内定という言葉の意味をなんとなく理解しているものの、採用や内々定との違いを明確に説明できる方は少ないのではないでしょうか。今回は内定の定義や採用・内々定との違い、内定から入社までの流れ、内定を出す際の注意点などを解説します。
目次
内定とは

内定とは、一般的に企業が求職者に対して採用の意思を正式に伝えることで、就職・転職活動の一区切りとなる段階です。
求職者の意思にかかわらず、企業側の意思が示された段階で「内定が出た」といわれることが一般的ですが、法的には求職者も入社する旨を伝え、双方の合意形成がなされて労働契約が成立した状態を指します。
参考:デジタル大辞泉
■企業が内定を出す目的
企業が内定を出す主な目的は、入社に向けた準備期間を設けるためです。内定を出すことで、企業側は採用が決まった人材の配属先を検討したり、入社手続きの段階取りを調整したりする時間を確保できます。
一方で内定者側も、内定によって就職活動を終え、現職の退職準備や引っ越しなどを進められます。双方がスムーズなスタートを切るために、内定は重要な役割を果たしているといえるでしょう。
■内定式とは
内定式とは、企業が内定を出す学生に対して実施する公式な式典です。多くの場合、卒業・修了年度の10月1日以降に行われ、内定通知の授与や今後のスケジュール説明、会社紹介などが行われます。
企業側は内定者との関係性を強化するとともに、「自分はこの会社に入社するのだ」という学生の意識を高める効果もあります。
■内定通知書とは
内定通知書とは、企業が応募者に内定を正式に伝え、労働契約の成立を確認・記録するために発行される書類です。 通常は、採用後に入社の意思を確認して渡されます。一般的に、内定通知書に記載されている内容は、以下のとおりです。
- 日付
- 企業名と代表取締役の氏名
- 応募に対するお礼
- 採用内定の通知
- 入社年月日
- 入社までに提出する書類の案内
- 内定が取り消しになるケース
- 担当者の問い合わせ先
内定通知書は、発行した時点で応募者が入社する意思の確認がなされているため、送付された段階で労働契約が成立すると解釈されることが一般的です。そのため、トラブルを避けるために記録を残す意味でも使用されます。
ただし、すべての企業で内定通知書を発行するわけではありません。通知書を発行せず、口頭やメールのみで通知する企業もあります。
内定と採用・内々定との違い

ここからは、内定と混同しやすい「採用」や「内々定」との違いを解説します。認識に誤りがあると、企業と求職者の間でトラブルにもつながりかねません。それぞれの違いを見ていきましょう。
■採用との違い
採用と内定の違いは、主に「求職者側の入社の意思」と「労働契約の成立」の有無にあります。
法的に見ると、内定は企業と求職者間の労働契約締結の合意と解釈されます。一方で、採用は企業が求職者に採用の意思を伝えているのみの状態です。また、内定では労働契約が成立しているのに対し、採用では労働契約は成立していません。
採用選考は、以下のような順番で進みます。
- 採用
- 採用通知
- 内定
この順番からもわかるように、採用は企業が求職者に単に「合格」を知らせている段階であり、採用の知らせを受けた後、求職者も入社の意思を示すと内定となることがポイントです。ただし、採用と内定を区別しない企業もあります。
■内々定との違い
内定と内々定の主な違いも、主に「求職者側の入社の意思」と「労働契約の成立」の有無にあるといえるでしょう。内々定とは、企業が求職者に対して「内定を予定している」旨を、口頭やメールで伝えている状態です。
新卒採用において、学生の内定解禁日である「卒業年度の10月1日以前」に、優秀な人材を確保するために内々定が出るケースが見られます。労働契約が成立していないことから学生側も求職者側も容易に取り消せるものの、一方的な取り消しはマイナスなイメージがつくため、通常は内々定であっても、企業が簡単に取り消すことはありません。
中途採用の場合は、内定を出す時期に決まりがなく、選考から入社までの期間も短いため、内々定を出す企業は少ない傾向にあります。
内定・内々定の時期

内定や内々定が出されるタイミングは、新卒と中途採用では大きく異なります。中途採用で内々定を出す企業は少なく、内定を出す時期もとくに決まっていません。
一方、新卒採用ではスケジュールが事前に設定されており、内々定が3月〜9月頃にかけて、内定は卒業年度の10月1日以降に出ることが一般的です。
内定から入社までの一般的な流れ

内定から入社までの一般的な流れは、以下のとおりです。
- 最終面接終了後に採用(内定)の旨を伝える
- 求職者に採用(内定)が承諾される
- 内定通知書など関連書類を送付する
- 内定承諾書を受け取る
- 内定者が入社する
それぞれの内容を解説します。
■1.最終面接終了後に採用(内定)の旨を伝える
最終面接が終わると、多くの場合は企業から採用内定の連絡が届きます。連絡手段は企業によって異なり、書面で通知が届くケースもあれば、電話やメールなどのケースも珍しくありません。
口頭での連絡の場合、記録がないためトラブルになる可能性があるため、注意が必要です。
■2.応募者に採用(内定)が承諾される
企業から採用(内定)通知を受け取った求職者が入社を承諾する場合は、その旨を伝えます。承諾を連絡する方法は、企業によって異なります。内定を承諾しない求職者は、期限までに辞退の連絡をしなければなりません。
■3.内定通知書など関連書類を送付する
求職者から内定承諾の連絡を受けた企業は、内定通知書などの関連書類を送付します。このときに企業が送付する書類は、主に以下のとおりです。
- 内定通知書
- 内定承諾書
- 労働条件通知書
労働条件通知書は、入社日や給与、労働時間などの労働条件が記載されている書類です。求職者に入社前に内容を確認してもらい、必要に応じて給与や条件について調整を行います。
■4.内定承諾書を受け取る
内定者から提出された内定承諾書を受け取ります。なお、内定者が内定承諾書を提出した段階で、入社に法的拘束力が生じるわけではありません。
あくまでも入社への意思を表示する書類であり、内定承諾書が提出され雇用契約が成立した場合でも、入社の14日前までであれば、内定者は一方的に入社を辞退することが可能です。
■5.内定者が入社する
内定者が安心して入社日を迎えられるよう、企業側は必要書類や持ち物について事前に明確に案内しておくことが大切です。入社後に社会保険や雇用保険の手続きがある場合は、とくに必要書類について、詳細に案内しておく必要があります。
内定取り消し・内定辞退とは

企業都合で内定を解消する場合は「内定取り消し」、求職者都合で内定を解消する場合は「内定辞退」と呼びます。とくに企業側の都合による内定取り消しについては、慎重に行わなければなければなりません。それぞれの内容について解説します。
■内定取り消しとは
内定取り消しとは、企業が一方的に内定を取り消す行為のことです。内定が出た時点で労働契約が成立しているとされており、この契約関係を企業側の都合で解消する場合は、解雇と同様の効果が発生するため、慰謝料や一定期間の給与に相当する金銭を請求されることもあります。
内定取り消しは法律に抵触するリスクもあるため、内定取り消しに関わる「労働契約法第16条」の内容を知っておきましょう。労働契約法第16条では、以下のように定められています。
“解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。”
つまり、内定取り消しの理由は、企業側の都合だけではなく、合理的なものかつ社会通念上相当な理由がないと認められません。
引用:総務省デジタル庁「e-gov法令検索 労働契約法」
■内定辞退とは
内定辞退とは、企業が内定通知を交付し、求職者が同意の意思を示した後で、内定者の都合によって内定を辞退することです。
求職者が内定を承諾した時点で労働契約が成立しているため、法律上は労働契約の解約に該当します。ただし、民法第627条第1項に定められた「退職の自由」により、労働契約の解約申し入れから2週間を経過することで雇用が終了します。
参照元:総務省デジタル庁「e-gov法令検索 民法」
内定取り消しが有効となる可能性のあるケース

内定取り消しが有効となる可能性のあるケースは、以下のとおりです。ただし、いずれも必ずしも内定取り消しが認められるわけではありません。内定取り消しを検討する際は、必ず弁護士や社労士に相談してください。
- 内定者が卒業できなかった
- 内定者の経歴詐称が見つかった
- 内定後に重大な病気に罹患・障害を負った
- 内定後に犯罪を犯した
- 業務上必要な資格を取得していなかった
- 内定通知書などに記載の内定取り消し事由に該当した
- 深刻な経営難に陥った
それぞれの内容を見ていきましょう。
■内定者が卒業できなかった
新卒採用において、大学を卒業することが前提で内定を出している場合、内定者が卒業要件を満たせなかった時点で内定を取り消すことは、法的にも有効と判断される可能性が高いです。
通常、入社後は職務に専念することが求められます。大学に通いながら仕事をすることは、現実的ではありません。そのため、このようなケースは内定取り消しは適法と見なされると考えられます。
ただし、卒業までに取得しなければならない単位がごくわずかであったり、就業時間外に少しだけ大学に通えば卒業できたりする場合は、内定取り消しが無効と判断される場合もある点に注意しましょう。内定取り消しの可否は状況によって異なるため、企業側にも慎重な判断が求められます。
■内定者の経歴詐称が見つかった
内定者が提出した履歴書やエントリーシートなどに虚偽の情報が含まれており、経歴詐称が見つかり、その内容が重大であると判断されれば、内定取り消しが有効となる可能性があります。とくに、業務に必要な経歴や資格に関する詐称や学歴詐称については、内定取り消しが認められる可能性が高いです。
ただし、経歴詐称の重大さによっては、内定取り消しが認められないこともある点を知っておきましょう。たとえば、業務や入社要件に関係のない経歴詐称の場合は、内定取り消しまでは認められないケースが多いといえるでしょう。
■内定後に重大な病気に罹患・障害を負った
内定後に内定者が重大な病気を発症したり、大きな障害を負ったりした場合、企業側が内定を取り消したとしても、有効と判断される場合があります。ただし、就労が困難と認められるようなケースに限られることに注意が必要です。
たとえば、過去に内定者がHIVに罹患しているという理由で内定取り消しを行った企業に対して、裁判では取り消しは違法という結果が下されています。企業は、病名や障害が就労にどの程度の影響を及ぼすかを踏まえて対応することが重要です。
■内定後に犯罪を犯した
内定者が内定後に犯罪行為をした場合も、その事実が企業の社会的評価や信頼性に悪影響を及ぼすようなケースでは、内定取り消しが有効と判断される可能性が高いでしょう。
採用選考以前の犯罪行為については、事前に知らされていれば選考での判断材料となります。しかし、企業が内定後の犯罪行為を予想することは困難です。
実際に、内定者が現行犯逮捕され起訴猶予処分を受けたことが明らかになり、内定取り消しをしたケースは適法と認められています。
■業務上必要な資格を取得していなかった
内定取り消しが有効となる可能性のあるケースとして、内定者が業務上必要な資格を取得していなかったケースも挙げられるでしょう。
業務に必要な資格を取得できておらず、予定されていた業務に就けない場合は、内定取り消しが認められることがあります。
■内定通知書などに記載の内定取り消し事由に該当した
内定通知書などに記載されている内定取り消し事由に該当した場合も、内定取り消しが有効と判断される可能性があります。
企業は採用の際に通常「内定通知書」を渡し、内定者側は「入社承諾書」や「誓約書」を提出する形で双方の意思確認が行われ、これらの書類には、内定の取り消し事由が記載されていることが一般的です。
これらの書類に内定取り消し事由が明確に記載されていた場合、それに該当したことを理由とした内定の取り消しは、原則として適法です。
■深刻な経営難に陥った
内定後に企業が深刻な経営難に陥り、内定を取り消したケースで、それが「整理解雇」に相当すると認められた場合は、内定取り消しが有効とされる可能性が高いです。
ただし、整理解雇には以下のような4つの要件があり、これらを総合的に考慮し判断されることを押さえておきましょう。
- 経営上の必要性(人員削減が必要)
- 解雇回避努力(解雇以外の経費削減手段をすでに講じている)
- 被解雇者選定の合理性(解雇の対象者が合理的基準で選定されている)
- 手続きの相当性(対象者や組合に十分説明し、協議している)
整理解雇と認められるには、社内であらゆる経費削減の施策を実施し、内定者には相応の補償を提示して話し合いをするといったように、一方的な内定取り消しを回避する努力をしていなければなりません。それでも雇用することが困難な場合、内定の取り消しが認められます。
内定を出す際の注意点

企業が内定を出す際に注意すべきなのは、「応募者の能力や性格などを十分に確認する
」「内定辞退を想定した採用計画を立案する」の2点です。それぞれの内容を解説します。
■応募者の能力や性格などを十分に確認する
内定を出す際は、応募者の能力や性格などを十分に確認することが重要です。基本的に、内定の取り消しが法的に認められるのは、その理由について選考過程において把握できず、かつ把握できる状況にない場合です。
つまり、十分な審査を怠ったために見落とした事情に基づく内定取り消しは認められません。内定取り消しが制限されていることを考慮し、多角的な選考方法を採用したり、コミュニケーションを取る機会を増やしたりして、求職者の業務適性や性格などを可能な限り審査する必要があります。
■内定辞退を想定した採用計画を立案する
企業が内定を出す際には、内定辞退が一定数発生することを前提とした採用計画を立てておくことが大切です。
内定者による辞退は法律上比較的柔軟に認められているため、企業側は内定辞退が出ることをあらかじめ見越した採用戦略を検討しなければなりません。
毎年多くの内定者を出す企業では、例年の内定辞退者の数から見込み数を計算し、その人数を織り込んだ人数を採用することがポイントです。一方、少人数のみを採用する企業は、可能な限り内定辞退者が出ないような戦略を立てる必要があるでしょう。たとえば、内定者の心理的なケアをこまめに行い、入社前から会社への帰属意識を醸成するための取り組みが求められます。
内定の定義や流れ、注意点を押さえよう

内定とは、一般的には正式発表前に内々で決まることを意味する言葉であり、採用活動では、企業が求職者に採用の意思表示をした状態を指します。
企業が内定を出す際は、応募者の能力や性格などを十分に確認することや、内定辞退を想定した採用計画を立案することを意識しましょう。内定に関わる法的なリスクを考慮し、慎重かつ適切な対応を意識することが大切です。
構成/橘 真咲







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