
言葉を魔法のように扱い、人々を魅了する能力に長けた一流のコピーライターにビジネスパーソンが学ぶことは多い。
営業メール、企画書、プレゼンテーション…私たちビジネスパーソンは常に言葉に翻弄をされているからだ。
広告会社電通で10年以上もコピーライターとして働く福岡さんもそうした言葉のプロの1人だが、彼女は「言葉の力を信じすぎない」と語る。
その理由とは?
様々なクリエイターからビジネスの真髄を学ぶ「プロに学ぶビジネスハック」シリーズ第3弾は、一流コピーライターに話を聞いた。
言葉選びで本質は変わらない
ーーなぜ、私の企画書が通らないのか
ビジネスパーソンなら誰もが一度は考えたことがあるだろう。
企画が悪いのか、内容が悪いのか、あるいは伝え方が悪いのか。
「私の経験上、企画書が相手にうまく響かないのは伝え方、つまり言葉に問題があるのではなく、それよりもっと前にある伝えたいことの本質を捉えられていないことが多いと思います」
コピーライターは企画を一本通すために、時には百本以上ものコピーを考えることがあるという。
「私たちコピーライターは、企画が1度通らなかったからと言って、諦めない癖がついているかもしれません。最後まで少しでもより良くすべく、企画を練り続けます。
だからこそ言えるのが、『小さな修正で企画書は変わらない』ということです。
私自身の経験からも、表面的な伝え方よりも、本当に伝えたいことを見直す必要がある。もしくは、企画を自分自身が理解しきれておらず本質にたどり着けていないことがあると思います。
コピーライターがこのようなことを言うのはおかしいかもしれませんが、言葉に向き合えば向き合うほど、言葉を魔法のように捉えないことが大事だと思います。
コピーにしろ企画書にしろ大切なのは”どのように言うか”ではなく”何を言うか”です」
まずは左脳(理論)で情報を整理することが大切だ。ということか。
”人の心を動かす言葉”3つの鉄則
本質を理解することがステップゼロ、これがクリアできれば、次は言葉選びだ。
福岡さんは”人の心を動かす言葉”は次の3つの要素が大切だと語る。
①本音で語る
「本質を理解する、から繋がる考え方なのですが誇張や嘘と捉えられるような言葉選びをしていないか、チェックしてみてください。
もちろん、誇張しよう!とはじめから思う人は少ないかもしれませんが、実は企画書やコピーには無意識のうちに誇張表現や、結果嘘になってしまう表現が含まれてしまうことがあるのです。
例えば良く見せようとして大袈裟な表現になってしまったり、現実離れした理想を語りすぎてしまったりすることもあると思います」(福岡さん)
②自分の嗅覚を大切にする
「テンプレートや一般論であれば誰でも言えます。私にしか言えないことを大事にして、そのために、『これ好きかも』といった自分の嗅覚は何よりも大切にしてあげてください。
人間は感情の生き物です。コピーも企画書も、最後は人の感情にどれだけ届くかが大事。
自分の気持ちに従ったものでないものは、誰の心にも届かないと思うんです。
客観的な事実の方が高尚なものと思う人もいるかもしれません。しかし、見ず知らずの誰かの体験よりも、自分の体験や経験に基づいた言葉の方が周りの共感を呼ぶのではないでしょうか。嬉しかったこと、悲しかったこと、悔しかったこと…その気持ちが企画を具体にしてくれる。一段階高めてくれる。私はそう信じています。
私も新人の頃は『あなた自身はどう思うの?』とよく聞かれました。当時はこの質問の意味があまり理解できませんでしたが、今となってはこの質問の価値がよくわかります。 是非、『自分はどう思う?』とツッコミしながら企画をすすめてみてください」(福岡さん)
③相手を「ちょっと疲れている人」と考える
「自分が理解をしているから相手も同じくらい理解しているだろう、という思い込みを無意識にしがちです。
私自身、コピーライターになる前「読み手は自分より賢いだろうから分かるだろう」とどこか思ってしまっていることがありました。内容もそうですが専門用語や難しいカタカナ言葉を使ってしまったりもそうですね。
受け手はちょっと疲れている人と考えましょう。
広告は見てもらえないのが前提ですし、ぼーっとしている時に見ることが多いですよね。
なので、広告をつくる時に常に念頭に置いている考え方です。
企画書も似ていると捉えてもいいかもしれません。
相手はあなたの企画を初めて目にするので、いつもよりも丁寧に、相手はちょっと疲れているかもくらいの気遣いで言葉を選ぶと、相手も自然と受け取れるはず。
ここでもしつこくツッコミを。
『これパッと見た瞬間、わかる?』『寝起きでもわかる?』このポイントでチェックすると良いかもしれません」(福岡さん)
今回、教えてくれたプロはこの方
福岡 万里子さん
株式会社 電通
第1CRプランニング局 コピーライター
1989年東京都生まれ。ブランドの本質に向き合うこと、時代の空気をつかまえることを大事にしながらコピーライティング、コンセプトメイキングに携わる。主な仕事は、JR GROUP「MY JAPAN RAILWAY」三菱地所「三菱地所と次にいこう」、伊勢半「顔採用、はじめます」など。Cannes Lionsグランプリ、The One Showグランプリ、D&ADブラックペンシル、TCC新人賞、新聞広告賞など受賞。2025年Cannes Lions審査員。
取材・文/峯亮佑