驚くべき「減少率」──技術は現場の声から育った
かつて技術大国と呼ばれた日本は、今や米国・中国の後塵を拝して久しい。我々が使うものも、iPhoneからChatGPTまで海外のものが多い。
だがロジスティードのように、世界初の挑戦を恐れず進めば、凄いことが起こせるのではないか?
SSCV-Safteyの本格導入から一定の期間が経過すると、まず、事故発生率が導入前と比べ約71%も減少。これは偶然ではない。なぜなら、同時期にヒヤリハットの発生件数は90%以上減っていたからだ。
さらに、燃費が平均7%向上するという思わぬ副次的効果があった。なぜ燃費まで向上するのか? 南雲さんが説明する。
「事故を防ぐための丁寧な運転は、無駄の少ない運転に近かったんです。急ハンドル、急ブレーキが減れば、燃費が良くなるのもわかりますよね。SSCV-Safteyは、今、運送会社や交通機関など多くの企業に取り入れられているのですが……実は事故の減少と燃費の向上で、導入コストがほぼ相殺されるんですよ」
「インシデント発生数」とは、簡単に言えば「ヒヤリハットの数」を指す。これに加え事故も劇的に減少した。
この「命を守るDX」に大きな反応を示したのは現場のドライバーたちだった。例えば「風邪気味だと明確に疲労度が高いと計測してくれる」「自分の力ではどうしようもなかった事故が防げる」といった声が続々と上がったのだ。そして、業界全体が動き始めた。今、ロジスティードには運送業界の企業はもちろん、鉄道会社などからも導入に関する問い合わせが入っているという。
最後に南雲さんはこんな話をする。
「開発前は非常に難易度が高いと感じました。それでも前に進んだのは、当社は人が財産だからです。運送業界は労働集約的な事業だといわれます。実際、そういう部分もあるでしょう。であれば、人を大切にすべきですよね?」
世界初の技術は、幹部が現場に無理な要求をせず「ドライバーのせいではない、これは人間の限界だ」と考える英断から生まれた。この思いが研究者を動かし、現場の支持を得て、製品として結実したのだ。
SSCV-Safteyの開発は、物流の未来だけでなく、日本が技術立国として再び立ち上がる際、何を大切にすべきなのか――そんな問いにも答えているはずだ。
取材・文/夏目幸明