
気になる”あの仕事”に就く人に、仕事の裏側について聞く連載企画。第17回は横浜DeNAベイスターズ応援団「全国星覇会」の代表を務める東條魁人さんに、会社員と応援団の両立、そして15年にわたり情熱を注ぎ続けるその理由を聞いた。
ベイスターズに魅了され高校1年生で応援団員に
野球場に響き渡るトランペットと太鼓の音が、観客の熱狂をさらに高める。選手やファンとともに試合を盛り上げる、影の立役者と言えるのが球団の応援団だ。横浜DeNAベイスターズの私設応援団「全国星覇会」は、現在約45名の団員で構成されている。代表を務める東條魁人さんは、副会長とともに各試合の応援の段取りや役割分担を決めるほか、球団との連携などを担う。
東條さんが全国星覇会に入会したのは高校1年の時。応援団としての活動を始めてから15年が経った。「初めて野球場で試合を観戦したのが小学校3年生の時。ベイスターズの応援に圧倒されて、一気にファンになりました。特に石井琢朗選手がかっこよくて、そこからベイスターズにどっぷりはまりました。中学3年生の時に星覇会に声をかけて、高校1年生になったタイミングで本格的に応援活動を始めました」
最初に与えられたのは旗振りの役割だった。横浜スタジアムは風が強く、旗がまともに振れずに怒られることも多く、辞めたいと思ったこともあるという。それでも、旗、太鼓、トランペット、リードとすべてのパートを経験し、いつしか仲間に頼られる存在に。現在は代表として会の運営を担いながらも、現場に立って応援をリードしている。「仕事や学業と両立しながらの活動は大変です。だからこそ、“応援って楽しい”と思ってもらえるような環境づくりを心がけています」
コロナ禍には球場からトランペットの音が消えた
オフシーズンにも団員の活動は続く。応援活動における反省点や改善点の洗い出し、新たな応援歌やチャンステーマの企画など、次のシーズンのための準備を行うのだ。応援歌は団員がオリジナルで作成。まず作曲担当がメロディを考え、そこに団員全体から募った歌詞案を組み合わせて1曲を完成させていく。
もともと音楽経験がある人はほとんどおらず、入会してからスキルを身につけたメンバーばかりだという。作曲だけでなく、旗を振り、太鼓を叩き、トランペットを吹く。新人が伸びるよう、楽器演奏のサポートやフォロー体制も整備されており、誰もが「応援のプロ」として育つ土壌が用意されているのだ。
しかし一時、球場から演奏が消えたことがある。コロナ禍の2020年から2022年までは、感染症対策として、球場でのトランペット演奏や声出し応援が禁止されたのだ。全国星覇会の団員はテレビ神奈川のスタジオを借り、そこで演奏した音をリアルタイムで球場に流すという形で対応した。「でも、やっぱり現場での熱気を感じられず、応援団を離れた人もいました。それでも、いつか元に戻ると信じて3年間踏ん張ってきました」
球場での応援制限が解除され、3年ぶりに球場で応援できた際には、団員で抱き合って喜んだという。「本当に感動しました。選手からも喜びの声があがりましたし、観客から『おかえり!』と声をかけてもらって、改めて応援の力を感じました」
応援が人々の心を動かし、球場全体に溶け込んでいく。全国星覇会の活動は応援にとどまらず、球場演出を作る一端を担っているとも言えるだろう。
会社員と応援団、2つの「本業」
東條さんはIT企業の金融部門に勤める会社員でもある。リモートワークを活用しながら、2024年には、なんと公式戦143試合中116試合に参加したという。
「平日、東京ドームで試合がある日は、近くのサテライトオフィスで仕事をして球場に直行、なんて日もありますし、球場でパソコンを開くこともあります。応援のために仕事をしている感覚です」と笑う。もちろん、日々の業務は全うしたうえで、自身の“もうひとつの本業”にも全力を尽くす姿勢は、まさに現代のビジネスマンの理想像といえる。
最後に、東條さんにとって「全国星覇会」とは何かを尋ねた。
「もう、人生そのものです。私の人生の優先順位1位にあるのは、間違いなく星覇会とベイスターズです。これからもリーグ優勝、そして日本一を目指して、全力で応援していきたいと思っています」
応援に情熱を注ぎ続ける東條さんの生き様は、「本気で好きなことに向き合う」ことの価値を教えてくれる。
【取材協力】
横浜DeNAベイスターズ私設応援団「全国星覇会」
代表
東條魁人さん
https://www.seihanet.com/
文 / Kikka
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