
こんにちは。
弁護士の林 孝匡です。
宇宙イチわかりやすい法律解説を目指しています。
「キミ……」
「まさかお客さんの財布を盗んでないよね?」
といった感じで、上司が部下Xさんの身体検査をした事件を解説します。
(浦和地裁平成3年11月22日判決)
Xさんは引っ越し作業員。引っ越しを行う会社で起きた事件です。
この事件、結局は顧客のチョンボでした。翌日、財布は顧客のところから発見されたんです。
―― 裁判所さん、事件についていかがですか?
裁判所
「会社の行為は違法だ」
裁判所が命じた慰謝料額は!?
以下、わかりやすく解説します。
※ 実際の判決を基に構成
※ 判決の本質を損なわないようフランクな会話に変換
※ 争いを一部抜粋して簡略化
どんな事件か
ある日、Xさんは他の従業員3人と一緒に顧客Aさん宅の引っ越しを行いました。Xさんが玄関で梱包作業をしていた時、下駄箱の上の【財布らしき物】が邪魔だったので台所へ移動させました。
朝から夕方にかけて引っ越し作業を終え、営業所に帰っていたところ……。
▼財布がなくなったー!
顧客Aさんが営業所にTELをしました。営業所長Yが電話を受けたところ、顧客Aさんは強い口調で「財布がなくなったから急いで調べてほしい」と言いました。顧客Aさんは銀行関係の方だったようです(判決では「銀行の者」と記載)。
営業社長Yは「よりによって銀行関係の方かよ、エライこっちゃ……」と考えたのでしょう。引っ越し作業をしていた従業員の所持品検査を決意します。
▼ ブラインドをピシャ
電話を終えた営業所長Yは、自分がいた守衛室のブラインドを閉めました。他の従業員に見られずに所持品検査を実施するためです。
そこにいた従業員は「所持品検査をしたら問題になりますよ」と言いましたが、営業所長Yは聞く耳を持ちませんでした。
▼ 身体検査&所持品検査
Xさんが営業所に戻ってきました。営業所長は顧客Aさんの財布がなくなったことを伝え、引っ越し作業の状況を尋ねました。Xさんはその日の作業状況を伝えました。
すると営業所長Yは、Xさんのポケットの中身をすべて机の上に出させ、服の上からXさんの胸、腹、腰にかけて触りました。
腰あたりに固いものを発見!営業所長Yは「これは何か?」と尋ねたところ……、腰痛防止ベルトでした(ここも損害賠償額アップに繋がったと思います)。
さらに営業所長Yは、車の運転席のダッシュボードを開けたり運転席の背もたれを剥がしたり、荷台も調査しました。
▼ 顧客Aさんのチョンボ発覚
翌朝、Xさんは自分への疑いを晴らすべく引っ越しセンターと顧客AさんにTELしました。すると、顧客Aさんの所から財布が発見されたと。おいおいAさんよ……。
▼ Xさんの怒り爆発
そりゃブチギレますよね。Xさんは営業所長Yに対して「最初からドロボー扱いして!」などと言って怒りをぶつけました。
するとY営業所長は以下の言葉をかけました。判決からそのまま引用します。腹立ちますよ~。
「あって良かったね。自分で客が管理してくれればこのようなことはなかったね。後味の悪い思いをさせて悪かった。胸の内にしまってくれ」
しまえるか~!Xさんは「自分としては組合にも話してあり、絶対に許せない」と答えました。舞台は法廷へ。