労働者と使用者の双方ともに、最低賃金は必ず確認する必要がある。今回は、都道府県別の最低賃金を紹介しつつ、ビジネスパーソンが知っておくべき最低賃金の基礎知識を解説する。
目次
最低賃金は毎年10月に改定される。昨今は賃上げの機運が高まっていることもあり、最低賃金は上昇傾向だ。
労働者と使用者の双方ともに、最低賃金は必ず確認しよう。今回は、都道府県別の最低賃金を紹介しつつ、ビジネスパーソンが知っておくべき最低賃金の基礎知識を解説する。
【都道府県別】全国最低賃金ランキング
最低賃金は、都道府県ごとに時給で定められている。令和6年における最低賃金を、高い順に並べると以下のとおりだ。
都道府県 | 最低賃金(円) |
東京 | 1,163 |
神奈川 | 1,162 |
大阪 | 1,114 |
埼玉 | 1,078 |
愛知 | 1,077 |
千葉 | 1,076 |
京都 | 1,058 |
兵庫 | 1,052 |
静岡 | 1,034 |
三重 | 1,023 |
広島 | 1,020 |
滋賀 | 1,017 |
北海道 | 1,010 |
茨城 | 1,005 |
栃木 | 1,004 |
岐阜 | 1,001 |
富山 | 998 |
長野 | 998 |
福岡 | 992 |
山梨 | 988 |
奈良 | 986 |
群馬 | 985 |
新潟 | 985 |
石川 | 984 |
福井 | 984 |
岡山 | 982 |
和歌山 | 980 |
徳島 | 980 |
山口 | 979 |
宮城 | 973 |
香川 | 970 |
島根 | 962 |
鳥取 | 957 |
愛媛 | 956 |
佐賀 | 956 |
山形 | 955 |
福島 | 955 |
大分 | 954 |
青森 | 953 |
長崎 | 953 |
鹿児島 | 953 |
岩手 | 952 |
高知 | 952 |
熊本 | 952 |
宮崎 | 952 |
沖縄 | 952 |
秋田 | 951 |
最低賃金が高い都道府県を見ると、首都圏や大阪、愛知などの大都市圏を有する地域が目立つ。これらの地域では多様な産業が集積し、労働需要が高く、生活コストも相対的に高い水準にある。
また、これらの地域では住宅費・交通費・生活必需品の価格が相対的に高い。労働者の生活を支えるために相応の賃金水準が必要となるため、最低賃金制度の目的である「労働者の生活の安定」を実現するため、生活コストに見合った賃金設定が行われているのだ。
※出典:厚生労働省兵庫労働局「地域別最低賃金全国一覧 (令和6年)」
最低賃金とは
事業主は、最低賃金以上の賃金を労働者へ支払わなければならない。最低賃金はどのように決まるのか、いつ改定されるのかを確認しよう。
■最低賃金の決まり方
最低賃金は、公益代表・労働者代表・使用者代表が同数で構成される「最低賃金審議会」で議論され、最終的に都道府県労働局長が決定している。
まずは、中央最低賃金審議会が全国的な引上げ額の目安を示す。示された数値に基づいて各都道府県の地方最低賃金審議会が、地域の実情(労働者の生計費・賃金・事業の賃金支払能力など)を踏まえて、審議を行う流れだ。
審議結果と異議申出の手続きを経て、最終的に都道府県労働局長が決定する。実態としては、都道府県の地方最低賃金審議会が示した数字が、そのまま最低賃金として決定されることが多い。
なお、最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2種類がある。
- 地域別最低賃金:都道府県ごとに決められ、産業や職種を問わず原則すべての労働者と使用者に適用される
- 特定(産業別)最低賃金:特定産業の労使からの申出があり、審議会が必要と認めた場合、調査・審議を経て決定される
なお、地域別最低賃金は「労働者の生計費」「労働者の賃金」「通常の事業の賃金支払能力」を総合的に勘案して定められる。「労働者の生計費」に関しては、労働者が健康的で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮することとなっている。
特定(産業別)最低賃金は、関係労使の申出に基づき最低賃金審議会が必要と認めた場合、最低賃金審議会の調査審議を経て決定される。
※出典:厚生労働省「最低賃金の種類は?」
■最低賃金が決まる時期
日本の最低賃金は年1回見直しされており、10月から新しい最低賃金が適用される。発効日は都道府県ごとに異なるが、基本的には10月中に新しい最低賃金が発効し、当該都道府県に適用される。
最低賃金の改定は、賃金の実態調査や経済情勢、生活費などを総合的に考慮して決定される。昨今は政府が企業に賃上げを求めている方針もあり、毎年3%程度の引き上げ目標が掲げられている状況だ。
■最も最低賃金が伸びている自治体は?
ここ数年は最低賃金の引き上げが続いている。令和6年で最も引き上げ率が高かったのは、徳島県の「9.4%」だった。
その他の県を見ても、岩手県と愛媛県で6.6%となっており、他にも6%を超える県がいくつかある。
最低賃金の引き上げは、すべての労働者が最低限度の生活を維持できるように行われている。近年の物価高騰により、実質賃金が低下しているため、最低賃金を引き上げて労働者の購買力を維持・向上させなければならない。
生活を守る目的だけでなく、消費拡大による経済活性化も、最低賃金引き上げの背景だ。賃金を上げることで労働者の所得が増え、消費が拡大し、内需を刺激して経済成長を促す狙いもある。
ビジネスパーソンにとって最低賃金の知識の活かし方
労働者・使用者の双方の立場において、最低賃金は意識すべき情報だ。労働者は自分の権利を守るためにも、使用者は法律違反を犯さないためにも、最低賃金を確認しよう。
■労働者にとっての最低賃金
ビジネスパーソンは、最低賃金を自分事として捉える必要がある。自分が受け取っている賃金が最低賃金を下回っていないか確認し、権利を守ろう。
地域別最低賃金は、正社員だけでなく、パート・アルバイトや嘱託など雇用形態や呼称に関係なく、すべての労働者に適用される。もし最低賃金を下回っている場合、事業主に掛け合うとよいだろう。
なお、最低賃金の確認方法は以下のとおりだ。
- 時間給の場合:時間給≧最低賃金額(時間額)
- 日給の場合:日給÷1日の所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
- 月給の場合:月給÷1箇月平均所定労働時間≧最低賃金額(時間額)
- 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金の場合:出来高払制その他の請負制によって計算された賃金の総額を、当該賃金算定期間において出来高払制その他の請負制によって労働した総労働時間数で除した金額≧最低賃金(時間額)
自分が受け取っている給与が最低賃金を下回っていないか、確認してみよう。
■使用者にとっての最低賃金
従業員を雇用している使用者の場合も、最低賃金を意識することは重要だ。労働者に最低賃金未満の賃金しか支払っていない場合、使用者は労働者に対してその差額を支払わなくてはならない。
また、最低賃金法違反として罰則(50万円以下の罰金)が定められている。社会的な信用を失わないためにも、最低賃金の最新情報を確認し、従業員に最低賃金以上の賃金を支払っているか確認しよう。
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者の範囲や最低賃金額などについて、職場で周知する必要がある。労使間の信頼関係を維持するためにも、透明性のある対応を意識しよう。
なお、最低賃金の計算の範囲となるのは、労働者に支払われる賃金のうち「毎月支払われる基本的な賃金」だ。残業代やボーナスなどは含まずに計算する点に注意しよう。
具体的に、最低賃金の計算の範囲に含まない賃金は以下のとおりだ。
- 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
- 1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金など)
- 所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
- 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
- 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
今後も最低賃金は上昇する可能性があるため、使用者は最低賃金改定のタイミングを把握し、人件費予算を事前に調整しよう。最低賃金の上昇トレンドを踏まえて、中長期的な人件費を予測すれば、人件費が経営に与える影響をシミュレーションできる。
コンプライアンスの観点だけでなく、将来の経営戦略や財務状況をシミュレーションするためにも、最低賃金は必ず確認しよう。
※出典:厚生労働省「対象となる賃金は?」
まとめ
最低賃金は法律で定められており、労働者が主張できる権利の一つだ。受け取っている給与が最低賃金を下回っている場合は法律違反となるため、使用者に働きかける必要がある。
使用者の立場の方は、コンプライアンスを遵守しつつ労使間の信頼関係を損ねないためにも、最低賃金を確認しよう。
昨今は賃上げの機運が高まっていることもあり、最低賃金が注目される場面が増えると考えられる。最低賃金は毎年10月に改定されるため、注目するとよいだろう。
文/柴田充輝(しばたみつき)
厚生労働省や不動産業界での勤務を通じて社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。 FP1級と社会保険労務士資格を活かして多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。現在はWebライターとして金融・不動産系・ビジネス系の記事を中心に執筆しており、1,200記事以上の執筆実績がある