
4月4~6日の3日間にわたって鈴鹿サーキットで開催されたF1日本グランプリ。日本人F1ドライバーである角田裕毅選手がトップチームであるレッドブルに移籍したこともあり、入場者数は3日間合計で26万6000人を記録。2009年に鈴鹿サーキット開催に戻って以降の最高入場者数を更新した。
ところで、今回のレースの正式名称をご存じだろうか? F1世界選手権の第3戦となる今回のレース名は「2025 FIA F1世界選手権シリーズ レノボ 日本グランプリレース」。そう、本年のF1日本グランプリのタイトルスポンサーを務めているのはPC、スマートフォン、サーバー機器などのITハードウェアを手掛ける「レノボ」なのだ。
レノボとF1のただならぬ関係とは?
レノボといえば「ThinkPad」はもちろん、NECのPC事業、富士通のPC事業も傘下に収め、国内市場では40%近いトップシェアを誇っているITメーカーだ。もちろんグループ全体でも世界最大のPCメーカーである。
だが、そんなレノボがなぜF1?と疑問に持つ方もいるだろう。実はレノボは2007年にウイリアムズF1チームにスポンサーとして参画したのを皮切りに2024年の9月からはF1のグローバル・パートナーを務めているのだ。今回はそういった事情もあり、レノボがF1日本グランプリのタイトルスポンサーとなっていたわけだ。
ではレノボは、F1に何を提供しているのだろうか?
レノボはノート PC、ワークステーション、デスクトップ PC、モニター、タブレット、モトローラのスマートフォンなどF1 スタッフに高性能機器を提供し、F1 が最高品質の放送制作をサポートしている。世界中のファンへ届けられるF1のライブ配信を支え、世界中の何百万人ものファンに F1 の興奮と感動を届けている。
1つのグランプリで500TB!桁違いのF1のデータ量
F1はグローバルなスポーツであり、近年ではNetflixのドキュメンタリーシリーズ『Formula1:栄光のグランプリ』の人気もあって(ちなみ筆者もこの作品の大ファンです)、世界中でファンが急拡大している。レースの模様は全世界に配信され、多くのファンがレースやライブ配信を視聴している。今回の取材ではまさにその舞台裏を取材することができた。
その舞台となっているのがETC(イベント・テクニカルセンター)だ。耳慣れない言葉かと思うが、ETCは世界で最も大きく、最も複雑な可搬式テクノロジー施設だという。組み立てられると、25mk×15mの面積をカバーし、750個の機器が収容され、40以上の特注ソフトウェアシステムが実行されている。実際に目にしてみるとこれだけの施設がF1のレースに合わせて、世界各地にあるサーキットへの移動、そこで設置、撤収を繰り返しているということに度肝を抜かれる。
サーキットに28台設置される中継カメラ、ヘリコプターカメラ、路面埋め込みカメラ、車両に設置されているオンボードカメラなど無数のカメラからの動画データ、最大150個のマイク、サーキットで収集されるチーム無線、ラップタイムなどのデータは一度すべてこのETCに集められる。そして、これらの動画や計測されたすべてのデータがETCからイギリス・ビギンヒルにある本部MTC(メディア・テクニカルセンター)に送られる。そこで編集作業をした後に、国際映像として各国のテレビ局や配信サービスなどへストリーミング映像として配信されているのだ。
1つのグランプリで、転送されるデータ量はなんと合計500TBにもなるんだとか。それだけのデータを処理しているということにも改めて驚かされるが、自分が何気なくみていたF1中継の裏でそんな膨大なデータが世界を飛び交っていたことに愕然とした。実はサーキットにはクルマだけでなく、データも飛び交っているのだ。どうりで最近の映像では様々なデータが表示されるし、公式のアプリでは細かいデータまで閲覧することができるわけだ。
イギリス ビギンヒルにあるMTC。ここで画像のスイッチングや編集作業が行なわれている
写真提供:レノボ
F1を支えるテクノロジーの力
このようにETCやMTC にIT機器を提供し、F1のライブ中継やライブデータ配信を支えているのがテクノロジーパートナーでもあるレノボなのだ。安定性と耐久性に定評のある「ThinkPad」を始め、様々な製品がF1関係者をサポートしている。各国への移動や環境の違いなど過酷な環境の中で、毎回ファンのためにきちんとレース映像を届けてくれるレノボの製品やスタッフの皆さんには感謝しかない。
さらに今回は具体的な事例は見られなかったが、F1は今後レノボ共にAIの活用にも積極的に取り組むという。
レノボ グローバル・スポンサーシップ&アクティベーション ララ・ロディーニ氏
テクノロジーの面でも最先端を走り続けるF1はただのモータースポーツ以上の価値をスポンサーに還元しているといえるだろう。レース前日の4月3日に開催された記者説明会では、レノボ グローバル・スポンサーシップ&アクティベーション ララ・ロディーニ氏がレノボの技術活用のショーケースとしてF1は最適の機会だとも説明した。
F1はイノベーティブなスポーツであり、テクノロジーも常に革新を続けていく必要がある。今回の取材を通して、普段何気なく見ているF1の中継だが、テクノロジーやデータ視点で見るとまた違う面白さをみつけることができた。
取材・文/石﨑寛明(DIME編集部)