
ビジネスの現場で頻出する「フィロソフィー」という言葉。その本質は単なる理念ではなく、企業や経営者の価値観・信念を体現する根源的な思想である。記事では、フィロソフィーがどのように企業文化や行動指針に落とし込まれているのかを解説する。
目次
ビジネスの場面において、「フィロソフィー」という言葉を見聞きすることがある。自社だけでなく取引相手である企業の経営理念や経営方針を把握するうえで、フィロソフィーの理解は重要だ。
著名な大手企業においても、フィロソフィーを定めて創業者の思いを体現している事例もある。経営者側の立場に立っている方にとって、明確なフィロソフィーを考えることは有意義だろう。
フィロソフィーとは
「フィロソフィー」は、哲学や価値観、信念などのニュアンスで使われることがある。まずは、基本的な意味合いについて見ていこう。
■フィロソフィーの意味
「フィロソフィー」には、哲学という意味合いがある。人間の存在や知識、価値観などの根本的な問題について探求したり、物事の本質や根本原理を追求する姿勢を示す。
なお、日常生活においては「人生観」「価値観」「信念」といった意味で使われることもある。例えば、確固たる信念や価値観を有している方は、「あの人は明確なフィロソフィーを持っている」という言われ方をされる。
■ビジネスにおけるフィロソフィーとは
ビジネスシーンにおいて、「フィロソフィー」とは企業理念やミッションステートメントを表現する際に用いられる。例えば「当社のフィロソフィーは、顧客第一主義である」といった使い方が考えられるだろう。
また、企業全体の方針だけでなく、経営者やリーダーの根本的な考え方や信念を指す場合もある。「彼の経営フィロソフィーは、長期的視点に立った持続可能な成長を重視している」のような具合だ。
他にも、人材採用や人材育成に関する基本方針を決定する際に使われることもある。「我が社の人材育成フィロソフィーは、個人の強みを最大限に引き出すことだ」といった形で、どのようなキャリア形成を支援しているのかを従業員に示すことも可能だ。
ビジネスにおける「フィロソフィー」は、企業や個人の根本的な価値観や信念を表す言葉として使われる場面が多い。また、企業として目指すべき方針や、経営における本質的な考え方を示す際に使われることもある。
会社におけるフィロソフィーの代表例
大手企業の中には、経営理念や創業者の思いをフィロソフィーとして公表し、従業員へ浸透させているケースがある。
以下で、会社におけるフィロソフィーの代表例を見ていこう。
■京セラと稲盛和夫のフィロソフィー
京セラのフィロソフィーは、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」だ。また、「社会との共生。世界との共生。自然との共生。共に生きる(LIVING TOGETHER)ことをすべての企業活動の基本に置き、豊かな調和をめざす」という経営理念を掲げている。
京セラは「会社の発展のために一人ひとりが精一杯努力する、経営者も命をかけてみんなの信頼にこたえる」という考え方で経営されてきた歴史を持っている。
創業者である稲盛和夫氏の経営哲学の根底には「利他の心」 があり、これは自分の利益だけでなく、従業員や社会全体の幸福を追求するという考え方を意味する。「私利私欲のためではない、社員のみんなが本当にこの会社で働いてよかったと思う、すばらしい会社でありたい」 という思いがあり、ビジネスパートナーだけでなく従業員も大切にしていることがわかる。
■JALフィロソフィー
JAL(日本航空)のフィロソフィー(理念)は、「全社員の物心両面の幸福を追求し、一、お客さまに最高のサービスを提供します。一、企業価値を高め、社会の進歩発展に貢献します。」だ。このフィロソフィーには、社員一人一人の「JALで働いていて良かった」「JALの一員として頑張ろう」という気持ちが、優れたサービスと企業価値向上の基盤になるという考え方に基づいている。
JALグループは企業理念の実現のために、社員一人ひとりが持つべき意識・価値観・考え方である「JALフィロソフィ」の実践にも取り組んでいる。「JALフィロソフィ」では、「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」という基本的な考え方を中心に、「人間として何が正しいかで判断する」「美しい心をもつ」「常に謙虚に素直な心で」「常に明るく前向きに」などの価値観を示している。
また、「真面目に一生懸命仕事に打ち込む」「地味な努力を積み重ねる」「有意注意で仕事にあたる」「自ら燃える」「パーフェクトを目指す」といった仕事に対する姿勢も含まれている。JALでは、社員全員が年に複数回「JALフィロソフィ教育」という研修を受け、フィロソフィの体現を目指している。
まとめ
企業フィロソフィーとは、単なる経営理念を超え、組織の存在意義と行動指針を規定する根源的な思想である。「哲学」という言葉の本質と同様に、物事の根本原理を追求する姿勢を体現している。
京セラや日本航空に見られるように、優れたフィロソフィーには「利他の心」や「共生」という普遍的価値が内包され、従業員の物心両面の幸福と社会貢献を両立させる視座が存在する。
経営者にとって、明確なフィロソフィーの構築とその組織的浸透は、ブレない経営判断と一貫性ある企業文化を育む基礎ともいえるだろう。
文/柴田 充輝(しばた みつき)
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。 FP1級と社会保険労務士資格を活かして多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。