「後輩Jリーガーを育てて、セカンドキャリアのサポートをしたい」
確かにサッカー選手が引退後、すぐにセカンドキャリアに移行するのは難しい。昨今は本田圭佑(NowDo社長)や大津祐樹(ASSIST社長)のように現役時代から起業し、プレーヤーの第一線を離れた後、すぐさまビジネスの世界で活躍するといった剛腕もいるが、大半の選手は目の前のプレーに全力を注いている。だからこそ、現役生活に終止符を打った後の身の振り方を考えるのは容易なことではないのだ。
中村自身も最初は豆腐スイーツを主とした大豆販売を手がけるべくチャレンジしたが、思ったようには進まなかった。そういう挫折を経て、彼は「業態変更」という賢い判断をして、現在の団子ビジネスで一定の成果を残せるようになり、一度は距離を置いていたサッカー指導の方にも再び関わる余裕を持てるようになったのだ。その経験を後輩たちに伝え、彼らが生計を立てる道筋を示していくことができれば、中村にとってはベストなシナリオに違いない。
「スタジアムでの団子販売というのは、1個数百円を積み上げていく堅実な仕事。それを週末はこの仕事をやって、それ以外の平日にはサッカー指導など自分で見つけた別の仕事を掛け持ちするようになれば、引退直後のJリーガーも生活できるのかなと思います。僕はそういう道を後輩たちに作りたいですし、少しでも安心して生活できるような手助けをしたいと考えています。
僕は1985年生まれの今年40歳ですけど、若いサポーターから見れば、現役時代の自分を知らないというケースも今後は増えてくるでしょう。そういった時間の流れもありますから、やっぱり若い世代の人材に仕事を覚えてもらって、手伝ってもらえる体制を作っておきたい。そうできるように、これからはアビスパ、レノファ山口以外にも販売網を拡大できるように頑張っていきます」
現役時代からアグレッシブなプレースタイルで人々を魅了した中村だが、引退後の頑張りは多くの人々の心を揺さぶるはず。福岡を訪れるチャンスがあるなら、ベスト電器スタジアムや東区和白丘の彼の店に足を運んで、人気の「みたらし団子」や「いちご大福」などに舌鼓を打ってみてはいかがだろうか。(本文中敬称略)
4月12日の横浜F・マリノス戦では、元アビスパの山瀬功治(右端)、坂田大輔(左から2人目)、神山とのトークショーにも参加した(筆者撮影)
取材・文/元川悦子
長野県松本深志高等学校、千葉大学法経学部卒業後、日本海事新聞を経て1994年からフリー・ライターとなる。日本代表に関しては特に精力的な取材を行っており、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは1994年アメリカ大会から2014年ブラジル大会まで6大会連続で現地へ赴いている。著作は『U−22フィリップトルシエとプラチナエイジの419日』(小学館)、『蹴音』(主婦の友)『僕らがサッカーボーイズだった頃2 プロサッカー選手のジュニア時代」(カンゼン)『勝利の街に響け凱歌 松本山雅という奇跡のクラブ』(汐文社)ほか多数。