
2021年に誕生した「アースアンドユー(Earth∞You)」はワイン用ブドウの副産物から生まれたエシカルコスメブランド。大手酒類メーカーに勤務する北林健さんが副業としてスタートし、北林さんの妻であり、酒類業界で働く鈴木更紗さんと二人三脚で商品開発を進めてきた。今回は夫婦で会社を経営するメリットや仕事観について、お二人に伺った。
なぜ、大手酒類メーカーの社員がコスメを開発したのか?副業で見つけた〝手触り感〟のあるヘルシーな働き方
2021年に誕生した「アースアンドユー(Earth∞You)」はワイン用ブドウの副産物から生まれたエシカルコスメブランド。大手酒類メーカーに勤務する北林健さんが...
「まずは目の前の人を幸せに」妻への想いから生まれたコスメ、アースアンドユーの商品開発哲学
2021年に誕生した「アースアンドユー(Earth∞You)」はワイン用ブドウの副産物から生まれたエシカルコスメブランド。大手酒類メーカーに勤務する北林健さんが...
夫婦で働くと、お互いをより深く理解できる
――ワイン用ブドウの副産物をエシカルコスメへとアップサイクルすることを目指し、北林さん夫妻が「アースアンドユー」を立ち上げたのが2021年。お二人とも副業としてスタートされました。北林さんが大手酒類メーカー出身というお話は前編と中編で伺いましたが、更紗さんの経歴についても教えてください。
更紗 私はワインの営業職としてキャリアをスタートし、グローバルなワインビジネスやワインテイスティングを学んできました。その後、老舗のコニャックメーカー「カミュ」で日本市場のセールス&マーケティング責任者を担当。日本酒についても学び、農林水産省の招へい事業としてスタートしたグローバルで活躍する日本酒講師育成プログラムの通訳を務めたこともあります。現在はロンドンに本校がある世界最大級の酒類教育機関「WSET®(Wine & Spirit Education Trust)」の認定講師としてワインや日本酒にまつわる講義を行うほか、2020年には日本産酒類を世界に、また次世代につないでいく活動を行う株式会社を仲間とともに創業しました。
――お二人を見ていると仲のよさが伝わってきますが、仕事もプライベートもずっと一緒だと、息苦しさを感じたりはしませんか。
更紗 たまに周りの人から「いつも一緒にいるよね。うちの夫婦だったら絶対に無理」と言われますが、私はむしろ一緒に仕事をすることが、お互いをより深く理解することにつながっていると感じています。今、相手がどんなことにチャレンジしていて、何を思っているのかがよくわかるので、その分、お互いをスムーズにケアできるのがいいですね。もちろん、仕事に関して議論や言い合いをすることもありますが、メリットのほうが大きいです。
北林 僕がいつも感じているのは、とにかく便利だということ。アイデアの源泉ってふとした日常の中にあるんです。僕は思いついたことにはその場で取り組まないと忘れてしまうタチなので、何かひらめいたらすぐに更紗に「どう思う?」と聞いて、即座にブレストできるのがありがたいですね。タイミングってすごく大事だなと思っているので。
更紗 商品開発の面でも、私が自宅でいつもスキンケアをしている様子を北林に見てもらって、「こういうときが面倒」といったふうにリアルな声を届けられたのはプラスになったと思います。いい観察対象になれたかな、と。
北林 更紗のスキンケアのやり方や使っているアイテムを眺めていると「これとこれは同じ美容液なのにどこが違うんだろう?」など、素朴な疑問がたくさん出てくる。そこから、新しいアイデアが浮かんできたりするんです。「美容液と乳液の機能を一本化したら、コスパもタイパもよくなるんじゃないか」とか。そこから生まれたのが「アースアンドユー」の「美容乳液」なのですが。
更紗 「ハンドクリームってなんでこんなにベタつくんだろう?」という疑問もいいヒントになったよね。
北林 そうそう。「ベタつきもヌルつきもしない、僕たち“すべすべフェチ”が納得するものを作りたいね」って二人で盛り上がったんですよ。「美容乳液」は使い心地にこだわりまくって、工場に50回くらいやり直してもらったんです。担当者から「こんなオーダーは初めて」と呆れられてしまいましたが、「そこをフェチに免じて、どうにか!」と(笑)。
更紗 最終的に5種類のオイルをブレンドした独自処方を開発していただき、理想の質感を叶えることができました。香りも厳選した7種類をブレンドしています。
北林 コスメの商品開発は、食べ物をどうおいしく食べるかを探求するのと似ているなと思いました。僕たちは普段から食べ物とお酒のマリアージュをあれこれ試しては、最高の組み合わせを見つけるのが好きなんです。「あったらいいな」と思うコスメを開発するのも、そういった普段の僕たちの暮らしの延長線上にある気がしています。
――お二人は似たもの夫婦に見えますが、役割分担はあるのでしょうか。
北林 ありますね。それぞれ得意分野がちょっと違っていて、コツコツ入力するような作業は僕が担当しています。更紗は広がったアイデアをまとめるのが上手。二人とも忙しくて手が回らないことは更紗の叔母が手伝ってくれています。
80代、90代になっても元気に働き続けるために
――今年は仕事とプライベートの両面で、大きな変化を迎える年だそうですね。
北林 そうなんです。僕は9月いっぱいでキリンビールを退職し、以後は「アースアンドユー」に注力します。というのも、僕の親も更紗の親も介護が必要な年齢になり、もっと家族の近くにいたいということもありまして。また、6月には待望の第一子が誕生する予定ですし、さらに、夏以降には軽井沢に移住するつもりで、今まさに家を建てているところなんです。
――イベントが盛りだくさん! 人生の大きな転機になりそうですね。
北林 50歳にしてこんなにいろんなことが同時に起きて、新しい人生が始まることになるとは想像もしていませんでした。ただ、むしろ50歳だからこそ、チャレンジするなら今だな、という思いもあります。仮に60歳で定年を迎えるとしても、その先もまだまだ働きたい。だったら、一日でも若いうちから自分が得意なことに集中して懸命に頑張って、土台を作って広げていくほうが、80代、90代になってものびのびと働き続けられるんじゃないかと。これからの時代、そういう働き方のほうが自分に合ったスマートな選択なんじゃないかと思いました。
更紗 私も北林の意見に同感です。うちは両親とも出版業界の人間で、仕事人生の大半はフリーランスに近い働き方。会社員として勤め上げて定年退職、というタイプではなかったんです。「自分の仕事は自分で生み出して、働けるうちは働き続ける」「仕事は単にお金を得るためのものではなく、自己実現や、自分が社会の一員として世の中に何を提供できるかを探求するもの」と考える両親の背中を見て、私も彼らのような生き方がしたいと思いました。
私の社会人としてのキャリアのスタートは会社員でしたが、今のように北林と新しいビジネスを立ち上げたり、仲間と起業したりというのは、自分の感覚としてはとても自然な流れのように感じます。今後は仕事と子育ての両立という新たなフェーズに入りますが、年齢に関係なく、いくつになってもワクワクすることを続けていけたらと思っています。
北林 いつまで仕事を続けるのかは、自分で決めたいと思います。自分の人生の主導権は自分でもっておきたいですね。
取材・文/志村香織 撮影/横田紋子