく仕事が見つからない状況に陥っているという。
長期失業(27週以上の失業)は、全国的な失業率が低水準にある中でも見逃されがちな問題だ。特に若年層では、最初の仕事に就けないまま数ヶ月が経過し、職歴がないことから再就職も難しくなっている。スキルの劣化、自信の喪失、「空白期間」への偏見など、こうした要因が重なり、若年層の社会的流動性を大きく損なっている。SNSを見ていても、多くの若者が「夢を諦め、生活費を稼ぐためだけの仕事を仕方なく続けている」と語っている。
今、仕方なく働いているのは若者だけじゃない
一方で、この雇用状況と経済状況の影響を受けているのは若者だけではない。Business Insiderの記事では、70代の高齢者が退職できず、週に7日も働かなければならないという経験談が語られている。トランプ大統領による関税の導入によりあらゆる分野において物価が静かに高騰し続けていることも打撃の一因だ。
この状況が変わらない限り、新卒者はアンダーエンプロイメント(過小雇用)と応募疲れ、昇進機会の欠如に苦しみ続けるだろう。キャリアのはしごを登るというアメリカンドリームは今なお語られているが、この世代にとっては最初の一段目にさえ手が届かないのが多くの場合現実である。
文/竹田ダニエル
1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行ない、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』での連載をまとめた初の著書『世界と私のAto Z』(講談社)を上梓。そのほか、多くのメディアで執筆している。
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