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6月6日は日本宇宙史に残る一日となるか?ispaceの月面着陸で注目の「月面輸送ビジネス」という巨大市場

2025.06.02

日本発のベンチャー企業ispaceが1月に打ち上げたミッション2の月着陸船(ランダー)が6月6日(金)午前4時24分(日本時間)にいよいよ月面に着陸する予定だ。

ispaceのランダーが月着陸に挑戦するのは2023年4月のミッション1に続き2回目。前回は着陸の直前でランダーが高度測定を誤り、機体は月面に衝突。月面軟着陸は惜しくも失敗となった。今回は対策を講じ、万全の体制で再挑戦に臨む。着陸の成否が注目されるなか、見どころや世界の月面探査の最新動向を紹介する。

(1月15日に行われた「打ち上げ応援会」の様子 撮影:井上榛香)

ispaceが挑戦する「月面への宅配便」ビジネスとは?

宇宙ビジネスと一口に言ってもさまざまなものがあるが、ispaceの現在の主な事業はいわば「月面への宅配便」だ。アポロ計画以来となる有人月面着陸などを目指す「アルテミス計画」などにより、地上から月面へ科学実験装置や物資を輸送する需要が高まっている。こうした状況にビジネスチャンスを見い出し、月面への宅配ビジネスを計画する企業が増えてきているのだ。

ispaceのランダーには、約30kgの荷物(ペイロード)が積載できるようになっている。前回のミッション1のランダーには、 日本特殊陶業の固体電池、UAEドバイの政府宇宙機関であるMBRSCの月面探査ローバーRashid、JAXAの変形型月面ロボット、MCSS社のAIのフライトコンピューター、Canadensys社のカメラ、クラウドファンディング支援者の名前を刻印したパネル、応援歌であるサカナクションの「SORATO」の楽曲音源を収録したミュージックディスクの7個のペイロードが搭載された。総契約金額は1000万ドル(1ドル=150円換算で約15億円)だったという。

そして、今回のミッション2では、高砂熱学工業株式会社の月面用水電解装置、ユーグレナの月面環境での食料生産実験を目指した装置、台湾の国立中央大学が開発する深宇宙放射線プローブ、バンダイナムコ研究所の「GOI宇宙世紀憲章プレート」、ispaceの欧州法人が開発したマイクロローバー(探査車)「TENACIOUS(テネシアス)」、スウェーデンのアーティストによる「ムーンハウス」と呼ばれる、手のひらに乗るサイズの小さな家型のアート作品の6個のペイロードが搭載され、輸送中だ。総契約金額は、ミッション1を上回る1600万ドル(1ドル=150円換算で約24億円)だという。

(ispaceのランダー 撮影:井上榛香)

イーロン・マスク氏が率いるSpaceXはもはや宇宙ビジネスを語る上で欠かせない存在となっているが、そんなSpaceXを成長させたNASAのプログラムの一つに「商業軌道輸送サービス」(Commercial Orbital Transportation Services、通称COTS)がある。これは、スペースシャトル退役後の国際宇宙ステーションへの貨物輸送を政府主導でなく民間主導で実現することを目指した、宇宙輸送サービスの育成プログラムである。SpaceXがCOTSに選定された2006年当時はまだ無名のスタートアップ企業だった。しかし、COTSでロケットの開発費用の提供を受けたことが、SpaceXの成長を後押ししたと言われている。

現在は、「月面版COTS」とも言える、NASAが民間企業に月面輸送を委託するプログラム「商業月面輸送サービス」(Commercial Lunar Payload Services、通称CLPS)が進行している。NASAは複数の企業と契約し、競争を促している。2024年2月に世界で初めて民間企業としてランダーの月面着陸を成功させた米国のベンチャー企業Intuitive MachinesもCLPSの採択企業であり、NASAのペイロードを月面へ輸送した。しかし、Intuitive Machinesのランダーは横倒しの状態での着陸となった。2025年3月に行われた2回目の月着陸ミッションにおいても、ランダーは横転してしまった。月面着陸のハードルの高さがうかがえる。CLPS採択企業のFirefly Aerospaceはランダーを打ち上げ、3月に直立した状態での月面着陸を成功させた。なお、ispaceは、米国のドレイパー研究所とともに「Team Draper」としてCLPSに参加していて、2026年に打ち上げる予定のランダーでNASAのペイロードを月面へ運ぶ予定だ。

カメラ付き探査車やアート作品も月面へ

ispaceが今回のミッション2で月面へ輸送しているペイロードのなかでも、特に注目したいのはTENACIOUSローバーだ。TENACIOUSローバーはわずか5kgの小型のローバーで、ランダーが月面に着陸すると、降下して月面に着地し、自走して月面探査に挑む。ローバー前方にはHDカメラが搭載されており、月面上での撮影も可能だ。

名称のTENACIOUSは「粘り強さ」という意味があり、諦めることなく努力を続ける決意を体現しているという。ispaceは、過去にXPrize財団による月面探査レース「Google Lunar XPRIZE」に出場していた経緯がある。このレースは、2018年3月までに民間企業が主体となって月面にローバーを送り込み、月面を走行させ、画像や動画を地上へ送信するというもの。ispaceはファイナリストの5チームにまで残り、インドの「チームインダス」が開発したランダーと調達するロケットに相乗り打ち上げすることで、2018年にローバーを月面で走行させる計画だった。しかし、チームインダスはロケットの調達に失敗。ispaceは打開策を見つけられないまま、2018年3月にレース終了の期限を迎えた。ispaceはその後、独自にランダーを開発し、月面探査を続けることを表明し、現在に至る。ispaceにとって、ローバーの月面着陸は悲願の達成と言えるだろう。

さらに、TENACIOUSローバーには、アート作品「ムーンハウス」が取り付けられていて、ローバーが月面に降り立った後に降下させ「月に家を建てる」計画だ。TENACIOUSローバーに搭載されたカメラで月面に建つムーンハウスを撮影する予定もあるという。

(ランダーに収められたローバー。「ムーンハウス」が右手側の車輪の裏に見える 撮影:井上榛香)

TENACIOUSローバーは、どんな写真を届けてくれるのだろうか。こうした遊び心あるペイロードの存在は、月面輸送の商業化が進むなかで、新たな文化的価値を生み出してくれるかもしれない。

取材・文/井上榛香

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