
職場での世代間ギャップはいつの時代にもあったが、現在の年長者世代と、「Z世代」の仕事に対する価値観には大きな乖離がある。Z世代にとって「はたらく」とは何か。アメリカ在住のZ世代が記す仕事と働き方についての時事エッセイ。
【Z世代の〈はたらく〉再定義】雇用が約束された時代から自立して働く時代へ過渡期を生きる
アメリカのZ世代の間で、フリーランスや副業を活用して早期退職したり、「ひとつの仕事」だけに頼らず経済的自立を目指したりする動きが強まっている。この背景には、経済的な不安定さ、自立的な働き方への志向、そして収入源の多様化による可能性の広がりが挙げられる。
オンライン金融サービスの「LendingTree」の調査によると、18歳から26歳の若年層のうち、55%が副業をしており、特に男性は58%、女性は51%の割合で副業をしていることが明らかになった。また、同じく金融サービスを展開する「Bankrate」の調査でも、Z世代およびミレニアル世代の約半数が副業をしているとされる。どの業界においても雇用が不安定であるのと同時に、家賃や物価の高騰が懸念として強まる一方である。収入が増えることで生活に余裕が生まれることも確かだが、未来への予測不可能性や不安も大きな糧のひとつとなっている。結果として「本業」の仕事一本に絞らず、古着の転売からインフルエンサー業まで、「スマホひとつ」で始められる副業に関心が集まっているのだ。
フリーランス向けのプラットフォームの発展も、この流れを加速させている。「Upwork」や「Fiverr」といったオンラインプラットフォームでは、グラフィックデザイン、執筆、SNS運営などのスキルを生かした副業が気楽に始められる。また、「Etsy」や「Shopify」といったECサイトでは、世界中の顧客に向けて商品やサービスを販売できる環境が整っていることも、Z世代における副業率の高さに影響を与えていると言われている。
さらに、Z世代の経済的自立への関心を後押ししているのが、TikTokなどのSNSで活躍する金融系インフルエンサーである。例えば、元ウォール街のトレーダーであり、現在は「Your Rich BFF(あなたのお金持ちの親友)」のアカウント運用で知られるヴィヴィアン・トゥ(Vivian Tu)。彼女はInstagram上だけでも300万人以上のフォロワーを持ち、貯金や投資、予算管理についてのアドバイスを提供している。こうした「お金のアドバイスをしてくれるインフルエンサー」の存在や、気軽に投資と貯蓄について学べるコンテンツは、Z世代の金融リテラシーと貯蓄への意欲向上に寄与していると考えられる。
経済的な側面も、Z世代の副業への意欲を高めている。ある調査によると、Z世代の多くは「経済的に成功した」と感じるためには年収50万ドル(約7500万円)が必要だと考えている。このように「成功」のハードルも高まっている中で、従来想像するような「平均的な会社員」ではこの額を稼ぐことは困難だ。だからこそ、副業で投資できる資金を増やし、不労所得を得ようとするなど、「金銭面でのハック」を模索する若者も多い。
Z世代やミレニアル世代の間では、「マイクロリタイアメント(Micro retirement)」という新しいライフスタイルも、徐々に注目を集めている。定年退職まで待つのではなく、キャリアの途中で長期休暇を取り、その時間を旅行や趣味、副業などにあてるという考え方である。自分の人生にとって「本当に何が大切」なのかを定期的に考え直したり、自分のために時間を使ったりすることによって、企業勤めの生活の中で起きがちな燃え尽き症候群を避けることができる、というのもメリットとして挙げられている。
いつ職を失うかわからず、大学を卒業したとしても簡単に雇用が約束されるわけではないことが「当たり前」になりつつあるZ世代にとって、〈はたらく〉こととは、単に生活のための手段ではない。自分のアイデンティティ形成にとって重要なステップでもあり、経済的自由や生活の自由を手に入れ、より充実した人生を送るための選択肢のひとつでもあるのだ。
文/竹田ダニエル
●竹田ダニエル|1997年生まれ、カリフォルニア出身、在住。「音楽と社会」を結びつける活動を行ない、日本と海外のアーティストをつなげるエージェントとしても活躍する。2022年11月には、文芸誌『群像』での連載をまとめた初の著書『世界と私のA to Z』(講談社)を上梓。そのほか、多くのメディアで執筆している。