
電気で暮らしを変えてくれるメーカー、パナソニック。
多くの商品ラインアップを抱える同社は今、スポットライトとEV用の普通充電器に着目。戦略的な新製品をリリースします。
ではなぜ、パナソニックはスポットライトとEV用の普通充電器を重視するのでしょうか?
その理由を探ると、私たちの暮らしの未来が見えてきます。
〝オフィスがあかぬける〟時代。そのキーワードは照明かもしれない…
AIの導入など、経営環境は日々変化を続けています。
そして、コロナ禍を経験することで、私たちの勤務スタイルも大きく変わりました。
働き方が変わると、オフィスも変化が求められます。しかし、職場はコストへの配慮も重要です。いたずらにオフィスの移転や拡大を進めることは、経営戦略でネガティブ要素になることも。
2030年代へと企業が歩を進めるために必須となりそうな、オフィスの進化。そのキーアイテムは、照明かもしれません。
ABWにスポットライト利用が注目される
クラウドサービスを利用したPCが活用され、またビデオ会議が普及するなど、仕事の場所や時間を制限する要素が減った現代ビジネス環境。
みなさんの職場でも、フリーアドレス化が進んでいるかと思います。
そして、新時代の〝あかぬけたオフィス〟では、ABW(Activity-based working=アクティビティ・ベースド・ワーキング)が常識となりそうです。
フリーアドレスは職場への出勤が原則となりますが、ABWはさらに進化。出勤も業務状況により選択できるスタイルです。
ABWでは打ち合わせスペースや執務エリア、フリーエリアや集中エリア、休憩エリアなどが同フロアに混在することも常態化します。
しかし、従来の画一的な照明では、フロア内のエリアに変化をつけることが難しいかもしれません。
そこで、スポットライトが注目を浴びているのです。
照射エリアを絞ることが可能なスポットライトで、明るさや光色に違いをもたらし、オフィスを快適空間にしたい……そんなニーズが高まっています。
〝メリハリ照明〟が業務への集中とイニシャルコストの低減を両立
パナソニックは、スポットライトを活用した照明手法を研究。〝メリハリ照明〟と命名しています。
そして、手元は明るくて、デスク周辺は程よい明るさに絞ることにより、明るさに強弱(メリハリ)をつけやすくする新製品の開発に着手したのです。
「均斉度」「コンパクト化」「イニシャルコストの低減」がKW。新照明「TOLSO+」
パナソニックは2025年4月に「TOLSO+(トルソープラス)」を発売しました。
電源一体型スポットライト「TOLSO+ BeAm Free」(ホワイト)
電源一体型スポットライト「TOLSO+ BeAm Free」(ブラック)
スポットライトは従来、店舗での利用が多く、オフィスでの利用は少なかったのです。
その理由として、従来型のスポットライトは明るさのムラが大きく、オフィスユースでは目が疲れやすかったことがまず上げられます。
そして、器具の電源部分が大きくて天井でかさばったり、1席につき1台のスポットライトが必要で、イニシャルコストが高くなることがありました。
そこで、「トルソープラス」は、
1,「均斉度(きんせいど)」を向上させて明るさのムラを抑える
2.電源部分のサイズダウンでコンパクト化を図る
3.2席を1台でまかない、イニシャルコストを低減する
ことを商品開発の主軸としました。
「トルソープラス」の説明をする、パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 ライティング事業部 ライフスタイルライティングBU商品企画部 非住宅空間商品企画課 上田泰佑さん
オフィスの照明が激変! 「トルソープラス」の実力は?
オフィスの〝メリハリ照明〟を可能とするために開発された「トルソープラス」の実力はどのようなものでしょうか?
実際のオフィス環境で確認してみました。
上の画像、向かって左のテーブルは同社の従来商品、右のテーブルは新製品の「トルソープラス」で天井から照射したものです。
従来商品では、中心部は約1700ルクスと明るいのですが、輪郭部は約300ルクスと明るさの差が大きくでます。(参考:旧スポットライト200形 広角32度)
一方、「トルソープラス」は、中心部が約700ルクス、輪郭部は約400ルクスとなり、明るさのムラが抑えられていることが一目瞭然でした。(参考:「トルソープラス」200形 広角49度)
従来商品は中心部と輪郭部の明度差=均斉度が約20%であるのに対して、「トルソープラス」では約60%と高くなったことが、画像からおわかりいただけるかと思います。
また、「トルソープラス」のコンパクト化も、製品を手にすることではっきりと実感できます。
上の画像、右手で持っているのが従来商品。左手で持っているのが「トルソープラス」と、サイズの差は歴然です。
そして、イニシャルコストの低減に寄与する、〝2席を1灯で照射できるか〟という課題も確認。
上の画像のとおり、従来商品4灯を照らし、長テーブルの照明としました。
すると、上の画像のように、長テーブルの明るさにムラが強くでていることがわかるはず。
一方、下の画像のように「トルソープラス」2灯で照射したところ……
長テーブル全体で明るさのムラが減りつつ、テーブル周辺は程よい明るさに抑えられていることがおわかりいただけるでしょう。
「トルソープラス」はスポットライトでありながら、フラット配光で広角の31度から45度を実現しています。その広角照射の効果を画像から実感できたでしょうか?
ちなみにオプションで、「トルソープラス」は配光角度を56度まで広げることも可能です。壁面照明などに活用すれば、オフィス全体の明るさ確保に貢献するはずです。
以上のように均斉度の向上やコンパクト化を進め、そして、台数削減を可能とする配光の広角化などの進化により、「トルソープラス」は省エネ性能を向上させました。
例として、ベースライトを使って全体を均一照明するオフィスと、スポットライトを利用した〝メリハリ照明〟のオフィスとで、電力使用量や年間電気代を比較してみました。
その結果、電力使用量と年間電気代は約31%ダウン。あくまで試算ではありますが、年間で3万5000円の電気代の削減が可能となりました。
さらに、実際のオフィス環境で、「トルソープラス」の実力と〝メリハリ照明〟の有効性を体感してみました。
上の画像は、従来のとおり部屋を均一照明としたものです。
一方、同じ部屋を「トルソープラス」を活用して〝メリハリ照明〟化したものが上の画像です。
色温度の変化による印象の差もありますが、テーブル以外は程よく照度が落ちて、パーソナルな空間意識が強まったことがわかります。
これなら集中力も高まり、業務効率も向上するのでは? と実感できました。
そして、照明の切り替えは無線設定などをしたタブレットでの操作も可能。時間帯や天候、オフィスの使用状況などで臨機応変に照明を変えることができるのも魅力です。
なぜ、パナソニックはEV用に普通充電器を重視するの?
それでは続いて、EV用の充電器を確認してみましょう。
パナソニックは、2025年7月22日にEV・PHEV用充電器で、充電ケーブルが付属する「ELSEEV hekia S Mode3(エルシーヴ ヘキア エス モード3)」をモデルチェンジ、充電出力とケーブル長のラインアップを拡充することになりました。
「ELSEEV hekia S Mode3」標準タイプ 壁面設置 (DNH3611)
新登場した「ELSEEV hekia S Mode3」は、「普通充電器」と呼ばれるタイプです。パナソニックはなぜ、普通充電器を進化させたのでしょうか?
EVの充電設備は「普通充電器」「普通充放電器」「急速充電器」がメインストリーム
ところで、EV(電気自動車)とは何でしょうか? 「そんなことわかってるよ!」とおっしゃる方が多いかと思いますが、改めて確認してみましょう。
一般的に、EVはバッテリーに蓄えた電気でモーターを駆動して走るBEVと内燃機関と電気モーターを組み合わせて走行し、外部からの給電が可能なPHEVを指すことが多いです。
外部から給電する際に、充電器が活躍することになりますが、EVの充電設備は主に、普通充電器・普通充放電器・急速充電器の3種類があります。
それぞれにメリット・デメリットがあり、普通充電器はコストが安いことが重要です。ただし、急速充電器に比べて、充電時間がかかります。
普通充電器・普通充放電器は一般家庭に使われる単相交流200V(または100V)が利用されるので、工事費用が抑えられます。
一方、急速充電器はというと、電源に三相交流200Vを使用するため、一般家庭向きでないのと同時に、出力50kW程度となると高圧受電が必要。高速道路のサービスエリアや道の駅といった交通施設や、商業施設などでの設置が中心となります。
利用シーンで「基礎充電」「経路充電」「目的地充電」が存在
普通充電器・充放電器のデメリットに充電時間の長さを挙げましたが、しかし、利用環境次第では、急速充電が必要とは限りません。
EVを走らせるために必要な充電は、利用シーンで以下の3つに分類ができます。
1.出発地で行う「基礎充電」
2.移動中に行う「経路充電」
3.目的地で行う「目的地充電」
移動中に充電時間を何時間も確保することは、現実的ではないですが、出発地(自宅など)や目的地では、比較的長めに充電時間が確保できることが多いはず。
そこでは普通充電器の利用は有効ですし、ローコストゆえに充電インフラを増やすことが可能。これは、EVを便利にするカギとなりそうです。
そのような背景から、パナソニックは家庭や公共施設、ホテルや病院などへ普通充電器の設置を増やすために、価格を抑えて使い勝手を向上させた普通充電器、「ELSEEV hekia S Mode3」を新製品としたのです。
車載バッテリーの高容量化で充電器に求められる性能に変化が
また、車載バッテリーの高容量化も見逃せない環境変化のひとつでしょう。
例えば、日産「リーフ」は、デビュー当初のバッテリー容量は24kWだったのに対して、現行モデルは40kW、60kWと大型化しています。
そのため、普通充電器を高出力とし、充電時間を短縮を希望する声が、EVユーザーから高まっているのです。
「ELSEEV hekia S Mode3」が大きく進化
それでは、2025年7月22日発売予定の「ELSEEV hekia S Mode3」の進化ポイントを確認してみます。
「ELSEEV hekia S Mode3」は、現行モデルと比較して、大きく2点が進化しました。
1つめの進化がコネクタホルダの別体化です。
従来の「ELSEEV hekia S」は、コネクタホルダが本体と一体化されていました。
設置工事を容易にしていた反面、左利きの方の不便や、設置場所を制限することもありました。
そこで、新型ではコネクタホルダを別体として、操作性と設置場所の自由度を向上させました。
加えて、出力4.8kWモデルを標準タイプに追加。さらに、6kWモデルには7m、10mケーブルが付属する商品を追加しています。
出力4.8kWという〝丁度よい〟性能
車載バッテリーの高容量化で、充電器の大出力化が望まれていると前述しました。しかし、パナソニックは「ELSEEV hekia S Mode3」には従来より、6kWモデルをラインアップしています。
ではなぜ、新たに4.8kWの出力モデルが加わったのでしょうか?
パナソニックのEV充電設備には、屋外コンセントタイプの充電設備もラインアップします。そちらは、単相交流200V 20Aに対応。推奨される配管径は呼び22です。
一方、6kWモデルは単相交流200V 40Aに対応。しかも、電力線は8mm²で、推奨される配管径は呼び28です。
4.8kWモデルはというと、単相交流200V 20Aで電力線は5.5mm²。推奨される配管径は呼び22となっており、屋外コンセントタイプや3kWモデルから屋内の既設配線を変更する工事が要りません。
そのため、3kWを利用している人にとっては、4.8kWは住居の配線などの工事が不要のため、ローコストで出力アップが見込めるのです。
そんなユーザーフレンドリーな製品をラインアップに加えるため、パナソニックは出力4.8kWモデルを新たにラインアップしたというワケです。
従来モデルより価格を下げ、将来の需要拡大に備える
さて、ここまで「ELSEEV hekia S Mode3」が登場した背景と、製品の進化ポイントについてご紹介してきました。
最後に、普通充電器の普及は今後進むのか、パナソニックの田中さんに話をうかがいました。
パナソニック株式会社 エレクトリックワークス社 電材&くらしエネルギー事業部 マーケティングセンター 商品営業企画部 環境エネルギー商品部 蓄電池・EV企画課 課長 田中政行さん
「2024年はEV車両販売の伸び率は少し落ち着きました。しかし、日本は欧米や中国に比べてEVの普及率は低いですが、今後は新車販売数が伸びると予測されます」(田中さん)
「また、『ラストワンマイル』の担い手として、運輸系の企業がEV化を促進していますし、郵便の集配用車両の多くがEV化されているように、地域内配送にEVは強みをもっています。以上の理由から法人、個人使用を問わず、EVの普及は日本でも進むと思います。
充電設備はEV購入時に設置されることが多く、パナソニックは普通充電器で約45%の市場シェアを持ちます。EVの新車販売数の進捗は『ELSEEV hekia S Mode3』の販売数の伸びにつながると思います」(田中さん)
EVの普及は、車両の進化だけではなく、充電インフラの充実が欠かせません。パナソニックは普及をサポートするため、部材などが高騰する中、「ELSEEV hekia S Mode3」のほとんどのモデルで希望小売価格を引き下げしました。
これからのEVの普及と、「ELSEEV hekia S Mode3」の販売拡大は、玉子が先かニワトリが先か……いずれにしても、EVの国内利用が増えることは間違いなさそうです。
取材・文/中馬幹弘