
アイリスオーヤマから緑茶飲料の新商品が発売された。
その名は「アイリスのお茶 綠(りょく)」。
商品名の「綠」は緑茶の長い歴史を大切にしたいという想いを込めて、緑の旧字を使用している。
容器は500mlのペットボトルで、2025年6月2日からインターネットサイトや全国のスーパーマーケット、ホームセンターなどで順次発売する予定だ。
ではなぜ、アイリスオーヤマは緑茶事業に参入するのだろうか?
アイリスは日本の食品事業で社会問題を解決してきた
アイリスオーヤマは本社を宮城県仙台市に置く。
2011年に東日本大震災を被災。津波により約2万4000haの農地が冠水し、本社ほかライフラインが停止となった。
同社は以来、「復旧は速やかに、復興は時間をかけて」という大山健太郎会長の考えを元に、2016年に発生した熊本地震の支援や2024年におきた能登半島地震、米原大雨災害の支援など、被災地への速やかな支援を行ってきた。
また、1日配送の物流体制を強化し、100~300km圏内に工場を配置し、災害発生時でも迅速に物資を配送可能な体制を整えた。
■2013年に今話題の精米事業へ参入。2015年にはパックごはんも販売
同社は2011年東日本大震災の辛い経験を通して、日本の社会問題を食品事業を通して解決することを決意。日本屈指の米どころである宮城県に本社を持つことから、精米事業を開始することとなった。
そこで、2013年に農業生産法人舞台ファームと宮城県仙台市に精米事業の共同出資会社「舞台アグリイノベーション株式会社」(2025年に社名をアイリスアグリイノベーション株式会社に変更)を設立。家電メーカーとしては異色の精米事業に参入した。
「生鮮米 宮城県産ひとめぼれ 2合パック」「生鮮米 無洗米 宮城県産ひとめぼれ 2合パック」
2015年にはパックごはんの販売も始めている。
低温製法米のおいしいごはん 国産米100% 120g×10P
■2021年には飲料水事業へ参入
そして、2021年には食品事業の新分野、飲料水事業にも参入。天然水と炭酸水を販売し、同年の売上は200億円を達成している。
■2024年に食品事業のビジネス規模は420億円に急成長
飲料水にバリエーションを加えるなど、食品事業は順調に成長。2024年は420億円を達成し、2019年の150億円から3倍近い成長を遂げている。
2025年は飲料水事業をさらに強化
そして、アイリスオーヤマはさらなる食品事業の強化を目指して、2025年から緑茶飲料事業へ参入する。
ではなぜ、緑茶飲料なのか……その理由を探ってみたい。
■緑茶飲料事業のポテンシャルは?
国内の清涼飲料水市場は、コーヒー飲料などが21%、茶系飲料が19%、炭酸飲料が18%、ミネラルウォーター類が9%の構成となっている。
参考:(一社)全国清涼飲料連合会「清涼飲料水統計2024」品目別販売金額「品目別販売金額シェア(2023年)」
アイリスオーヤマがすでに販売しているミネラルウォーター類の市場規模に対して、茶系飲料は2倍を越える市場規模をほこるのだ。
加えて、緑茶、茶飲料の家計での年間支出金額は、2015年と比較すると茶飲料で約40%増加と成長している。
※参考:総務省統計局「家計調査結果」家計収支編 二人以上の世帯 支出金額(2015年~2019年、2020年~2024年)」
今後さらなる成長が見込めるジャンルな上、市場規模がすでにミネラルウォーター類の2倍となるこの市場は、同社の重要なビジネスターゲットであり、参入後の売上拡大が大いに期待できる。
■緑茶飲料事業のための設備投資金額は約150億円を予定
新市場へ参入するにあたり、アイリスオーヤマは国内回帰に向けた設備投資を行う。
緑茶の生産工場は埼玉工場と鳥栖工場を予定。さらに、2026年には舞鶴工場が竣工予定だ。
設備投資は継続して行われ、2025年計画では食品事業で230億円を計画。その他を含む合計で285億円。前年比9.6%と強化する。
■プラスチック製造のノウハウでボトル成形も。一貫生産を可能に
緑茶製造はアイリスオーヤマの生産力の強みが存分に生きる。たとえば、同社はプラスチックの製造ノウハウを持つ。これをボトル成形に活用することが可能であり、ボトル成形を含む工程を、自社工場でまかなうことになる(キャップ・ラベルを除く)。
工場での生産は、
抽出 > 遠心分離 > 調合 >殺菌 >充てん >検査 >梱包となり、充てん用にボトル成形行程を平行して行う。
以下は鳥栖工場での各行程の様子だ。
「アイリスのお茶 綠」のおいしさの秘密
ここからは、「アイリスのお茶 綠」の魅力に迫る。
■渋み・苦みをやわらげ〝朝、飲んでも美味しい〟お茶に
「アイリスのお茶 綠」は渋みと苦みが少なく甘みのある味わい。
抽出機を密閉し、低温で時間をかけて抽出することで風味や有効成分を保ち、さっぱりと仕上げている。
そして、回転による遠心力で固体と液体を分離。茶葉のかけらなどを取り除き、飲み心地がよくスッキリした飲み口に仕上げた。
その華やかで爽やかな香りは、朝に飲んでも美味しい緑茶に仕立ててくれる。
ブランドアンバサダーの吉沢 亮さんのCMをはじめ広告戦略も多彩
また、「アイリスのお茶 綠」のコミュニケーション戦略にも注目したい。
CMには、アイリスオーヤマのブランドアンバサダーの吉沢 亮さんを登用した。
テレビCMは、吉沢さん演じる伝説の茶人「お綠(りょく)さん」が理想のお茶を追求し、「アイリスのお茶 綠」を飲んで美しい朝の気配に出会うストーリーが描かれている。
ブランドサイトも公開。テレビCM本編やメイキング映像が順次公開される予定となっている。
2030年に食品事業で売上1000億円達成を目指す
「アイリスのお茶 綠」で緑茶市場へ事業参入し、食品事業の業務拡大を図るアイリスオーヤマは、食品事業全体の売上を2024年の420億円から、2030年計画で1000億円に伸展させる予定になっている。
物価の高騰や米不足など、日本社会は逆風が続く。そんな中、食品事業で「ジャパン・ソリューション」を目指すアイリスオーヤマ。食の未来を支えてくれる家電メーカーのビジネス戦略の今後に注目したい。
取材・文/中馬幹弘