
マクドナルドの2025年5月の客数が前年同月比で9.5%増となりました。
5月16日に「ちいかわ」のおもちゃ付きハッピーセットの提供を開始すると、これがわずか3日間で販売終了。同月23日に第2弾の取り扱いを開始しました。30日に予定されていた第1弾と第2弾の再販はないというまさかの事態にも発展しています。
圧倒的な集客力を持つ「ちいかわ」は、巨大企業にとっての金脈になりつつあります。
単価アップ一服後の切り札となったキャラクターグッズ
マクドナルドの5月の売上高は前年同月比16.5%増。オープンから一定期間が経過した既存店の売上高も14.7%の増加でした。2023年1月から振り返っても、これほど増収率が高かった月はありません。「ちいかわ」の恐るべき集客効果と言えるでしょう。
マクドナルドは2024年11月も客数が9.5%増加していました。このときハッピーセットのおもちゃとして登場したのが「マリオカート」。大人も子供も楽しめるキャラクターは高い集客力を持っており、「ちいかわ」も例外ではないことが今回の初ハッピーセット化で明らかになりました。今後の展開にも期待ができます。
今やマクドナルドにとってキャラクターグッズは外すことのできない集客装置です。
特にコロナ禍以降は、強気の値上げで客単価向上による売上増を実現してきました。それが一服し、今後は集客が一番の命題になります。集客力の強いキャラクターグッズの開発は、フランチャイザーの腕の見せ所になるでしょう。
一方、マクドナルドの「ちいかわ」の過熱ぶりは異常とも言えるもので、転売が横行しました。フリマサイトには2000円以上で取り扱われるケースもあり、いかに広く顧客に届けるかは今後の課題の一つになるかもしれません。
「ポケットモンスター」に並ぶ強力なキャラクターに成長
「ちいかわ」人気の恩恵を受けているのはマクドナルドだけではありません。サイバーエージェントの業績にも好影響を与える可能性があります。
2025年3月27日に連結子会社のアプリボットがスマホアプリ「ちいかわぽけっと」をリリースしました。このアプリは2025年4月15日時点で300万ダウンロードを突破しています。
ゲームやソーシャルメディアを専門的に調査するSensor Towerによると、2025年1-3月における日本のモバイルゲームダウンロード数の第2位が「ちいかわぽけっと」。1位は累計で1億ダウンロードを突破して圧倒的な人気を獲得している「Pokémon Trading Card Game Pocket」が制したものの、「ちいかわ」人気は「ポケットモンスター」と肩を並べるほどのものであることを物語っています。
アミューズメント業界も恩恵
フリューも好影響を受けている会社の一つ。フリューはもともと医療機器大手のオムロンの子会社で、アミューズメント施設に設置するプリントシール機を手がけています。現在はオムロンから分離独立し、プライム市場に上場しています。
アニメーション「ゆるキャン△」の製作委員会の主幹事を務めたことでも知られ、ゲームの開発も行っています。この会社の主力が、定番キャラクターやマンガ作品などのIPの獲得と、その商品化を手がける世界観ビジネス事業。売上高全体のおよそ6割を占めています。
この事業の中でも強さを発揮しているのがクレーンゲームの景品。「ちいかわ」のキャラクターグッズも手掛けています。2024年3-12月におけるクレーンゲームの景品は12.0%もの増収でした。プリントシール機の需要が緩やかに減少するなか、力強く成長しています。
フリューは定期的に「ちいかわ」の景品を投入しており、増収の一助となるのは間違いないでしょう。
サンリオはファン層拡大のキーマンとして「ちいかわ」とコラボか?
©nagano / chiikawa committee © 2025 SANRIO CO.,LTD. 著作:(株)サンリオ
サンリオは2025年5月28日に「ちいかわ」とコラボレーションした新商品シリーズ「ちいかわ×サンリオキャラクターズ」を発表し、6月13日から取り扱いをスタート。初のコラボレーションということで、早くも話題となっています。
このコラボレーションは、「ちいかわ」ファンをサンリオの潜在的な顧客として獲得することを目的の一つにしていると考えられますが、特に男性ファンへのリーチを狙っているのではないでしょうか。実は「ちいかわ」は男性に好まれていることに最大の特徴があります。矢野経済研究所の「キャラクターに関する消費者アンケート調査を実施(2024年)」によると、男性の1位は「機動戦士ガンダムシリーズ」で、2位が「ちいかわ」でした。女性の1位は「サンリオ」。
サンリオは女性の支持層が圧倒的で、すでに高い認知度も獲得をしています。既存のターゲットの維持だけに努めた場合、人口の減少によって緩やかな需要の縮小が視野に入ります。中期的にはターゲットの見直し、再定義に迫られるでしょう。
事実、2027年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画では、主要施策の一つに「マーケティング・営業戦略の見直しによるグローバルでEvergreenなIP化」を掲げました。
「ちいかわ」とのコラボレーションは、マーケティング・営業戦略の見直しの一環であるかのようにも見えます。そして、「ちいかわ」が海外で人気を獲得していることも見逃せません。「ちいかわ」はサンリオのターゲット層拡大の可能性を秘めていると言えるのです。
2020年からTwitter(現X)上で連載を開始したマンガ作品が、企業の業績を左右するほどの巨大なビジネスに成長しました。
文/不破聡