
人口減少を理由に中小を中心とした企業の人手不足が深刻化する一方、物価高や人件費高騰の流れが続いている。
こうした中、今年度に正社員を雇用する予定の企業はどれくらい存在するのか?
帝国データバンクはこのほど、全国2万6,815社を対象に「2025年度の雇用動向(採用)」に関するアンケート調査を実施し、その結果を発表した。本調査は、TDB景気動向調査2025年2月調査とともに行った。なお、雇用動向に関する調査は2005年2月以降、毎年実施し、今回で21回目 。
正社員『採用予定がある』割合は58.8% 2年連続で低下し、4年ぶりに6割を下回る
2025年度(2025年4月~2026年3月入社)の正社員の採用状況について尋ねたところ、『採用予定がある』(「増加する」「変わらない」「減少する」の合計)と考えている企業は前回調査(2024年2月実施)から2.7ポイント減の58.8%となった。
2年連続で前の年度を下回り、新型コロナの影響が大きかった2021年度(55.3%)以来4年ぶりに6割を下回った。また、採用予定がある企業の内訳は、採用人数が「増加する」企業が同2.0ポイント減の21.7%だった。
他方、『採用予定はない』は同1.5ポイント増の28.5%と2年連続で上昇した。
『採用予定がある』企業からは、「とにかく人材が不足している。また、採用後も退職者がいるため人員が安定しないのが課題」(建設、大企業)や、「人手不足のため、増員が必要なことは常に起こっているが、多くの企業が同じように不足なので、この状況を解決することは非常に困難である」(ソフト受託開発、中小企業)といった声が聞かれた。
一方、『採用予定はない』企業からは、「賃上げの流れが加速するなか、売り上げが思うように上がらないため、なかなか賃上げができず、新しい人材を入れたくても入れられない状況」(機械製造、小規模企業)や「人が欲しいが、雇えるほどの資金余力はない。週2~3日のパートさんを雇いたいと思うが、採用体制を整える余裕もない」(その他サービス、小規模企業)のように、賃上げ圧力がかかるなか、厳しい経営状態から求人を控えざるを得ない様子がみられた。
また、「条件が良くないので、求人は集まらない」(鮮魚小売、中小企業)といった声も一定数あがった。
正社員『採用予定がある』割合、運輸・倉庫業がトップ
規模別に正社員の『採用予定がある』割合をみると、「大企業」は83.6%と全体(58.8%)を大幅に上回った。一方で、「中小企業」は54.4%、うち「小規模企業」は35.9%となり、企業規模が小さいほど割合が低くなる傾向がみられる。
業界別に正社員の『採用予定がある』割合をみると、「2024年問題」に直面している『運輸・倉庫』が66.2%で最も高かった。企業からは、「ドライバーの高年齢化により退職者が増加している。このままではさらに運転手不足に陥るため、若手社員を増加させたい。また、女性ドライバーも積極的に採用したい」(一般乗用旅客自動車運送、中小企業)といった声が聞かれた。
正社員採用予定、新卒新入社員は37.1%、中途社員は51.0%
2025年度の正社員の採用状況を採用形態別に尋ねたところ、『採用予定がある』(「増加する」「変わらない」「減少する」の合計)割合は、「新卒新入社員」で37.1%、「中途社員」で51.0%となった。
規模別に「新卒新入社員」と「中途社員」それぞれの『採用予定がある』割合をみると、「中小企業」では「新卒新入社員」が30.8%だったのに対し、「中途社員」は15ポイント以上高い47.0%となった。企業からは「新卒新入社員を教育する余裕がないため、スキルをもった中途社員を採用したい」(ソフト受託開発、小規模企業)など、社員への教育にかける時間など余裕がないため即戦力を求める様子がうかがえた。
また、「賃金が低い零細企業に新卒希望がある訳がない。人手不足のなか、余力のある大企業が人材獲得競争を勝ち抜いているのが現状」(輸送用機械・器具製造、小規模企業)のように、新入社員の採用意向はあるものの、大企業との初任給など賃金の格差拡大により、採用が難しくなっている中小企業の声も寄せられた。
非正社員『採用予定がある』割合は前年度比4.2ポイント減の41.7%
2025年度の非正社員の採用状況について尋ねたところ、『採用予定がある』(「増加する」「変わらない」「減少する」の合計)企業は前年度比4.2ポイント減の41.7%と2年連続で低下した。
一方、『採用予定はない』企業は同2.1ポイント増の42.5%となり、2年連続で4割を超えた。
『採用予定がある』企業からは、「経費削減のため正社員をパート社員に変更」(自動車・同部品小売、小規模企業)といった声のほか、「日本人のアルバイトやパートの採用を増やしたいが、応募が集まらないため、外国人留学生などのアルバイトを採用する予定」(専門商品小売、中小企業)など、採用が難しくなっている様子もうかがえた。
一方で、『採用予定はない』企業からは、「製造現場におけるパート職員を募集しているものの反応が薄く、採用に至っていない」(飲食料品・飼料製造、中小企業)といった声が聞かれた。また、「非正社員は格差是正の動きもあり、雇うメリットがほぼないため減らしていく」(その他サービス、大企業)や、「ここ最近の最低賃金の上昇により、業務内容と非正社員の賃金とのつり合いが取れなくなってきた。
非正社員の雇用継続について極めて厳しい判断を迫られる可能性が出てきた」(運輸・倉庫、中小企業)など、非正社員の賃金上昇傾向を受けて、採用を抑制する企業もみられた。