
請負とは、成果物の完成に対して報酬が支払われる契約のことをいいます。派遣や業務委託とは異なる特徴があるため、契約内容や責任範囲を正しく理解し、適切に活用することが重要です。
目次
請負とは?
請負とは、建設業界をはじめ、さまざまな分野で活用されている契約形態の一つです。まずは、基本的な仕組みや特徴などについて見ていきましょう。
■仕事の成果に対して報酬を受ける契約形態
請負契約とは、仕事の完成を目的とした契約形態のことです。民法第632条では、請負人(受注者)が特定の仕事を完成させることを約束し、注文者(発注者)がその成果に対して報酬を支払うと定義されています。
例えば、建設工事では、建設会社が発注者の要望に基づいて建物を完成させ、その成果物に対して報酬を受け取る契約のことです。ほかにも、コンテンツ制作や機械の修理など、有形・無形を問わずさまざまな仕事が対象となります。
■建設業界でよく使われる理由
請負は、特に建設業界で広く活用されている契約形態です。建物の完成を重視する業界の特性に合っており、建設業法第24条でも、報酬を受けて工事を完成させる契約は建設工事の請負とされています。
建設業界における請負の歴史は古く、平安・鎌倉時代の寺院建築にまでさかのぼります。制度としては明治時代に民法で整備され、現在の大手ゼネコンが請負業に進出したのもこの頃です。
現代では、ゼネコンが全体の工事を受注し、専門工事を下請けのサブコンに発注する『ピラミッド構造』が一般的です。この仕組みによって、発注者は一括で工事を依頼でき、各事業者は専門分野に集中しやすくなります。
請負と他の契約形態との違い
仕事の契約形態には請負以外にも、派遣や業務委託などの種類があります。以下で、それぞれの契約形態との違いを確認しておきましょう。
■請負と派遣の違い
派遣も外部リソースを活用する契約形態ですが、請負とは契約の目的や業務の進め方に大きな違いがあります。派遣契約は、労働力の提供を目的とし、派遣先企業が派遣労働者に対して直接指揮命令を出せるのが特徴です。
派遣された労働者は、その指示に従って業務を進め、労働時間に応じて報酬が発生します。一方、請負契約では、このような日々の業務指示を発注者が行うことはできません。業務の進め方や作業の手順、人員の配置などは、全て請負業者の判断で決められます。
また、派遣は同じ部署での勤務が原則3年までと決まっているのに対し、請負は業務の内容・成果に応じて柔軟に設定できるという違いもあります。
■請負と業務委託との違い
業務委託契約と請負契約は混同されがちですが、両者は厳密には異なる性質を持っています。業務委託契約という言葉には法律上の定義がなく、実務上は請負契約・委任契約・準委任契約を総称する用語として使われています。
このうち、成果物の完成を目的とする契約が請負です。一方、委任契約や準委任契約では、成果ではなく、作業や対応といった行為そのものが契約の対象になります。
代表例としては、コンサルティングや経理業務、窓口対応などが挙げられます。この場合、契約相手は誠実に業務に当たる義務を負いますが、必ずしも成果の達成までは求められません。
発注者から見た請負のメリット・デメリット
請負には、発注者にとって利点もあれば、注意すべき点もあります。発注者側のメリットとデメリットを見ていきましょう。
■発注者側のメリット
発注者側の最大のメリットは、コストの効率化です。必要な業務だけを外部に委託できるため、正社員の雇用と比べて人件費を抑えることが可能です。
プロジェクト単位での発注によって、業務量の変動に対応しやすいというメリットがあります。また、成果物に対して報酬を支払うので、日々の業務指示や管理が不要となり、社内の工数削減につながるでしょう。
さらに、自社で対応できない専門的な業務に対し、外部のプロフェッショナルのスキルを活用することで、品質を確保しつつ事業を効率的に進められます。
■発注者側のデメリット
発注後の仕様変更が難しい点が、デメリットとして挙げられます。契約時に定めた内容をもとに業務が進むため、途中で変更があった場合に柔軟に対応しづらく、追加費用が発生することもあります。
また、業務を外部に委ねることで、社内にノウハウが蓄積されにくくなる点も課題です。将来的に内製化を検討しても、移行がスムーズに進まない可能性があるでしょう。
さらに、成果物の品質が、受注者のスキルや管理体制に大きく左右されることもあります。発注者が作業過程を細かく把握できないため、完成後に期待とズレが生じる恐れもあります。
受注者から見た請負のメリット・デメリット
請負契約は、受注する側にとってもさまざまなメリット・デメリットがあります。ここでは、受注者が知っておくべき重要なポイントを確認していきましょう。
■受注者側のメリット
受注者にとっての大きなメリットは、業務の進め方や進捗管理における自由度の高さです。請負契約では、仕様や納期は発注者が決めますが、具体的な進め方は受注者の裁量に委ねられます。
そのため、自社の専門性を生かし、効率的な方法で作業をすることが可能です。また、成果物に対する報酬が事前に決まっているため、業務を効率良く進めれば、高い利益を得ることも期待できます。
さらに、大規模な案件では、一部を他社に再委託するという選択肢もあります。専門性を補い合いながら、高品質な成果物を提供できる点も、受注者にとっての強みといえるでしょう。
■受注者側のデメリット
受注者側のデメリットの中でも大きいのは、収益が不安定になりやすい点です。報酬があらかじめ固定されているため、作業効率が悪かったり、予期せぬトラブルが起きたりすると、時間・コストが膨らみ収益を圧迫する可能性があるでしょう。
また、請負は案件ごとの契約となるため、仕事の継続性が保証されているわけではありません。中小企業やフリーランスの場合、受注が途切れるだけでも経営に直接影響が及びます。
さらに、納品物が契約内容と一致しないと判断された場合には、損害賠償や修正対応を求められるなど、信用に関わるリスクもあります。
請負契約で押さえておくべきポイント
請負契約を締結する際は、トラブルを未然に防ぎ円滑な業務遂行を実現するために、いくつかの重要なポイントを押さえておくことが必要です。請負契約で特に注意すべきポイントを、三つの観点から解説します。
■請負契約書に記載が必要な項目
請負契約では、契約書を交わしておくことが重要です。契約書には、成果物の内容や報酬、責任範囲などを明確に記載する必要があります。主な記載項目は、以下の通りです。
- 仕事の内容・範囲:成果物の種類や業務の範囲、要求される品質や仕様など
- 禁止事項:受注者に対する禁止事項
- 納期:成果物の納品期限
- 納品・検収方法:成果物の納品方法や検収の手順
- 報酬:報酬金の額・支払い方法や期日など
- 知的財産の権利:納品物の権利の帰属先
- 再委託:業務の第三者への再委託の可否
- その他:契約解除の条件・損害賠償の範囲など
これらの項目を明確に記載することで、認識の相違によるトラブルを未然に防げます。自社の業種や契約内容に合ったひな形をもとに、必要な条項を加える形で契約書を作成するとよいでしょう。
■請負契約書に必要な収入印紙
請負契約書は、印紙税法上の課税文書に該当するため、契約金額に応じた収入印紙の貼付が必要です。
- 1万円未満:非課税
- 1万円~100万円以下:200円
- 100万円超~200万円以下:400円
- 200万円超~300万円以下:1,000円
- 300万円超~500万円以下:2,000円
- 500万円超~1,000万円以下:1万円
- 1,000万円超~5,000万円以下:2万円
- 5,000万円超~1億円以下:6万円
- 1億円超~5億円以下:10万円
- 5億円超~10億円以下:20万円
- 10億円超~50億円以下:40万円
- 50億円超~:60万円
- 契約金額未記載のもの:200円
ただし、電子契約システムでの契約締結や、税務署長の承認を受けた申告納付の場合、収入印紙は不要です。
また、契約書の原本が複数部ある場合は、それぞれに印紙を貼付する必要があります。なお、収入印紙を貼付する際は消印が必要です。
■税務・会計上の処理
請負契約の会計処理は、雇用契約とは大きく異なります。支払う費用は『人件費』ではなく、『外注費』『業務委託費』といった勘定科目で処理します。これは、発注者と受注者の間に、雇用関係がないことを示す上で重要なポイントです。
外注費として支払う場合、原則として源泉徴収の対象にはなりません。ただし、原稿料や講演料、デザイン料など一部の業務については、例外的に源泉徴収が必要とされることがあります。
また、消費税の処理にも注意が必要です。外注費には消費税が課税され、その分は原則として仕入税額控除の対象になります。
出典:No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁
請負契約で起こりやすいトラブルと対策
トラブルを防ぐために、請負契約に関する注意点についても知っておきましょう。最後に、起こりやすいトラブルを二つ挙げて解説します。
■契約不適合責任
完成した成果物が契約内容と異なる場合、請負人は『契約不適合責任』を負います。契約不適合責任とは、2020年の民法改正で『瑕疵担保責任』から名称が変わった法的責任です。
契約不適合責任が認められた場合、追完請求(修理や交換の要求)・損害賠償・契約解除などが可能となっており、対応を誤ると大きな損失につながります。
また、不適合があると気付いたら、1年以内にその事実を請負人へ通知する必要があり(民法第637条第1項)、引き渡しから10年を超えると権利は消滅します。責任の範囲や内容は契約書に明記し、実務でも注意深く管理することが重要です。
■偽装請負
偽装請負とは、契約書上は請負でも、実態が労働者派遣に当たるケースを指します。具体的には、発注者が受注者に直接業務指示を出しているような場合です。
このような場合、労働者派遣法違反となり、最大1年の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性もあります。加えて、職業安定法や労働基準法に抵触するリスクも伴います。
偽装請負を避けるには、書面に明記するだけでなく、業務実態においても発注者が受注者の従業員に、直接指示を出さないよう徹底することが重要です。現場のチェックリストを作成し、定期的に確認することで違法状態に陥るリスクを軽減できます。
請負契約について正しく知っておこう
請負は、成果物の完成に対して報酬が支払われる契約のことを指します。派遣契約や業務委託契約とは性質が異なるため、それぞれの違いに注意しましょう。
さまざまなメリット・デメリットがあるため、契約の目的や業務の実態、責任の範囲などを踏まえて、適切な契約形態を選ぶことが大切です。請負契約で起こりやすいトラブルについても、理解を深めておきましょう。
構成/編集部