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トランプ関税の圧力の下でAppleはiPhoneを国内製造できるのか?5~10年後に考えられるシナリオ

2025.06.13

トランプ氏の関税圧力とその影響

2025年、トランプ元大統領は「アメリカ国内で製造されていないiPhoneには最低25%の関税を課す」と強硬に主張し、Appleに米国内生産を迫っています。さらにEUからの輸入品にも最大50%の関税を示唆し、米国の保護貿易姿勢は一段とエスカレートしました。この発言を受けて市場は動揺し、Apple株価は約2.6%下落、米国株式指数も1%前後下落するなど世界的な売りが広がりました。

中国でもApple関連のサプライヤー企業の株価が軒並み下落し、関税競争による米中関係悪化が懸念されています。関税圧力はAppleだけでなく国際経済に波紋を広げ、貿易戦争の再燃リスクを高めています。

なお、2011年に当時のオバマ大統領がジョブズ氏にiPhoneの米国製造を迫った際、ジョブズ氏は「その仕事は戻ってこない」と答えた逸話が伝えられており、それだけ海外生産に依存した構造が根付いていることが示唆されました。

iPhoneを米国内で製造するために必要な要素

では、AppleがiPhoneの米国内製造に踏み切る場合、何が必要となるでしょうか。まず製造拠点の整備です。何億台ものiPhoneを組み立てるため、広大な工場施設と生産ラインを新設する必要があります。試算では、生産の一部(約1割)を米国に移すだけでも3年間で約300億ドルが必要とされていま。用地の確保から建設、機械設備の導入まで巨額の投資と時間がかかり、仮に全量を移すならさらに桁違いのコストが予想されます。

次に人材と技術の確保です。現在、中国やインドには電子機器製造の専門技能を持つ大規模な人材層が存在します。Foxconn(鴻海)などAppleの委託先企業は数十万規模の労働者を柔軟に動員できる体制を敷いています。一方、米国では製造業従事者が全労働人口のわずか8.5%に過ぎず、必要な熟練工やエンジニアの数が圧倒的に不足しています。

ティム・クックCEO自身も「中国には高度技能と職人技が融合した製造環境があり、米国ではそれが非常に希少だ」と語っており、人材育成には長い年月がかかるでしょう。また、Appleは大量生産を高度な自動化技術にも頼っていますが、その大規模導入には技術開発が追いついていない現状があります。

さらにサプライチェーンと物流の問題もあります。iPhoneの部品の多くは現在アジアで生産されており、中国に組立拠点を置くことで部品調達と組立を地理的近接で効率化しています。米国で組立を行う場合、半導体チップやディスプレイなど主要部品を海外から輸送する必要が生じ、コスト増や遅延リスクは避けられません。レアアース(希土類)など一部重要資源も中国に依存しており、貿易摩擦次第では調達難に陥る可能性があります。 このように、「工場」「人材」「部品」のすべてを揃えるハードルは非常に高いのが現実です。

iPhoneの価格・製品クオリティへの影響

仮にAppleが米国内での生産を開始すれば、iPhoneの価格は大幅な上昇が避けられません。Wedbush証券のダン・アイブス氏は、iPhoneを米国で製造すれば価格が現在の最大3倍近くに跳ね上がる可能性があると試算しています。労務費だけでも25%以上のコスト増要因になるとの指摘もあります。Appleがこれをすべて価格転嫁すれば消費者負担は数万円規模となり、市場の需要に悪影響を与えるでしょう。

製品品質への影響も懸念されます。新たな生産ライン立ち上げ初期には不良率上昇など品質管理上の課題が生じやすく、熟練した作業員不足がそれを助長する恐れがあります。自動化を徹底すれば人為ミスは減らせますが、そのための先端技術は「まだ利用可能な段階にない」とされています。Appleは品質優先の企業だけに、米国移転後もしばらくは海外工場と併用して品質を確保する努力が必要になるでしょう。

サプライチェーン再編と中国・台湾企業との関係

iPhoneの米国製造は、Appleのサプライチェーン戦略に大きな転換を迫ります。まず、生産パートナーである台湾系企業(FoxconnやPegatronなど)に対し、米国内への投資と工場設置を促す必要が出てきます。TSMC(台湾積体電路製造)はアリゾナ州に半導体工場を建設中で、将来Apple向けチップを一部現地生産する計画ですが、スマホ部品全般に広げるにはさらなる投資が求められます。また、これまで生産を担ってきた中国本土の拠点を縮小すれば、中国企業との取引見直しや撤退が避けられません。一方、Appleはインドなど他国への生産分散も加速しており、2026年までに米国向けiPhoneの大半をインドから出荷する計画を進めているとも報じられています。実際、Foxconnが米ウィスコンシン州で計画した1.3万人雇用の大型工場は、米国の高コストや供給網不足を理由に頓挫し、実際には約1,500人規模の小規模施設に縮小しました。専門家からは「周辺に密集するサプライヤー網がなければ大規模工場は機能しにくい」との指摘もあり、単に工場を建てるだけでは問題は解決しないと考えられます。

経済的に現実的でない生産移転と政治的要請の板挟みで、Appleは難しい綱渡りを強いられているとも指摘されています。

米国内で“製造業復活”を示す政治的メッセージ

仮にAppleがiPhoneを米国で生産することは、政治的には「製造業の復活」を象徴する出来事となります。トランプ氏にとって公約達成の大きな実績となり、米国の製造業雇用を取り戻す象徴として喧伝されるでしょう。実際、Appleは近年米国向けに巨額の投資計画を発表しており、AI研究開発やサーバー製造施設などに今後数年間で5,000億ドルを投じるとしています。トランプ氏はこれを「ハイテク製造業の国内回帰の勝利」とアピールしています。もっとも、その投資の多くはiPhone生産とは直接関係ない分野であり、Appleとしては政治圧力をかわしつつ本業への影響を最小限に抑えるバランスを模索している面もあります。政府は今後、税制優遇や補助金などでAppleの国内生産を後押しする可能性がありますが、Appleほどの大企業への支援に対する批判も予想されます。結局のところ、Appleは政治的メッセージと企業利益の双方を考慮した慎重な経営判断を迫られるでしょう。

■消費者・投資家の反応

「Made in USA」のiPhoneに対して、消費者の受け止め方はさまざまです。愛国的な観点から国産を支持するファンもいるでしょうが、多くのユーザーは価格に敏感です。米国内の調査アンケートでは、価格が1割上がるなら国産でなくても構わないと答えた人が大半でした。実際に大幅値上げとなれば買い控えや他社製品への流出が起こり、Appleの市場シェア低下につながりかねません。

投資家も収益への影響を注視しています。関税の噂だけでも株価が下落するほどで、実際にコスト増が現実となれば利益率低下を織り込んでさらなる株価調整もありえます。Appleは強大なブランド力と財務基盤を持ちますが、iPhoneの利益率が縮小すれば企業価値への影響は避けられません。サプライチェーン再編に伴い、取引先企業の株価にも波及が及ぶ可能性があり、投資家はAppleの動向を注視しています。

未来の3つのシナリオ:楽観・中間・悲観

今後5~10年を見据え、Appleの対応と外部環境次第で様々な未来が考えられます。最後に、楽観的・中間的・悲観的な3つのシナリオを概観します。

・楽観的シナリオ:技術革新による国内製造の実現

Appleとパートナー企業が生産自動化や工程改革を進め、米国内生産のコスト高を大幅に抑制できるシナリオです。ロボット技術の飛躍的進歩により、多数の組立工程が自動化され、人件費増加を最低限に抑えます。政府も手厚い補助金・税優遇で支援し、Appleは段階的に米国内組立を実現。価格上昇も1割未満にとどまり、消費者も国産iPhoneを受け入れます。結果として数千人規模の高度製造職の雇用が創出され、Appleは「メイド・イン・USA」を新たなブランド価値として打ち出します。政権にとっても製造業復活の成功例となり、Appleと政府の関係は良好に維持されます。市場もサプライチェーン多元化による安定性向上を評価し、株価は堅調に推移するでしょう。

・中間的シナリオ:限定的な国内生産と妥協策

政治圧力に配慮しつつ、現実的コストとの折り合いをつけるシナリオです。Appleは一部モデルのみ米国組立を行い(例:高級モデルの最終組立)、その他の大部分は引き続き海外生産とします。米国内に新設する工場は最新鋭ながら生産規模は限定的で、象徴的な意味合いが強いものです。政府はそれを成果として宣伝し、Appleも「段階的に国内回帰を進めている」とアピールしますが、実態は全生産の数%程度に留まります。消費者向けには米国製モデルをプレミアム商品として販売し、価格上乗せ分をカバーします。一方、標準モデルは海外生産を続けるため大幅な値上げは回避されます。投資家にとっても、収益への影響は小さく、不安心理は抑えられます。ただし国内雇用創出の効果は限定的で、政治的な目的に対する実質が追いついていないとの批判が残るでしょう。

・悲観的シナリオ:コスト増と報復合戦による悪循環

確率は低いものの、貿易戦争が激化し、最悪の状況に陥るシナリオです。米政権がiPhoneへの50%関税発動を含む強硬策を実行し、Appleは全面的に生産を米国移転せざるを得なくなります。しかし製造コストの激増と人材不足から生産が滞り、新製品の供給遅延や品質問題が頻発します。iPhoneの価格は大幅に上昇し、一般消費者には手の届かない高価格帯となって販売台数が急減します。さらに中国政府は対抗措置として、中国市場でのiPhone販売制限や部品供給の妨害を行い、Appleのグローバル収益に大打撃を与えます。Appleの株価は暴落し、事業再編や人員削減など苦境に立たされます。米国内に建設した工場も期待ほど雇用を生まず、自動化設備に頼るため地元経済への恩恵はわずかです。消費者の不満と企業業績の悪化という悪循環に陥り、政治的にも「無理強いの政策が企業と消費者双方に損害を与えた」と批判される結果に終わるかもしれません。

おわりに

トランプ氏の関税圧力とAppleの戦略次第で、iPhoneの「米国製造」の未来像は大きく変わり得ます。Appleは高度にグローバル化したサプライチェーンとブランド戦略の中で、政治リスクと向き合う難しい舵取りを迫られているのです。今後数年、技術革新や国際関係の行方が、Appleがこの難題をどう乗り越えるかを左右するでしょう。世界が注目するこの綱引きの行方次第では、5~10年後に「メイド・イン・USA」のiPhoneが当たり前になる可能性も、単なる夢物語に終わる可能性も残されているといえます。

文/鈴木林太郎

【参考資料】
yourtango.com
koat.com
https://www.reuters.com/world/china/major-china-listed-apple-suppliers-including-luxshare-goertek-fall-after-trumps-2025-05-26/
https://www.facebook.com/smerconish/posts/yesterdays-poll-closed-with-8134-of-34449-voters-saying-that-they-would-not-pay-/1231326728349239/

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