
「共和国」とは、君主による統治ではなく、国民の代表者が政治を担う国家形態である。語源はラテン語「res publica」。記事では、共和制の種類や君主国・民主国家との違いを体系的に解説する。
目次
共和国とは、特定の個人ではなく、選挙などで選ばれた国民の代表者が統治する国のことだ。現在、アメリカをはじめ多くの国々が共和国を名乗っている。そのため、グローバルなビジネス交流には、共和国の理解が欠かせない。この記事では、共和国の意味・語源から、関連語である君主国・民主国家との違いまで、わかりやすく解説する。
共和国とは
フランス共和国、イタリア共和国など、世界の国の正式名称には「共和国」がついていることが多い。そもそも、共和国とはどんな国をいうのだろうか。まずは、共和国の概要から見ていこう。
■共和国とは
共和国とは、「共和制」という政治制度を採用している国家をいう。
ちなみに、「共和制(共和政)」とは、国王や皇帝といった特定の個人が国を支配するのではなく、選挙等によって選ばれた国民の代表者が国を統治する政治体制のことだ。
共和国を表す英語は「republic(リパブリック)」であり、その語源はラテン語で「共通の利益、公共のこと」などを意味する「res publica(レス・プブリカ)」となる。
共和国の国家元首(国の代表)として、最も一般的な称号は「大統領」だろう。しかし、国家元首の名称はすべて同じというわけではなく、中国の「国家主席」のように国ごとに異なる。
また、国家元首の権限も、国によってさまざまだ。たとえば、同じ「大統領」という名称であっても、アメリカでは大きな権限を持つのに対して、ドイツの大統領は、国の代表であるが儀礼的な役割にとどまり、国政の実権は首相に与えられている。
■共和国の種類
共和国には、国の政治体制や建国のビジョンなどによって、以下の種類がある。
- 一般的な共和国
自由主義・資本主義などを掲げる共和国。
【例】アメリカ、フランス、イタリアなど
- 社会主義共和国
社会主義(財産の私有をやめ、不平等や貧富の差のない社会を目指す考え方)を掲げる共和国。
【例】ベトナム、中国、北朝鮮など
- イスラム共和国
イスラム教が国政に深く関わっている共和国。
【例】パキスタン、イランなど
- 連邦共和国
共和制という共通点を持つ複数の国(州)が結合してできた共和国。
【例】ドイツ、オーストリア、ブラジルなど
■共和国・共和制の歴史と成り立ち
共和国・共和制の歴史は古く、その起源は古代ローマ時代にさかのぼる。ここからは、古代から現代に連なる共和国・共和制の歴史と成り立ちについて紐解いていく。
【古代】
もともと古代ギリシャの都市国家アテナイでは、市民が政治を行う「民主制」が採られていた。やがて紀元前6世紀、古代ローマでは国王が追放され、執政官・貴族・平民による統治体制が築かれる。これが共和制の始まりとされている。
【中世~近世】
ヨーロッパでは、中世に入ると、共和制の都市国家が次々と誕生した。中には、ヴェネツィア共和国やフィレンツェ共和国のように大いに繁栄した例もある。が、多くの国家では、体制が安定せず、王政に移行することも少なくなかった。
【近代~現代】
アメリカ独立戦争とフランス革命により、共和制は大きな転換期を迎える。
アメリカでは共和制を明確に意識した政治システムのもとで建国がなされ、フランスでも共和制の確立を目指し、先鋭的な政治改革が行われた。ただし、アメリカで共和制が定着していった一方、フランスでは革命後にナポレオンが皇帝になるなど、紆余曲折を経て、ようやく共和制が根付いていくこととなる。
第二次世界大戦後には、列強各国の植民地だったアジア・アフリカの国々が、次々と独立を果たし、その多くが共和制を選択し、共和国となった。
そして現在、世界全体の半数近くにのぼる、約150もの国が共和国となっている。
共和国と君主国、民主国家の意味の違い
前章では、共和国の意味や種類、歴史などの基礎知識を押さえた。ここからは、共和国の関連語である「君主国」「民主国家」について解説しよう。
■共和国と君主国
「君主国」とは、王や皇帝など(君主)が国を統治する政治制度のこと。君主は一般的に世襲され、支配者として国民の上に君臨していたが、革命により共和制になった国も多い。
エリザベス女王が世界的に有名なイギリスやデンマーク、サウジアラビアなど、世界には約40カ国の君主国がある。
共和国と君主国は比較されることも多いが、両者の最も大きな違いは、君主がいるかいないかだ。一般的に、正当な方法で選んだ国民の代表者が国を率いるのが共和国、君主が統治しているのが君主国である。
■共和国と民主国家
君主は存在せず、主権はあくまで国民にあるのだから、共和国はすべて民主国家かというと、必ずしもそうではない。
たとえば、中国では、国民が選出していない中国共産党の幹部が、政治の実権を握っている。また、発展途上国や新興国の共和国の中にも、1人の大統領が独裁に近い政治をしている例もある。
このように、共和国=民主国家とはかぎらないのが実情だ。
日本は共和国なのか?
一方、民主的な方法で内閣総理大臣(首相)が選出される日本は、共和国なのだろうか。ここで気になるのが、天皇制との関係だ。
■君主(天皇)と共和制の関係
日本は、天皇という君主が存在するので君主国といえる。ただし、天皇には国政に関する権限はなく、国の象徴として儀礼的な役割を担っている。
なお、天皇の地位や権限については、日本国憲法で次のように規定されている。
「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく(憲法第1条)」
「天皇は、日本国憲法の定める国事行為のみを行い、国政に関する権能を有しない(憲法第4条第1項)」
このように憲法で、主権は国民にあること、君主の権限を制限することを規定している政治形態を「立憲君主制」という。
■現代の日本は象徴天皇制
立憲君主制の国で、有名な国のひとつはイギリスだろう。
「王は君臨すれども統治せず」といわれる、立憲君主制の母国とされているからだ。
ただし、イギリス国王の権限は、天皇と同じ国事行為のほかにも、イングランド、スコットランドなど連合王国の君主、カナダやオーストラリアなど英連邦王国の元首など、幅広い。
対して、現代の日本は、立憲君主制の中でも、君主が統治から完全に離れ、象徴的な意味合いが強い。これを象徴君主(天皇)制といい、日本のほかにスウェーデンなども同じ政治形態だ。
まとめ:グローバルなビジネス展開には、共和国(共和制)の知識が効く
共和国とは、王や皇帝といった君主が国を支配するのではなく、国民の代表者が国政を行う政治体制(共和制)を採る国をいう。紀元前6世紀の古代ローマが共和国の起源とされ、第二次世界大戦後に独立した旧植民地の国々は、共和国として独立した国も多い。
君主国との違いは君主がいるかいないかだが、必ずしも共和国=民主国家ではないため、注意が必要だ。
現在は、SNSやWeb会議ツールの普及で、海外とも簡単につながれるようになった。その半面、ビジネスパーソンには、より高度なコミュニケーションスキルが求められる。とくに、デリケートな国際問題を抱える国が関係する場合は、彼らの国の政治制度を知っていることが、関係性構築にプラスに働く可能性もある。まずは、共和国を理解することから始めよう。
文/木戸史(きどふみ)
立命館大学文学部卒業後、営業、事務職、編集アシスタントなどを経て、社会保険労務士事務所で社労士として勤務。現在はライターとして活動しており、社労士として多くの中小企業に携わった経験を生かし、ビジネスマンに役立つ法律知識をできるだけわかりやすく発信している。