
任天堂は、6月5日に発売するNintendo Switch2の今期販売数を1500万台とする見通しを示しました。この数字は、Nintendo Switchが通年で寄与した初年度である、2018年3月期の1695万台を下回るもの。新型機の発売は通年で寄与しないとはいえ、販売計画は保守的だとの声も聞こえてきます。
一方、トランプ関税の影響で見通しが悪いのも事実。新型ゲーム機は厳しい船出となりそうです。
初披露の動画公開後に株価は軟調に
Nintendo Switch2はディスプレイの大型化が進み、画質や音質が大幅に向上したモデル。内蔵マイクでのボイスチャット機能が追加され、コントローラーをマウスのように使ってゲームを楽しむこともできます。本体上面にUSB-C端子を搭載して拡張性も増しました。
マイニンテンドーストアでの1回目の抽選販売の応募者は、国内だけで220万人に達しました。任天堂の想定を大幅に上回ったといいます。
任天堂の古川俊太郎社長は、かねてより新型ゲーム機の転売対策に頭を悩ませており、2024年6月の株主総会では需要を満たせる台数を生産することが第一と発言していました。Nintendo Switchは半導体不足で供給量が十分ではなかった問題も受け、その状況が解消されて部材の不足が生産に大きな影響を与えることはないとも語っています。
つまり、Nintendo Switch2は計画に十分な供給体制を整えていたことになります。
しかし、2025年5月8日に行われた決算発表会で古川社長は、直近の需要を受けてさらに生産体制を強化する方針を示しました。転売や部材不足を回避する用意周到な生産体制を整えていたにも関わらず、増強が必要になったのです。
すなわち、経営側の予想よりも消費者の購入意欲が強かったことを示しています。
Nintendo Switch2の筐体が初披露されたのは2025年1月6日でした。ところが、既存モデルを踏襲しており、真新しさに欠けているとの声が多く聞かれました。動画を発表した際の株価の終値は9070円でしたが、1月8日には一時8888円まで下がっています。
市場の受け止め方はやや冷ややかでした。期待外れだったとも言えます。
慣れ親しんだゲーム機で新たなゲーム体験を求めていた
最先端の情報処理能力や映像技術を盛り込んでコアなゲームファンに支持されるソニーのPlayStationと異なり、任天堂は体を動かしたり、ゲーム体験を他社と共有する機構を取り入れたりして、ファミリーを中心とした幅広い層の獲得に成功してきました。WiiやNintendo Switchなど、既存のゲーム機とは異なる革新性こそが支持されてきたのです。
しかし、Nintendo Switch2は世間をアッと驚かせるインパクトには欠けていました。
任天堂は公式サイトで「開発者に訊きました」というインタビューを掲載しています。そのなかで、開発者の一人は「これまでにない新しい遊びを提案するためには、Switchの処理速度がもう少しあるといい」と考えるようになったと話しています。つまりNintendo Switch2は、目には見えづらいスペックの更新という意味合いが大きかったことを示しています。Nintendo Switchというハードウェアそのものはすでに完成されており、慣れ親しんだゲーム機で新たなゲーム体験をしたいというユーザーが実は多かったのです。
経営陣はソフトウェアのリリースを重ねるに従い、新型ゲーム機の販売数も増えると考えていたのではないでしょうか。ところが実際は、任天堂が想定していたよりも消費者は高スペックのNintendo Switchをいち早く求めていたのです。
40%を超える関税が課されれば消費者への価格転嫁も視野に
Nintendo Switch2の発売と同時に、鉄板シリーズの新作「マリオカート ワールド」を発売します。「マリオカート8」からの11年ぶりの完全新作。60ものキャラクターから選択することができ、オンライン対戦では24人まで同時プレイが可能です。
そしてシリーズ最大規模のオープンワールドが採用されています。時刻や天候の影響が加わるなど、高スペック版ならではの表現と言えるでしょう。
ハードとソフトの売れ行きには期待したいところですが、目先の課題はアメリカの相互関税。任天堂はベトナムやカンボジアでNintendo Switch2の生産をしています。当初、トランプ大統領はベトナムが46%、カンボジアは49%の関税を課すと発表していました。現在は10%となって90日間の延期措置をとっていますが、期限切れはちょうどNintendo Switch2の販売時期と重なります。
任天堂は2026年3月期の営業利益を前期比13.3%増の3200億円と予想しました。2桁の増益ですが、営業利益率は24.3%から16.8%へと、7.5ポイントも下がっています。
※決算短信より筆者作成
アメリカに輸出するゲーム機にかかる10%の関税を加味したといい、費用を一部もしくはすべて吸収するものと見られています。
古川社長は関税の前提が変われば価格調整を検討すると表明しており、交渉期限が切れて関税が40%を超える水準となれば、価格転嫁もあり得る状況。そうなれば、販売数に影響する可能性もあります。
Nintendo Switch2は8年ぶりの新型機。ゲームファンのみならず、数多くの人が登場を待ち望んでいました。そして北米はゲーム機の販売台数の4割程度を占める主力市場です。任天堂にとっては最悪のタイミングで関税がアナウンスされたことになります。先行きの見通しが悪く、難しいかじ取りを迫られることになりました。
文/不破聡