
■連載/阿部純子のトレンド探検隊
受け取った名刺の管理・活用を起点とした営業DXサービスを提供している「Sansan」は、新たな「デジタル名刺ソリューション」を5月26日より提供開始した。
「デジタル名刺メール」「デジタル名刺メーカー」を搭載した新サービス
2007年に設立され今年19年目を迎えたSansan。名刺管理市場におけるシェアは84%、1万社を超える企業が活用しており、名刺をデジタルで管理する概念がなかった時代から、受け取った名刺をデータ化して管理する市場を作ってきた。
企業において名刺交換は収益につながる重要な要素だが、国内では名刺管理サービスを導入していない企業も多く、そうした企業との商談においては、渡した紙名刺の管理が各担当者に委ねられ、属人的になっているケースも少なくない。
同社の調査によれば、受け取った名刺を57.7%が整理できていないと判明。また、40.7%が「紙の名刺の紛失や整理不足により、必要な連絡先を見つけられなかった経験がある」と回答し、半数が受け取った名刺を管理できていないことが明らかになった。
「これまでのSansanは、お客様から受け取った名刺をデータ化し、社内で共有することで、ビジネス機会を最大化するという価値を届けてきました。
一方で、渡した名刺が持つ価値が十分に引き出されておらず、営業担当者が渡した名刺のおよそ半分が活用できる状態で管理されていないことが調査から判明しました。
つまり、企業の担当者が営業先に名刺を渡しても、半分以上は渡していないのと同じ状態になっているということ。原因は名刺を紙だけで渡してしまっているからだと当社では考えています。物理的な紙の名刺は、相手がきちんと整理していなければ活用されず、連絡をもらうことができません。
現代では、名刺を交換してもいざ連絡をするときにはパソコンやスマートフォンなどのデジタルデバイスを利用しています。連絡をしてもらうために名刺を渡しているはずが、名刺が紙だけだと渡す名刺の価値が半減してしまっているのです。
18年間、名刺の価値に向き合ってきたSansanが新しく打ち出したのが『デジタル名刺ソリューション』です。デジタルデータで作られたデジタル名刺として、氏名、会社名、連絡先など一般的な名刺と同様の内容が記載され、紙の名刺だけでなくデジタル名刺も渡せるようになる、今までにないソリューションです」(執行役員/Sansan事業部事業部長 小川泰正氏)
「デジタル名刺ソリューション」の機能は、デジタル名刺を相手に自動で届けられる「デジタル名刺メール」と、デジタル名刺を簡単に作成できる「デジタル名刺メーカー」の2つ。
「デジタル名刺メール」は、受け取った名刺をスキャンするだけで、デジタル名刺が添付されたメールが自動的に配信され、名刺交換した相手のメールボックスに届けることができる機能。
Sansanユーザーは通常、名刺交換した後に所属企業に戻り、受け取った名刺を管理するため名刺をスキャンしてデータ化するが、デジタル名刺ソリューションを活用した場合、ユーザーが紙の名刺をスキャンしてデータ化された翌日に、所属する企業から名刺交換した相手のメールボックスにデジタル名刺が自動で配信される。
「デジタル名刺メールは、あくまで名刺として氏名、連絡先など必要最低限の情報のみを記載しています。メールマガジンのように情報量が多くなく、デジタルの名刺だからこそ相手に削除されたり、アーカイブされたりことなく手元に残してもらえます。
受信者はデジタル名刺の『メールで連絡する』というボタンをクリックするだけで、相手に直接返信することもできます。デジタル名刺を相手のメールボックスに自然に届けることで、スムーズなやり取りを実現します。
当社の調査では、ビジネスパーソンが必要な連絡先を探すには、7割がメールボックスで探すと回答しています。さらに、4割の人が名刺交換した後、1年以内に購買検討の連絡を取った経験があると回答しました。
デジタル名刺を相手のメールボックスに届けておけば連絡をもらいやすくなり、渡した名刺の価値を最大化できます」(小川氏)
「デジタル名刺メーカー」は、従来の名刺の作成と発注プロセスをデジタル名刺メーカーに切り替えるだけで、社員一人ひとりに、常に最新のデジタル名刺を作成し支給できる機能。
専用のフォーマットに氏名、肩書き、連絡先など社員の名刺情報を登録するだけでデジタル名刺が作成できる。
情報の登録は直接ページ上で手入力するだけでなく、CSVでの一括登録も可能。組織や役職が変わっても、Sansan上で簡単に修正し、最新の名刺に変更できる。登録修正が完了したら、各社員がSansan上から必要に応じてデジタル名刺を発行できるようになる。
また、あらかじめ登録した自社の紙名刺のデザインテンプレートをもとに、紙の名刺の作成や発注も行うことができ、デジタル名刺と紙の名刺を一元管理できる。
作成したデジタル名刺はSansanのスマートフォンアプリにQRコードで表示することが可能で、QRコードを名刺交換の場で相手に読み取ってもらうことで直接デジタル名刺を渡すこともできる。相手がSansanユーザーでも非ユーザーでも、相手のスマートフォンの電話帳に直接登録してもらうことも可能。
「名刺交換の機会が多い営業社員の場合、展示会などで多くの名刺を交換しても、各自の判断でその後フォローをしなかったということはよくある話です。実際に、名刺交換や商談の後にフォローアップのお礼メールを日常的に送る割合は25%、つまり4人に1人しかいません。
デジタル名刺ソリューションがあれば、スキャンした全ての名刺に自動的にデジタル名刺メールが送られるため、営業活動における全てのビジネス機会を逃しません。
また、バックオフィスや技術部門など営業以外の部門では、名刺交換後にしっかりと顧客のフォローができているケースは極めて少ないのが現状。しかし、営業以外の部門から相談や問い合わせ案件の引き合いがあったという話は少なくありません。
実際に、ビジネスパーソンの6割が他部門からの紹介で取引に至ったことがあるという調査データがあります。Sansanでは、1ヶ月に2万5000回の名刺交換が行われており、そのうち6割は営業以外での名刺交換になっています。このような営業以外の部門を通した引き合いも、デジタル名刺ソリューションで最大化できます。
全社でデジタル名刺メールを活用した場合の実績として、当社の概算で、1つの商談を獲得するのに約20万円のコストがかかっています。これだけコストをかけて商談を獲得しているにもかかわらず、相手から連絡をもらうためのフォローやアクションはできていないことが多いのです。
デジタル名刺メールがあれば、名刺をスキャンするだけで、全社で顧客へのフォローアップを強化できます。しかも、名刺交換の延長として捉えられるため、違和感なく受け取ってもらうことができ、メルマガと比べると高い反応率を実現できます。
1000件のメールから1件でもアポを取れれば、反応率としては相当高いですが、当社の実績では、900枚の名刺から5件のアポを獲得することができました」(小川氏)
【AJの読み】名刺を管理するだけでなく「届ける・作る」領域へサービスを拡大
デジタル名刺ソリューションは、3月から先行販売を開始しており、50社がすでに導入を決定している。導入を決めた企業は、名刺交換の回数が多い展示会に出展している会社や、不動産、広告、ITが多いとのこと。
「技術的には特許を出している部分もありますが、デジタル名刺ソリューションのコアとなる技術は、いただいた名刺のデータ化を早く正確にできるというところです。誤ったところにメールが送られたり、メールが届かなかったり、相手の名前を間違えるというようなミスは許されません。
我々のような圧倒的な信頼度があるプラットフォームだからこそ、企業に使っていただけることが他社と比べて最大の強みになっています。
デジタル名刺ソリューションはSansanにおいてパラダイムシフトともいえるソリューションです。18年前に創業したとき『名刺をデータベース化する』と話すと、みなさん怪訝な顔されて『ずいぶん地味なことを始めるんですね』と言われました。今回のソリューションも体感、出だしがそれに近く、地味なサービスだなと思われがちですが、我々としては核心を突いたソリューションであると思っています。
交換される貴重な名刺をどう生かしていくのかはビジネスの本質的な課題だと考えています。このソリューションが世の中で当たり前になっていったら、埋没しがちなビジネスの出会いがより活発になり、企業のイノベーションにもつながるのではないかと思っています」(代表取締役社長/CEO/CPO 寺田親弘氏)
デジタル名刺ソリューションは、従来の名刺の管理だけでなく、相手にデジタル名刺が自動送付される「届ける」機能、紙もデジタル名刺もSansan上で作成・管理できる「作る」機能と、サービスの領域を広げた。
これまでの業務フローを変えることなく、確実に相手の手元に名刺情報を残せる仕組みを構築することで、ビジネスにおける機会損失を防ぎ、出会いが成果につながる環境づくりをバックアップする。
取材・文/阿部純子