
近年、NASA(National Aeronautics and Space Administration)の「アルテミス計画」や、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の「Moon to Mars Innovation」推進等に伴い、宇宙関連ビジネスへの関心が高まっている。
安藤ハザマも2024年10月に「宇宙技術未来創造室」を設立。宇宙開発分野での技術革新と事業拡大を目指している。
そんな同社から、これまで建設事業において培ってきた同社の強みである地下空間構築やトンネル建設技術を応用。月面および月地下に安全・安心な空間を構築することを目的とした新たな技術開発構想「宇宙シェルター」と「ルナ・ジオフロント(注2)」が発表された。
(注2) 「ルナ(Luna)」は月を、「ジオフロント(Geofront)」は地下空間や地下に作られた都市を意味している。月の地下空間の構築と利用が重要になるという想いでルナ・ジオフロントと名付けた。特許庁に商標登録出願申請中。
その概要を同社リリースをベースにお伝えする。
構想1:宇宙シェルター
月面には地上の百倍以上の放射線が降り注ぐため、人類が月面で継続的に活動するには、この脅威から人や機材を保護する空間の構築と正確な被ばく安全評価が不可欠となる。
本構想では、恒常的な銀河宇宙線(注3)、突発的な太陽フレア(注4)の双方を対象にレゴリス(注5)を遮蔽材料として使用した月面放射線防護装置(宇宙シェルター)に関する検討を進めていく。具体的な検討内容は以下のとおり。
(注3) 超新星爆発等をその起源とする太陽系外から飛来する荷電粒子。放射線の一種であり、人体や機器に悪影響を及ぼす等、宇宙空間における活動の障害となる。
(注4) 太陽の活動により発生する急激なエネルギー放出現象。高エネルギーの粒子や電磁波を放出し、銀河宇宙線と同様に活動の障害となる。
(注5) 月等の衛星や惑星の表面上に見られる岩石由来の粒子や細かな欠片。月面活動の課題になるとともに、その活用が検討されている。
(1) 用途に応じた目標遮蔽性能の定義と、宇宙シェルターに必要な遮蔽材料構成・厚さの設計による、構造材および施工法の開発
(2) 銀河宇宙線および太陽フレアが人や重要機器に及ぼす影響を評価し、避難アラートを発報する仕組み
想定する用途:月面におけるさまざまな活動を実施するための仮設作業所、休憩所、一次避難所
実現目標時期:2030年代
構想2:ルナ・ジオフロント
月には地下空間(溶岩洞<注6>)の存在が確認されており、天然のシェルターとして将来的な活動拠点に活用することが期待されている。そのため、空間を構築するための技術の確立が必要だ。
本構想では、月地下空間における構造物の建設により、月地下空間を「人が働く空間」「住む空間」「重要設備を保護する空間」として活用する検討を進めていく。具体的な検討内容は以下のとおり。
(注6)月の地下に存在する自然の空洞で、過去の火山活動によって形成されたもの。溶岩洞は、微小隕石の衝突や、放射線被ばくに対するシェルターとして働くことや、溶岩洞内部は温度がほぼ一定(約-20℃)であることから、将来の月面基地の候補地として注目されている。
(1) 溶岩洞の空間の広さや形状を探索するロボット
(2) 空洞の安定性を評価する技術
(3) 探索結果および安定性の評価結果に基づいて空間を掘削・補強し、居住や研究等に活用可能な空間を施工する技術
想定する用途:月地下空間における居住、研究、生産活動を実施するための拠点
実現目標時期:2040年代
■今後の展望
産学官の連携を強化しながら、共同研究等を通じて本構想をさらに具体化していく予定。また、同社が出展を予定している「国際 宇宙ビジネス展 SPEXA(スペクサ)」において、本構想の詳細が紹介される。
展示会名: 国際宇宙ビジネス展 SPEXA
開催期間: 2025年7月30日(水)~8月1日(金)
開催場所: 東京ビッグサイト
URL : https://www.spexa.jp/tokyo/ja-jp.html
構成/清水眞希