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色素がないインクって!?富士フイルムが誇る構造色インクジェット技術に秘められた可能性

2025.05.20

突然ですが、上のアイキャッチ画像のアートブックに注目してください。美しいストライプ模様の印刷のインクには、赤青黄色といった、いわゆる色素が一切用いられていないのです。それなのに、なぜ、こんな美しい色彩を目にすることができるのか?

「構造色インクジェット技術」とは?

それを可能にしたのが富士フイルムグループの『構造色インクジェット技術』。印刷の既成概念を覆す技術なのですが、それが今、製品の加飾、アート、建築など、幅広い分野でのデザインの可能性を広げるものとして期待されています。その技術の裏にある挑戦と未来を探りたくて、開発プロジェクトのメンバーを訪ねました。

インタビューの前に基礎編として、『構造色インクジェット技術』について解説しておきましょう

●『構造色』とは、物質の“光の波長程度”の微細構造によって生じる発色現象のこと。物質自体に色素がなくても、物質の微細な構造により光が干渉・分光することで発色して(色があるように)見える現象で、自然界では、モルフォ蝶、タマムシ、貝殻など。身近なものでは、じゃぼん玉の膜の表面も構造色です。

輝きのある神秘的な彩りが特徴であることから、貝殻をつかった螺鈿細工や、タマムシの翅(はね)を貼り詰めた玉虫厨子(法隆寺所蔵)など、構造色を持つ物質は古くから装飾品に用いられてきました。

世界で最も美しい蝶といわれるモルフォ蝶 写真提供:富士フイルム

●『構造色インクジェット技術』とは、フィルムの上に吐出したインクの中に、富士フイルムグループの分子制御技術を応用して微細な構造を形成し、発色させるものです。

色味の異なる構造色を発現するインクを複数種用意し、その組み合わせやインクの濃度を調整しながら構造色のパターンやグラデーションなどを自在に描画することを可能した結果、高い意匠性を実現することになりました。

構造色インクジェット技術は、1回の印刷で赤や緑、黄、青など虹に含まれるような色を発色する微細構造を形成することが可能。また、RGBの光を反射するため、「加法混色(テレビと同じRGB)」の原理で、赤と緑と青の出力物を重ねるとフルカラーで表現ができます。

その高度な意匠性と可能性が認められ、大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのちの動的平衡館」の建物外観に『構造色インクジェット技術』が採用されています。

色の濃度を変化させたグラデーション表現が可能。写真提供:富士フイルム

万博のシグネチャーパビリオン「いのちの動的平衡館」、白色の屋根と構造色の外装のコントラストが美しい。写真提供:富士フイルム

始まりは、自然界に存在する美しき輝きのある色を追い求めて

インタビューのために訪ねたのは、富士フイルムのデザイン開発拠点「CLAY(クレイ)」。ご登場くださったのは、富士フイルムビジネスイノベーション デバイステクノロジー事業本部 インクジェット技術開発部の佐々田美里マネジャー、富士フイルム デザインセンター ソリューションデザイングループの河本匠真チーフデザイナー。『構造色インクジェット技術』を世に広めようという思いを胸にタッグを組む、研究者とデザイナーのおふたりです。

インクジェット技術開発部の佐々田美里さんとデザインセンター ソリューションデザイングループの河本匠真さん。

DIME:ご用意くださったアートブックのストライプの印刷、文字通り、“えも言われぬ”美しさです。手に取ると、見る角度や光の当たり方によって、美しさの印象が変わってきます。これが構造色の見え方の特徴ですね。

佐々田さん:ベースの透明なフィルムの上にインクジェットで印刷するので、黒とか白とか、下に敷く色を変えることでまた違った印象の見え方になります。

河本さん:全面構造色ではなく、構造色とそうでない部分のデザインにすることも、構造色の上に文字などをのせた印刷もできます。

全面構造色と構造色とそうでない部分を配したデザイン

構造色の上に文字をのせた印刷。

DIME:美しいだけでなく、いろいろなパターンの印刷が可能なのですね。そんな高機能な『構造色インクジェット技術』の開発の背景にあるものは、なんだったのでしょう。

佐々田さん:開発がスタートしたのは2016年になります。私たちインクジェット技術開発部(以下、IJ技術開発部)は、富士フイルムグループがこれまで蓄積したいろいろなシーズを使って新しいものにチャレンジしていこうという思いがあり、そんな中で、新しい表現の可能性をインクジェットで生み出せないかと検討。既成概念に囚われないインクについて調査研究を重ね、着目したのが構造色でした。

DIME:構造色に求めた可能性は何だったのでしょう。

佐々田さん:やはり構造色ならではの輝きのある色です。その輝きを塗装でも金属の箔でもなくインクジェット印刷で出すことができたら、驚きを与えられる印刷になるのでは、と考えました。

佐々田さん

DIME:スタート時点から、河本さんも一緒に開発を?

河本さん:私が所属するソリューションデザイングループは、研究者と一緒に富士フイルムグループの高機能材料や技術を新しいカタチにして世に問うことができないかとチェレンジしていく、そんなチームです。

2018年に社内で技術交流会があり、そこでIJ技術開発部が構造色の研究を進めていることを知りました。その出会いの場で盛り上がり、一緒に研究しましょう!ということに。そこから、技術開発部とデザイングループとの構造色インクジェット プロジェクトが発足。私のスタートは、そこからになります。

DIME:技術開発チームとデザインテームは、それぞれどんな役割を担いながら開発を進めきたのでしょう。

佐々田さん:そうですね、いろいろあるのですが‥‥。例えば、このアートブックのストライプのパターン(本記事のアイキャッチ画像)についていえば、河本がデザインのデジタルデータをつくり、それを私たちが印刷します。河本が出力したものを見て、彼が納得のいく(追求する)輝きと色が見えるところまで、両者で検証を重ねていくという流れになります。

最もきれいな輝きと色が出るのは、インクジェットがつくる微細構造とデジタルデータがある条件を満たしたときだからです。

DIME:追求してきたのは、自然界にある構造色なのでしょうか。

河本さん:最初は、昆虫の体表とか宝石のマラカイトやオパールといった、自然界のものをモチーフにしていたのですが、試し刷りをしていく中で、きらっと光るような表現が偶然見つかったりして。これは面白いと感じたら、その時のデーターを参考にして検証していきます。

また、花畑の写真を見て、これを構造色化したら面白いんじゃないかと思う。こういったひらめきから始まることもありました。そうやっていろいろなデータを試すことで、自然界にありそうでない色や輝きを放つ構造色を表現できるようになりました。

河本さん

DIME:黄色一面の菜の花畑を構造色にしたら、妖精が現れてきそうなイメージがわいてきます。確かに、自然界にありそうでない世界ですね。

佐々田さん:私たちが求めているのは自然界の構造色を超えるというのではなく、色彩の表現の世界を広げること、と考えています。

河本さん:あるクリエイターに『構造色インクジェット技術』の紹介をした時に、その方が「新しい画材ですね」とおっしゃったのです。グラフィック表現の新しい画材のひとつとしての可能性を感じてくださったのだと、とても嬉しく思いました。

これから広がる輝きのある色彩の世界の可能性

どんな方たちが開発をしたのだろう、と興味を持っていました。おふたりは、子供の頃に昆虫が好きだったとか、構造色につながるような“好き”や経験はおありでしょうか。

佐々田さん:自然界の構造色でいうと、昆虫より鉱物の方がデザイン的には好きです。螺鈿細工の美しさにも心惹かれるものがあります。

実は私、大学を出てから有機顔料の研究をする研究室にいたのですが、顔料の結晶ってすごく小さくて、宝石みたいにとてもきれいなのです。富士フイルムに入社してからも、10年ほど前に上司に、「宝石みたいな印刷ができたら面白いですね」という話をしたことがあります。

河本さん:私は昆虫も石もすごく好きで、子供のころは標本をよく眺めていました。大学では自然界の「ゆらぎ」をずっと研究テーマでやってきたのですが、そこは今に繋がっているかかもしれません。

『構造色インクジェット技術』をお客様に説明をするときにお見せするテンプレートも、揺らぎのあるものが多くなっています。万博のシグネチャーパビリオン「いのちの動的平衡館」の建物外観に採用された構造色の装飾のデザインも、波紋がモチーフになっています。

揺らぎ感のある構造色デザイン

DIME:万博での採用されたことについては、どのような感想をお持ちでしょうか。

河本さん:みなさんに見てもらうことが大切なことなので、良い機会をいただけたと思っています。

DIME:海外に向けての展開は考えていらっしゃいますか?

河本さん:すでに、建築やインテリアデザインにおける表面素材のトレンドを発信するSURFACE DESIGN SHOW、世界的なデザインアワードであるiF/REDDOT/IDEAに出展いたしました。今後も日本に限らず、世界に向けての発信を積極的に考えております。

DIME:おふたりのお話で、日ごろ意識をしていなかった「構造色」の存在と美しさをあらためて認識することができました。

実は以前、『構造色インクジェット技術』を文字盤に採用した腕時計を紹介する記事を担当したことがあるのですが、今年の4月に万博のパビリオンの外装に採用されたというニュースを見て、建築物に? そんな大きなものに?と驚きがありました。

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『構造色インクジェット技術』の広がりを、心から楽しみにしております。

佐々田さんと河本さんが教えてくれた『構造色インクジェット印刷技術』の限りない可能性

建材:フィルム貼合による内装材(ガラス装飾・木材装飾など)や、合わせ硝子化による内装材、外装材としての可能性

アクリルへの貼り合わせ:店舗什器やアクセサリー

ディスプレイの加飾:光透過性があるので、ディスプレイがOFFの際には構造色の加飾が見え、ONの際には情報表示することが可能。

立体物加飾:構造色印刷フィルムと樹脂成形を組み合わせる事により、立体物への構造色付与が可能。高級化粧品の容器などへの利用可能性。

上記以外にも光との組み合わせ、背景色との組み合わせなどにより各種芸術作品や装飾品への利用など幅広い表現が可能です!

木材装飾

ディスプレイの加飾

■問い合わせ先
富士フイルムビジネスイノベーション

取材協力/富士フイルムビジネスイノベーション株式会社グラフィックコミュニケーション事業本部

取材・文/堀けいこ
撮影/黒石あみ

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