総務省が行なった調査結果によれば、2023年10月時点で全国の空き家は約900万戸にのぼる。治安悪化などを問題視する地域も少なくない。その一方、空き家を利用し、養殖や栽培を行なう動きも活発化している。2024年、福井県越前市で衣料品やキャラクター商品などの製造・販売を手がける地元企業「ウロール」は、空き家でバナメイエビの陸上養殖事業を開始した。
「(環境が安定している室内の)水槽では繁殖しやすくて収穫量が多く、育成期間も3~4か月と短いため、早期収益化が見込めると考えたことが養殖業に参入した理由です。バナメイエビはほぼ輸入に頼っており、国産で養殖することに将来性を感じたことも決め手になりました」(ウロール 川上正宏代表)
空き家活用の大きな利点は、初期コストを抑えられることだ。
「現在使っているのは、長く空き家になっていた住宅街の民家です。リフォームは行なわず、5m×3mの水槽は10畳ほどの居間の床を外して設置しています」(川上さん)
空き家を使うことで地元全体の活性化につながる実例も出てきている。そのひとつが、今では香辛料となるサフランの産地として知られる佐賀県鹿島市。サフランを栽培し始めたきっかけは、2013年。同市山間部にある早ノ瀬地区の西喜佐雄さんが、子供の頃の記憶をもとに、空き家と休耕田を使ってサフランの栽培を復活させたのだ。西さんのサフランは高品質で、有名店の料理シェフや、サフランを薬などに使う企業の従業員が、頻繁に実地研修に来訪。過疎化が進む集落に、大きな賑わいをもたらしている。
「両隣が空き家で、1軒を作業小屋、もう1軒を実地研修者の宿泊施設に使っています。花摘みなどの軽作業は高齢者や女性に協力を仰ぎ、自宅で作業していただいています。サフランが縁で、人と人を結び、集落の活性化にもひと役買えることがうれしいですね」(西さん)
環境に優しい手法としても話題!10畳ほどのスペースでバナメイエビを養殖する
ウロール
バナメイエビの養殖実験は2024年末にスタート。初めて育成された約500尾は、支援を受けた人を招いて試食会で提供するという。2027年までには養殖プラントで本格的な養殖を行なう予定。本業を生かしエビのキャラクター化も目指す。
シイタケやナメコなど栽培するキノコ類が多彩!
鯖江隠れ家きのこ
鯖江市在住の前田さん姉妹は、父親が所有する"はた屋の跡地〟の空き家を改装して開業。シイタケやナメコなどを栽培中。キノコ狩りで収穫したキノコは量り売りで購入可能。問い合わせは公式Instagramへ。
菌床から国産にこだわる!肉厚で美味しいキクラゲを栽培
日栄交通 きくらげ栽培事業
埼玉県さいたま市のタクシー会社「日栄交通」がコロナ禍を乗り切る副業として、キクラゲ栽培を会社の空き地で開始した。同キクラゲは市内のスーパーや給食でも扱われ、同社のECサイトで販売されている。
空き家とともに休耕田を活用して栽培されるのは香辛料のサフラン
佐賀県鹿島市 早ノ瀬地区
早ノ瀬地区に住む西さんが集落の空き家と休耕田を使い、パエリアなどに使う香辛料・サフランの栽培を行なっている。香り豊かなサフランは、一流シェフや企業の目に留まり、過疎地を賑わわせている。
取材・文/安藤政弘 編集/田尻健二郎