
2025年の春闘では、大企業を中心に5%を超える賃上げが相次ぎ、昨年を維持する高水準の賃上げ率が実現した。物価高騰や人手不足といった背景もあり、企業には「継続的な賃上げ」への社会的期待が一層高まっている。
しかしながら、すべての企業がこうした動きに追随できるわけではなく、特に中小企業や地方企業を中心に、「人件費の増加が経営を圧迫している」「賃上げの持続が難しい」といった“賃上げ疲れ”の声も聞かれるようになっている。
こうした現状を踏まえ、エデンレッドジャパンはこのほど、2025年に賃上げを実施する企業の経営者・人事担当者514名を対象に、「賃上げ疲れ」の実態調査を実施し、その結果を発表した。
7割以上が、春闘による“賃上げ圧力”を実感、そのうち9割が、自社の「賃上げ率」に影響と回答
2024年、2025年と2年連続で高水準の賃上げが実現した春闘。ここ数年の春闘の結果を受けて、賃上げ圧力を「とても感じた/やや感じた」と回答した人は全体の7割以上(72.5%)にのぼり、そのうち9割(88.2%)もの企業が自社の賃上げ率に影響があったと回答した。
春闘による社会的な賃上げ機運が、企業における賃上げ判断に一定の影響力を持ち、賃金改善への後押しとなっている様子がうかがえる。
“賃上げ疲れ”は8割に迫る結果に…収益圧迫に加え、3社に1社が「投資抑制」の影響も
一方で、継続的な賃上げにより、企業経営への負担(賃上げ疲れ)をどの程度感じてるかと聞いたところ、約8割(77.0%)が負担を「とても感じている/やや感じている」と回答。“賃上げ疲れ”を感じている企業は、8割に迫る結果となった。
また“賃上げ疲れ”が及ぼしている具体的な影響について聞くと、最も多かったのが「企業収益の圧迫」(68.7%)。次いで「事業への投資抑制」(33.1%)が多く、実に3社に1社が賃上げが単なる人件費増にとどまらず、企業の成長戦略や中長期的な経営判断にも影響を及ぼしている実態が浮き彫りとなった。
特に中小企業では、限られた経営資源の中で人件費と投資のバランスを取ることが難しく、成長投資の先送りや縮小を余儀なくされているケースが発生していることも考えられる。
“賃上げ疲れ”企業の8割が、初任給を引き上げ。中小企業でも7割を突破
続いて、“賃上げ疲れ”を感じている企業のうち、新卒採用を行っている企業に対して、2025年度の初任給水準を引き上げたかを尋ねたところ、全体の8割(79.8%)が「引き上げた」と回答した。大企業では86.1%と9割近くに達し、中小企業でも73.8%と7割を突破。“賃上げ疲れ”を抱えながらも新卒採用競争への対応として初任給を引き上げている企業が多数を占めていることが明らかとなった。
さらに、初任給を引き上げた理由については、「応募数の確保・辞退防止」(79.6%)が最多で、次いで「同業他社との競争力強化」(44.8%)となり、採用成果に直結する観点からの回答が続いた。この結果からも、企業が“賃上げ疲れ”を感じながらも、人材確保を最優先課題と捉え、戦略的に給与水準を引き上げていることがわかった。
“賃上げ疲れ”への対策、最多は「コスト削減の徹底」(47.2%)
賃上げによる経営圧迫が続く中、企業の最も多い対策は「コスト削減の徹底」(47.2%)という結果に。設備投資や日常業務にまで及ぶコストカットが進み、“しわ寄せ”が各所に広がっていることが推察される。次いで「生産性向上に向けた取り組み」(46.5%)も多く、効率化によって人件費上昇に対応しようとする姿勢も一定数見られた。
さらに、「雇用形態の見直し(非正規・外注の活用など)」(29.3%)をあげた企業も3割近くにのぼり、正規雇用にこだわらず、人件費の柔軟な調整を図る動きが進んでいることも明らかに。こうした結果は、賃上げの副作用として“働き方”そのものにも影響が及び始めていることを示唆している。
来年度の賃上げ、大企業の約7割が見込む一方、中小企業では半数止まり
最後に、2026年度の賃上げ継続の見込みについて聞いたところ、「確実に継続できる/おそらく継続できる」と回答した企業は全体で6割(59.1%)に。企業規模別に見ると、大企業では7割近く(68.3%)が継続の見込みを示した一方で、中小企業では半数(52.9%)にとどまっており、賃上げの持続性における企業間の温度差が見られた。
人材確保が急務の中、中小企業にとって継続的な賃上げは容易ではないことから、今後は給与水準だけに依存しない人材定着・活用の戦略構築が不可欠になってきていると言えそうだ。
総評:株式会社エデンレッドジャパン 代表取締役 天野総太郎氏
2025年の春闘は昨年に続き歴史的な高水準の賃上げが実現し、社会全体として賃上げの機運が高まる一方で、その裏側では多くの企業が「賃上げ疲れ」という現実に直面していることが明らかになりました。賃上げの継続による収益圧迫や投資抑制、人件費コントロールへの懸念が強く、持続的な賃上げには限界を感じている企業も少なくありません。
そうした中でも、新卒採用の競争激化を背景に、初任給を引き上げる企業が多数を占めており、人材確保を最優先事項と捉える企業の姿勢が浮き彫りとなりました。
一方で、「コスト削減」や「雇用形態の見直し」など、企業努力の裏にある“しわ寄せ”も見逃せず、今後は給与以外の手段を含めた、より持続可能な形での従業員支援が求められるフェーズに入っていると言えます。
企業規模によって賃上げの対応力に差が出る今、福利厚生や働き方の柔軟性といった非金銭的価値の見直しが、今後の人材戦略の鍵を握ることになりそうです。
<調査概要>
調査名 : 賃上げ疲れ実態調査2025
調査主体 : 株式会社エデンレッドジャパン
調査方法 : WEBアンケート方式
調査期間 : 2025年4月11日(金)~2025年4月15日(火)
調査対象および有効回答数 : 2025年に賃上げを実施する企業の経営者・人事担当者 514名
構成/こじへい