
楽しいはずの家族旅行が息の詰まるような旅行になってしまった経験。お持ちではないでしょうか?
「あなたが行きたい場所に連れて行ってあげたのに・・・」
「お父さんが○○○を用意してくれるって言ったよね?」
「お互い忙しいから、気が付いた方が旅行の準備を進めようって言ったのに・・・」
このような会話が飛び交う事で、どんどん旅行の雰囲気は悪くなっていってしまいます。
これは【家族内での旅行の計画】でのやり取りですが、職場に目を向けた際、【職場内でのプロジェクト】でも同様のやり取りが発生する瞬間があります。
このようなやりとりを防ぐ為にはどのようにすべきだったのでしょうか?
今回は身近な環境を例に、上司が部下に認識させるべき役割と責任、そして権限の認識を解説していきたいと思います。
家族内で発生する「これって誰の責任?」
皆さんの理想の家族像を思い浮かべた際、どのような家族の関係性を想像しますか?
(1) 厳格な父親がいて、その父が全てを決めるような関係
(2) 親と子が友達のようにフランクに接する関係
(3) 親は子供に対してほとんど干渉しない関係 等
家族にはいろんな関係があって然るべきですし、それぞれのご家庭の色があるのは当然ですが、そのいろんな関係性の中で共通して起き得ることが「これって誰の責任?」問題です。
一見、(1)のような関係で父親が全権を担っているように見える家庭では起きなさそうな問題に見えますが、お互いに認識している事実がずれた状態になれば責任の認識は曖昧になってしまいます。(2)と(3)の関係性においても同様です。
そもそも家族内における役割や責任認識が明確になっている家庭は少ないと思います。昨今、共働きの家庭が増え、家事・育児を分業している家庭が多いと思いますが、分業したつもりがお互いの認識がずれてしまい、責任の重複が生まれ、夫婦のどちらかが我慢を強いられることも多くあるのではないでしょうか?
まず前提としてご理解いただきたいのは、家族関係において認識のズレは発生しやすい環境であるという事です。結果、「これって誰の責任?」ということが発生しやすくなるとご理解ください。
役割と責任と権限の関係性
責任はどのように発生するのか?ここについても認識を揃えておきたいと思います。なにもないところに、いきなり責任は発生しません。役割が決まり、その役割を果たせたか否かを議論する上で責任の認識が発生するのです。ということは「これって誰の責任?」という議論を行う前に、「これって誰の役割?」という認識を揃えることが重要になります。
次に、責任と権限の関係性について整理します。
自分がチーム内でどのような役割を担っているかという認識をチーム内で合わせ、その役割を達成した状態であるゴール認識を合わせます。役割を担っている人間は、そのゴールにたどり着くためになにが必要なのかを考え行動することが求められます。ここから権限とはなにかを考えると、【ゴールにたどり着くために必要なモノ=権限】と整理することができます。
ゴールにたどり着くために必要なモノがないと人はどのような思考になるでしょうか?
例えば、2時間以内に東京から大阪に行く計画をたてる役割を担った場合、新幹線での移動を想定される人が多いのではないでしょうか?もし、【新幹線は使わずに移動する】という条件が設定されたら皆さんはどのようにお感じになられますか?ほとんどの人は「そんなの無理だ!」と感じ、無理難題を言われている感覚を持ち、自責で捉えることが難しくなると思います。自責で捉えることができない場合、多くは改善行動が起きなくなっています。
このことから、責任を果たすために必要な権限を十分に用意することが求められます。責任=権限になっておく必要があるのです。
家族関係における責任と権限
家族旅行においての責任と権限の状況はどのようになっているでしょうか?
旅行全体にかける予算は親が決める権限を持っているケースが多いと思います。全体の予算が決まった後に「家族が楽しめる旅行にする」ことを目指し、計画を立てる過程で子供たちに意見を聞いたりしながら細部を決めていく。この場合において、それぞれの役割の認識を中心に考えていきたいと思います。
親からすると、家族が楽しめる旅行にすることは自分の役割と考え、子供の意見を聞いて、予算との兼ね合いを考慮しつつ全体最適を図ろうとします。
一方、意見を求められた側の子供は、意見を求められたことで「家族が楽しめる旅行にする」役割を担ったと認識する可能性がでてきます。その役割を与えられたと認識した子供はその責任を果たすべく、親に意見を伝えたりするかと存じますが、予算を理由に親から我慢を命じられたり、思っていたのとは違う内容になったりします。そのようなやり取りを重ねていくうちに子供は役割(責任)を果たしたいのに権限が足りない状況を認識し、感情的になってしまい、楽しくないような雰囲気を醸し出してしまうのです。結果、親から「あなたが行きたいって場所に連れて行ってあげたのに・・・」という感情でのやり取りが加速してしまうのです。
旅の準備についても同様です。どこまでの準備を誰が行うのか?という役割の認識が人によって異なり、責任の重複が起きてしまいます。結果、トラブルがあった時には「お父さんが○○○を用意してくれるって言ったよね?」のようなやり取りに発展してしまい、雰囲気が悪い家族旅行になってしまうのです。また、子供の準備を子供自身で行うように指示をしていたのにも関わらず、間に合わないからと言って、親が結局すべての準備を行う様なケースもあります。自分がやらなくてもなんとかなった経験をした子供は自ら準備を行うことに繋がるかというと疑問が残る状態になります。
このように役割の認識がずれやすい環境に置いて、様々な問題が発生してしまうのです。
上司部下の関係における責任と権限
ここまでご説明したことを踏まえ、会社の上司部下との関係性において、責任と権限の観点で見ていきます。上司は自分のチームの成績が最大化することに対して責任を持ちます。その責任を果たすべく、部下の役割を明確にして管理していく事が求められます。つまり、上司は部下の役割を明確にできる権限を持っている状態です。にもかかわらず、会社においても「これって誰の責任?」問題が発生することがあります。この問題が発生する組織は役割認識が不明確な組織になっている事はすでに解説させていただきました。ということは、上司は権限を行使していない状態になり、責任を果たすことを放棄している状態になっていると言わざるを得ません。
また、役割が明確になっていない環境の中で部下は自分の責任を正しく認識することができなくなります。上司は部下に責任を果たす為に必要な権限を考えさせたいのですが、そもそも責任認識が曖昧な状態なので、部下は権限を正しく認識することができなくなってしまい、上司からするとやる気のない無責任な部下に見えてしまう結果となります。
このような状態にしないためにも、上司は部下の役割を明確に示すことを実施していただければと存じます。そうすることで、部下は責任と権限について認識できる状態になり、組織の中で起きる様々な問題が減っていく事に繋がっていきます。
まとめ
今回は家族をテーマに組織マネジメントについて解説させていただきました。家族という関係において役割を明確にするということは一定の難易度があるかと存じます。一方、会社はチームの目標達成に向けて、役割で仕事をすることが求められる集団です。ということは、役割を明確にすることが前提の集団であると言えます。上司は自身の権限をフル活用して、役割を明確にすることにこだわりを持ってください。そして、部下に責任と権限を認識させることで、部下が自発的に動けるように導いていきましょう。
文/識学コンサルタント 栗尾哲也